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騎士団長のワイズ・シュトーレンが決闘を申し込んだ。
すると、〈百の鬼を従える者〉であるバラグアという熊の獣人が決闘を受けた。
ワイズ・シュトーレンは広く名の知られた豪傑であるのに、ほとんど一方的にたたきつぶされた。王から持たされた神薬がなければ死んでいたところだ。
次に、副団長のザイファド・カッチーニが決闘を申し込んだ。
同じく〈百の鬼を従える者〉であるギリググという鰐の獣人がこれを受けた。
はじめは拮抗していたようにみえたが、〈ウォルカンの盾〉を弾き飛ばされてからザイファドは劣勢となり、大怪我をして負けた。
次に、副団長のネイサン・アスペルが決闘を申し込んだ。
やはり〈百の鬼を従える者〉であるイオスという銀狐の獣人がこれを受けた。
イオスは神速の移動と小刻みな細剣の攻撃でネイサンを翻弄した。ネイサンは、体中を切り刻まれて地に伏した。
次に、王国魔法士団団長のルシッド・ニーロが決闘を申し込んだ。
だが、獣人たちはこれを受けなかった。代表による決闘は三度まで、というのが決まりだとボウドは言った。
そのあとに何が起きたのか、正確にはわからない。
魔法士団の一部の団員か、騎士団の一部の団員か、あるいはその両方が暴発した。ザイファドもネイサンも動ける状態ではなく、ワイズ一人では押さえきれなかった。
騎士団も魔法士団も規律は厳しいのだが、なにぶん実戦経験に乏しい。だから緊張と重圧に耐えきれなかった。それが暴発の原因だと思われる。
統率のきかない乱戦となり、王国騎士団と魔法士団は、五十二人の死者を出して敗北した。
死者のうち騎士は十二人で、魔法士は六人だ。
獣人たちは、捕虜を取ろうとはせず、敗走する者たちを追おうともしなかった。
「その知らせを聞いたときの王宮のあわてぶりはひどいものだった。私はすでに百五十人の騎士を王都に派遣していたが、宰相府を通しもせず、直接私に派遣騎士の増員ができないか問い合わせてきた者もいた。何人もね」
「王宮と宰相府というのは別物なのか?」
「わが国ではしかるべき役職にある者の権威が非常に高い。王の下に宰相がいて、宰相のもとに宰相府がある。そこがすべて施策を差配するのだ。高位貴族といえど、少なくとも表向きは宰相府からの命には従わなければならない。だが、王宮には、王族がいるし、いろいろな貴族が出入りしている。彼らのうちある者はある地域に顔が利き、ある者は特定の商売に顔が利く。宰相府でも、この件については誰それを通したほうが面倒が少ないというようなことをよく知っている。だから役職がないといっても、実際には宰相府の動きにからんでいるし、一定の発言権もある。それから、王宮の機能を維持するための文官や武官は、建前では宰相の命令を受ける立場だが、実際にはそうでもない」
グィド帝国軍はすぐにも王都に進撃してくるものと、王都では考えていたが、グィド帝国軍はダイナを動かなかった。
そうしているあいだに、ザカ王国諸侯の騎士団が、準備を終え、続々と集結してきた。
マシャジャイン侯爵騎士団二百名。
トランシェ侯爵騎士団二百名。
エジスの冒険者五十名。
ツボルトの冒険者百名。
ワードの冒険者五十名。
ギド侯爵騎士団二百名。
スマーク侯爵騎士団三百五十名。
そしてダイナ伯爵騎士団三十名。
王国騎士団八十名と王国魔法士団十五名。
総勢千三百名近い騎士と冒険者が王都に集結した。従騎士、歩兵、槍兵、弓兵、随伴する魔法使いなども合わせれば五千名に達する。
いまだパルシモの魔法士団は到着していないが、これだけ戦力が集まったのだから、敵の進撃をただ待つのではなく、こちらから打ってでるべきだという意見が強くなってきた。
そこで、三の月の三十五日、侵略者たちを撃退する騎士団の第一陣が、王都を出発した。
「出撃した騎士団は二つだ。スマーク騎士団三百五十人とその指揮下にワードの冒険者五十人がつく。トランシェ騎士団二百人とその指揮下にエジスの冒険者五十人が置かれた」
スマーク騎士団には歩兵や槍兵はつかないが、強力な弓兵百人と、魔法使い五十人がいて、従騎士も三百五十人いる。つまり戦力としては八百五十人だ。これに冒険者五十人が加われば九百人もの軍となる。
トランシェ騎士団には歩兵百人、弓兵百人、魔法使い三十人が随伴する。四百三十人の軍だ。
スマーク侯爵家が出した騎士三百五十人というのは、かなり多い。どうも以前、王がレカンの結婚を祝福したとき、その面前でレカンは異世界の貴族などではないと申し立て、王の名誉を傷つけた失態を、これで償うつもりのようだ。
「これはあとでわかったことだが、四の月の一日、グィド帝国軍がダイナを出発した」
「結局やつらはダイナに、ええっと、百日以上とどまったわけか」
「百三十五日だな。そんなに長いこと、いったい何をしていたんだろうな」
「うん? ダイナだろう。迷宮探索に決まっているじゃないか」
「ははは。他国に侵略戦争をしかけてきたというのに、わざわざ迷宮に潜って戦力をすり減らすわけかね。敵の指揮官が君ほど迷宮好きだったのなら、そんなこともあるかもしれないが」
「じゃあ、何をしていたというんだ」
「宰相府では、人間を観察し、ザカ王国について情報を集め、戦略を練っていたのだろうと推測している」
「今、思い出したんだがな。オレはこの世界に来て迷宮に行き、強くなった。その強くなる速度が妙に速かったんで、ある人物に、そのわけを尋ねたんだ」
「ある人物ね」
「すると、その人物は、オレの生命力の成長は、もとの世界では限界に達していたが、こちらの世界に来て、今まで倒したことのない魔獣を大量に倒すことによって、新たな成長が起きたんじゃないかと言った」
「興味深い話だが、グィド帝国軍の行動と何か関係があるのかね?」
「やつらはもともと自分の国で、迷宮に潜ってたんじゃないかという気がするんだ。そしてこの国に来て、今までとは違う魔獣を倒した。大迷宮のてごわい魔獣を大量にだ」
「……彼らは、それまでの限界を超えた強さを手に入れた、と君は言うのか」




