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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第54話 獣人帝国
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 グィド帝国軍がアスポラの町に攻め寄せてきたのは、四の月の十三日だった。

 本隊も別働隊も街道を進んできたので、こちらも十分な備えをして迎え撃った。

 最初は壮絶な魔法の撃ち合いになった。こちらは弓兵も惜しみなく投入した。あちらには弓兵はいなかった。

 こちらにもかなりの被害が出たが、あちらにも損害が出た。

 それから接近戦になったのだが、敵は町のなかには入ってこようとせず、外で戦っている騎士らとだけ戦い、激しいが短時間の戦闘のあと、急に引き上げた。

 そして少し離れた場所に退くと、悠々と狩りをして食事を始めた。

 ザカ王国側は、味方の死体を回収したが、そこには敵の死骸もあった。それなりに被害を与えたことは間違いない。

 翌日、敵は攻撃してこなかった。それどころか、力比べか遊技のようなことをして過ごしていたのが、遠目にみえた。一度儀式魔法をたたき込んでみた。遠すぎたために直撃はしなかったが、敵はあわててさらに遠ざかった。だがそのあとは、何事もなかったかのように遊んでいた。

 十五日に、再び敵は攻め寄せてきた。今度も激しい魔法の撃ち合いの次に接近戦となり、双方に相当の被害が出た。だがやはり敵は町のなかには入ってこようとせず、短時間の戦闘のあと、鮮やかに退いていった。

 その日の夜、ツボルトの騎士バイアド・レングラーが、トランシェ騎士団長グラスド・コアンのもとを訪れた。バイアドは、ツボルト侯爵補佐官付の騎士で、ツボルトの冒険者たちの指揮官を務めている。

 バイアドはグラスドに、敵の数が多すぎる、と言った。

 アスポラに退却したスマーク騎士団の指揮官であるヴィスカー・コーエンは、自分たちは敗退したが、敵にも大きな被害を与えた、と言っている。ところがそれにしては、四の月の十三日にアスポラに攻め込んできた敵の数が多すぎる、と感じた冒険者たちがいた。冒険者たちは自発的に、あるパーティーに、敵の数を数えさせた。選ばれたのは〈グリンダム〉という三人パーティーだ。彼らは戦闘に参加せず、ただ敵の数を数えた。

 その結果、約九百八十人という数が出た。

 もともと敵は千人だったはずなのだから、ほとんど減っていない。

 〈グリンダム〉は、十五日の戦闘の際にも敵の数を数えた。

 約九百六十人だった。

 これはおかしい。

 確かに敵に被害は与えているのだ。死体も残されていた。

 ところが、前回の戦闘から二十人ぐらいしか減っていない。

 こちらはそうではない。二度の戦闘で、四百人前後が死ぬか戦闘不能の状態になっている。

 あちらには予備兵力などないのだから、新たに補充されたわけではない。

 これはどういうことか。

「やつらは、異常に回復力が高いんだ」

 これがグリンダムはじめツボルトの冒険者たちの結論だった。体質のせいなのかスキルのせいなのかはわからないが、敵は、殺さないかぎりかなり高い確率で戦線に復帰してくると考えられる。

 グリンダムはこれをバイアドに報告し、バイアドはグラスドに相談したというわけだった。

 まずい事態である。

 もともとヴィスカー・コーエンは、町に閉じこもっていないで打って出て敵を殲滅するべきだと主張しており、ギド騎士団の指揮官もそれに同調している。

 だが、グラスドにしてみれば、敵が自分たちを町からおびき出そうとしているのは明白であり、それは罠だ。むしろ町に引きこもって敵に損害を与え続けるべきであり、そうすれば大勝できないまでも、負けることはない。敵が町に攻め込んできたら、迷宮に逃げ込んでもいい。

 敵はアスポラの町を無視して進撃してもいいが、そんなことをすれば前と後ろに敵を抱えることになるし、いずれは北に帰るのだから、ここに強力な敵を残しておくわけにはいかない。だから守りに徹するのがいい。そうすれば敵は自滅する。

 グラスドはそう考えていたのだが、現状の戦い方で敵が損耗せずに味方だけが損耗していくとしたら、有利と不利がひっくり返る。

 士気の問題もある。一度は打って出ないと、味方の士気が維持できず、不満ばかりが蓄積する。

 グラスドとバイアドは、このことを王都に報告し、判断を仰いだ。ヴィスカー・コーエンも王都への報告を書いたが、今度もそれは出撃命令を求めるものだった。

 果たして円卓会議の結果を経て、王都は作戦を指示してきた。それはこういうものだった。

 十二日に王都を出発したマシャジャイン騎士団が十九日ごろにはアスポラに到着する。アスポラの手前のニクヤの町に、付近の地理に詳しいアスポラの冒険者を待機させておく。アスポラの冒険者の案内で、マシャジャイン騎士団は森を迂回する。

 グィド帝国軍がアスポラの町を攻めてきたとき、マシャジャイン軍はその背後を突く。機をみてアスポラからも各騎士団や冒険者たちが出撃し、敵を挟撃して殲滅する。

 こうした経緯をマンフリーはかいつまんでレカンに説明した。

「ところが、もしも敵に隠された別働隊があるとすれば、わが騎士団は窮地に陥る。しかし、本当に隠された別働隊などあるのだろうか。あるとすれば、今まで出し惜しみした意味がわからん」

「その保証はできん。ボウド将軍と親衛隊とやらは、参戦しているのか」

「そんな話は聞いていない。総指揮官が参戦するわけがないと思うが」

「じゃあやつらはまだ本気じゃないんだ。オレはそう思う」

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― 新着の感想 ―
[一言] どこがどう別人になったかよくわかりませんね この切り方じゃないと区切りよく一月持たないんだろうよ 近況、貴族云々の説明が長いのは今に始まった事じゃない、モヤっとするなら溜まってから読みましょ…
[一言] ボウドと決着が着くんでしょうか。 今章で黒穴がまたでたりして。
[良い点] こちらは、無料で読めるWEB小説です。 作者が自由に書けるのがこういう場の良い所です。 読者は何を強要する権利も有りはしません。 御不満な方々は、しばらく離れて、まとめ読みするのが良い…
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