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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第54話 獣人帝国
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 マシャジャインを出たレカンとエダは、体力回復薬を飲み、〈加速〉をかけて真西に向かって走った。すぐ南にはマシャジャインと王都をつなぐ街道があるのだが、わずかに遠回りになるうえ、人の行き来も多いので、草原と森を突っ切るほうが早い。

 草原を越え、なだらかな起伏のある森林地帯を越えると、小さな山があり、そこを越えればダイナ街道がみえるはずだ。

 山に登りかけたところで野営した。

 エダがスープを作り、レカンは肉と野菜を刺した串を火で炙った。

 ぱちぱちと音を立て、生い茂る木々を照らし出す焚き火の炎にみいりながら、エダが口を開いた。

「レカンと最初に会ったときも、こうやって旅して焚き火を焚いたね」

「最初の夜、お前は途中の木にぶつかって気絶してたな」

「あはは。あのときはありがとう。よくあたいがみつけられたね」

「お前は大きな魔力持ちだったからな。ある程度近づけば居場所はわかる。それに、通ってきた道を引き返すだけだ。みつからないわけがない」

「それはレカンだから言えるんだよ。それにしても、あのとき、あたいを探すのに手間取ってたら、チェイニーさん、どうなってたろうね」

「マラーキスに殺されていたかもしれんな」

「うん。そうだろうね。あのときのこと、あとで聞いてびっくりしたよ。それにしてもあの人、レカンに勝てると思ってたんだろうかなあ」

「さあな。あいつはオレとは金で話をつける気だったかもわからん」

「そっか。とすると、あたいは殺されてたのかな?」

「そうだな。護衛の一人が裏切ってもう一人の護衛とチェイニーを殺し、金を奪って逃げたという筋書きかな」

 レカンは、くいと酒をあおった。少量の酒は疲れをいやし、筋肉をほぐしてくれる。ぐっすり眠れるだろう。明日は本格的な移動になる。

「ねえ、レカン」

「うん?」

「レカンって名前、何か意味があるの?」

「ああ。要らないもの、という意味だ」

「えええっ? それはひどい。親がこどもにつける名前としては、ひどすぎるよ」

「親がつけたわけじゃない。オレは捨て子で、名などなかった。孤児院では名前がないと不便だったから、〈慈母〉たちがつけてくれた」

「ほかの子は、どんな名前だったの?」

「〈焦げ臭い頭〉、〈つぶれた鼻〉、〈眠たい目〉、〈泣き虫〉、〈ちぐはぐ〉」

「もういいよ、レカン。気分が悪くなってきた」

「お前の名には、何か意味があるのか?」

「うん。お母さんのふるさとにはね、願いがかなう幸せの木の伝説があって、その木の名前が、エダルマルフォスっていうんだって。どうしたの、レカン? 驚いた顔をして」

「いや、オレのふるさとにも同じ名前の木の伝説があったんだ。最果ての山にそびえる叡智ある巨木エダルマルフォスの伝説だ。そこにたどり着けた者は、エダルマルフォスと言葉を交わし、どんな願いも一度だけかなえてもらえるという。エダ。お前の母親の名は、何というんだ?」

「ダーナって名乗ってたけど、ほんとの名前はロオジエっていうんだって」

「ロオジエ、か。オレのふるさとにもそういう名はあった。貴族っぽい名だがな。まさか。いや、そうかもしれん。お前の母親のふるさとはどこにあるんだ?」

「さあ? もう帰れないところにあるって言ってた」

「そうか」

「レカン。お願いがあるんだ」

「うん?」

「結婚式の前でもあとでもいいから、一緒にあたいの生まれた村に行ってほしいんだ」

「それは構わんが、何かするのか?」

「父さんと母さんのお墓にお参りして、レカンを紹介したいんだ」

「ああ、そうか。それはいい。ぜひそうしよう」

「ありがとう、レカン。それと、もし会えたら会いたい友達がいるんだ」

「ほう」

「村での、あたいのたった一人の友達。同い年のナミちゃん」

「そうか。会えるといいな。その友達に贈り物を持っていこう。あまり派手ではない、何か身につけられるような物を」

「レカンからお土産の心配をされるなんて。レカン、成長したね。あ、そういえば、シュレンゴーとかいう果物を、ジェリコとユリーカのお土産に持っていったって聞いたよ。ジェリコとユリーカは喜んだ?」

「いや、渡せなかった」

「え? どうして?」

「オレがヴォーカに帰ったとき、二人は留守だったんだ。修業の旅に出てたらしい」

「あ、また行ったんだ」

「お前も知ってたのか。どこに行ってるんだ?」

「それは知らない。聞いても話してくれないんだもん」

「いや、ジェリコの言葉はわからんだろう。とにかく、帰りを待ってたらシュレンゴーが腐ってしまう。だからシュレンゴーは、プラドとカンネルにやった。しばらくしてからジェリコとユリーカは帰ってきたがな」

「レカン?」

「うん?」

「ユフの迷宮で〈時なしの袋〉って手に入ったよね」

「あっ!」

「忘れてたんだ」

「すっかり忘れていた」

 〈時なしの袋〉は、ユフ迷宮の主である三巨人を倒して得られた宝物の一つで、なかに入れたものが新鮮なまま保たれる〈箱〉のような袋だ。どの程度もつのか実験しようと思っていたのだが、ユフを出るなり白炎狼に襲われ、その次には腐肉王の迷宮で戦い、すっかり忘れ去っていた。同じときに手に入れた〈雷神の槍〉〈ヒッポドーラの護り〉も、まだその性能を確かめていない。

 レカンは早速、マシャジャインでもらった燻製肉やパンや果物を〈時なしの袋〉に入れた。

 じっとそれをみていたエダが、低い声で言った。

「お野菜も入れて」

 寝る前に、エダはレカンと自分に二度ずつ〈浄化〉をかけた。





人間だから、忘れることもあるんです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ・シュレンゴーとかいう果物を、ジェリコとユリーカのお土産に持っていったって聞いたよ。 ・ジェリコとユリーカは喜んだ?」 ・「ユフの迷宮で〈時なしの袋〉って手に入ったよね」 ・「あっ!」 …
[気になる点] 浄化してからいろいろといたして再度浄化して眠りについたということですね(邪推)
[一言] 「ロオジエ、か。オレのふるさとにもそういう名はあった。貴族っぽい名だがな。まさか。いや、そうかもしれん。お前の母親のふるさとはどこにあるんだ?」 「さあ? もう帰れないところにあるって言って…
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