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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第54話 獣人帝国
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 翌朝起きると、ゆっくり食事をしてから、移動を再開した。

 山の頂上を越えると、木々のあいだにダイナ街道がみえた。

 ほどなくダイナ街道についたので、ここからは徐々にスピードを上げ、最後にはすさまじい速度で二人は疾走した。

 時折追い越した旅人や村人は、恐ろしいものをみる目で二人をみおくった。

 すれちがう行商人や馬車は、遠くから突進してくる二人に気づき、大きく横に移動して道を譲った。

 普通なら、こんなふうに人を驚かせてまで、街道で全力疾走したりしない。だが今回は別だ。不審に思われてもしかたがない。

 昼食は長めに取った。焦る気持ちもあるが、無理をせずきちんと休憩したほうがいい。途中、二度、行き交う人に話しかけて現在地点を確認した。移動は順調だ。

 二度ほど、騎士団に守られた荷馬車隊を追い抜いた。おそらく補給物資を届ける部隊だ。

 日が暮れたので、街道を少し離れて野営をした。ここらあたりは山間部で、獣や魔獣が多い。魔獣除けのポプリを四方に設置した。

「ノーマはずっと王都か?」

「うん。すごく忙しかったらしいよ」

「何で忙しいんだったかな」

「だから本だよ。アーマミール神官様がまとめた、三年前のスカラベル様とシーラばあちゃんの対談記録が、ついに本にまとまったんだ」

「ああ、そんなことを聞いたな。だが、それがそんなに忙しい仕事か? というか、記録をまとめてるのはアーマミールだろう」

「読み返してみると、いろいろ疑問が出てきて、これはこういう書き方でいいか、これはどういう意味だったかって、いちいちノーマに聞いてくるんだ。ノーマのほうでも、すぐに答えられるものはいいけど、いろいろ調べないと答えられないこともあって、大変だったみたいだよ」

「ふうん。そうか」

「それに、ノーマが王都にいることを知った各神殿の施療師さんや神官様が、ノーマの話を聞きたいって言って、押しかけてくるんだ。講座を開いてほしいって、いろんなところからお願いされてるけど、今のところ断ってる」

「そんなことになってたのか」

「宰相様の事前校閲も済んでいて、今は献上本の浄書と装丁が突貫作業で行われてるんだ。まずは王様に献上されて、次にワズロフ家とエレクス神殿に献上されて、少し遅れて各神殿へ奉納されて、それから各地に配られるそうだよ」

「じゃあ、忙しいのも終わりか」

「そうじゃないよ。ノーマ自身の、というかノーマのお父さんの本の刊行が始まるんだ。やっと全体の構成が決まってね。なんと全三十巻。年内には第一巻を刊行することになりそうだって。もっとも、最初の八巻分ほどは、もう中身は筆写師さんが五冊分ずつ中身を作ってるから、ここからは早いみたいだよ」

「ふむ。ノーマがそれでいいならいいが、ヴォーカにはもう帰らないつもりなのかな」

「ううん。やっぱり原稿をまとめるのはヴォーカでなくちゃはかどらないって、ノーマが言ってた。結婚式が終わったら、ヴォーカに戻ると思うよ」

「そうか。あ、話は変わるが、どうしてジンガーが騎士団の指揮なんてしてるんだ」

「ああ、それはね」

 ジンガーはもともとワズロフ家のなかで最も序列の高い騎士だった。若いころには、騎士団を率いて、盗賊団を討伐したり、魔獣の群れを討伐したりもした。その武名は広く知られていった。

 サースフリーとその娘ノーマに付き従ってヴォーカに来てからは、事実上ワズロフ家の騎士団を離れた状態であり、ワズロフ家の前当主が死去したのを機に、慰労金を渡して、引退したものとワズロフ家はみなしていた。

 だが、ゴンクール家の後継者をめぐる事件のなかで、ワズロフ家筆頭騎士であるジンガーがノーマの護衛をしている、ということになった。マンフリーはこれを知っておもしろがり、ジンガーを本当にワズロフ家筆頭騎士に任じた。それまではワズロフ家に筆頭騎士などという役職はなかったのだ。

 これによりジンガーはあらためてワズロフ家の騎士として扱われたが、マンフリーにとりこれはノーマを守るための方便だった。

 ところが、ノーマがマシャジャインや王都に来るようになると、ジンガーの威名を慕うワズロフ家の若い騎士たちが、何かとジンガーの教えを受けるようになった。

 そうこうしているうちに、昨年の暮れ、グィド帝国の侵攻があった。その時点ではさほど大きな危機だと思われていたわけではないが、リーガン・ノートスは、有事の際のことを考えずにはいられなかった。今のワズロフ家の騎士たちは、大規模な戦闘などしたことがないのだ。

 今年に入り、腰が治ったジンガーがマシャジャインにやって来た。ジンガーを深く尊敬する騎士リーガン・ノートスは、当主マンフリーに願い出て、ジンガーから集団行動について騎士たちに指導をしてもらうようになった。

 やがて、グィド帝国軍が思ったより大きな脅威であることがわかってきた。

 マシャジャインも騎士団を派遣しなくてはならない。マンフリーは、はじめリーガンに騎士団の指揮をさせるつもりだった。

 日がたつと、グィド帝国軍はきわめて手ごわいことがわかってきた。実戦経験のない指揮官のもとでは、騎士団が大きな損害を出しかねない。リーガンには荷が重すぎる。

 また、現地に行けば、指揮官の力関係によって、不利な場所に配置されたり、危険な役割を振られたりしかねない。何しろ、全体をきちんと統括する指揮官がいないのだ。

 その点、ジンガーならワズロフ家の筆頭騎士なのだから、その序列は非常に高いものとみなされる。また、みるからに風格のある、経験豊かな騎士であり、押し出しのよさでは誰にも負けない。どんな相手も、ジンガーと話し合えば、その沈着さと確かな判断力には頭を下げざるをえないだろう。

 こうした状況の推移とマンフリーおよびリーガンの判断によって、ノーマに頼み込んでジンガーを借り受け、騎士団の指揮を執ってもらうことになったというわけだった。


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― 新着の感想 ―
尋常ならざる速度で疾走する人間ってどんな音がしてるんだろう?ブォンブォン?(違うかw)
[気になる点] エダってノーマの事呼びすてにしてましたっけ?
[良い点] https://ncode.syosetu.com/n3930eh/664/ ・アーマミール神官様がまとめた、 ・三年前のスカラベル様とシーラばあちゃんの対談記録が、 ・ついに本にまとまっ…
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