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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第54話 獣人帝国
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「使者は怒りをみせた。ザカ王国のしわざであるという確証もないのに、いきなり武力をもってわが領土を侵犯するなど、どんな神もお許しにならない暴挙ではないか。ただちにダイナから軍を引き、しかるのちに平和の使者を差し向けるがよい。王陛下は慈愛と寛容をもってその使者を引見するだろう。そう言った」

「ほう。獣人たちに囲まれて、そう言い放ったのか。肝の据わった使者だな」

「このたび首席外事官に任じられたイェテリア・ワーズボーンという男だ。前は内務書記次官だった。宰相の懐刀と呼ばれている」

「ああ、あの男か」

 レカンはその人物を覚えていた。薬聖がヴォーカを訪問する下準備にやってきた宰相府の役人だ。ヴォーカ領主にとっては雲の上の人物だった。

「ほう、知っているのかね。だが今は余分の話をしている時間がない。とにかく、ボウド将軍は、撤退を拒否した。そして、グィド帝国軍はしばらくダイナにとどまるので、秘宝を探し出して持ってくるか、どこの誰が持っているかを調べて知らせよ、と言った。それをしなければ、王都に進撃し、王を捕らえて秘宝を探索させる。この国でみつからなければ、周りの国でも同じことをするだけだと、そう言ったそうだ」

 イェテリアは、少しでも多くの情報を引き出そうと、あれこれ質問をした。そのなかに、宝物を奪った賊たちの身元の手がかりになるようなものはないのか、という質問があった。

 それに対してボウド将軍は、賊たちが身につけていたものをイェテリアに差し出した。折れた剣、つぶれた鎧、ちぎれた首飾り、破れた服などだ。イェテリアは、これを持って帰って調べたいと申し出た。ボウド将軍は、あっさりと許しを与えた。

 イェテリアの護衛を務めたのは王国騎士団の精鋭だ。彼らは、注意深く侵略軍のようすをさぐった。しかし、編成や装備がちがうので、戦力を正確に量ることはできなかった。一国を敵に回して王都を攻め取るには、あまりに人数がすくないような気がしたが、みかけた獣人たちの武威は恐るべきものであり、迷宮深層の冒険者にも匹敵するのではないかと思われた。

 イェテリアが持ち帰った剣や鎧や装具は、ただちに王宮の鑑定士たちや職人たちによって鑑定された。

 折れた剣はツボルトから出たものだった。

 つぶれた鎧は、ザカ王国でよくみかける型のものだった。

 ちぎれた首飾りはパルシモから出たものだった。

 服は、少し前に王都ではやった品だった。

 全体に、騎士の装備というより冒険者の装備だが、これらを着けていた人間は、ザカ王国の人間であるか、少なくともザカ王国に来て装備を調えた人間であると考えられる、という結論だった。

 ここにおいて宰相府は、宝物を奪われたというグィド帝国側の言い分自体を虚偽であると断じる態度に出た。密偵を使ってザカ王国の剣と鎧と首飾りと服を手に入れ、虚偽の申し立てによって過大な補償を求めようとしているのだというのだ。

 まずは軍を派遣して、グィド帝国の侵攻軍を撃破しなくてはならない。それから交渉を再開する。万一、グィド帝国の言い分に真実があったとしても、軍事的な敗北のあとでは強気に出られない。

 王国騎士団と王国魔法士団の全軍がダイナに派遣された。と同時に、有力諸侯に騎士団の派遣が要請された。

 トランシェ侯爵、マシャジャイン侯爵、ギド侯爵、スマーク侯爵には騎士団の派遣が、パルシモ侯爵には魔法士団の派遣が要請された。また、エジス侯爵、ワード侯爵、ツボルト侯爵には、有力冒険者を雇い入れて派遣するよう要請がなされた。

 迷宮街道沿いの諸侯には、王都に集う各侯爵領騎士団に食料などの援助をすることが要請された。迷宮街道沿いではない諸侯には、王都に資金と食料を提供するよう要請された。そのほか、各種人材の提供が要請された。

 王国騎士団と王国魔法士団は、諸侯騎士団の到着を待たず、ダイナに向かった。これには王都の貴族たちや神殿の意図が関係している。彼らは、王都で防衛戦などすることは許せなかった。できるだけ遠い地で侵略軍を防いでほしかった。王国騎士団と王国魔法士団が先制して敵を食い止めているあいだに諸侯騎士団がダイナに向かえば、王都や王都付近が戦火にさらされることはない、と彼らは考えたのである。

 王国騎士団は百名。王国魔法士団は二十五名。これに同数の従騎士がつく。

 さらに歩兵二百名、槍兵百名、弓兵五十名が随伴する。つまり全戦力は六百名だ。これに荷物運搬と後方支援を担う部隊がついていく。

 王国騎士団と王国魔法士団がダイナに到着したのは、二の月の二十五日のことだ。

 彼らは、わが国がグィド帝国の神殿を侵し秘宝を持ち去った事実はない、と宣言し、ダイナ伯爵を解放するよう要求した。すると驚いたことに、ボウド将軍はダイナ伯爵を解放した。

 次に彼らは、ダイナの騎士たちを解放するよう要求した。信じがたいことに、ボウド将軍は拘束していた騎士たちを解放した。

 順番でいえば、この次にはダイナの貴族たちを解放するよう要求するところだ。だが、ダイナの貴族たちは、すでにほとんどダイナを脱出していたので、この要求は意味がない。

 そこで、ダイナを立ち去るよう要求した。立ち去らなければ全滅させると。

 これに対し、グィド帝国軍側から、名誉ある一対一の決闘になら応じてやる、という返事があった。

 名誉ある決闘を持ち出されては、騎士として後ろに引くわけにはいかない。

 こちらが勝てば、グィド帝国軍はわが国から撤退し、あちらが勝てば、ザカ王国はあらためて秘宝の探索をするという約束が結ばれた。

 こうして決闘が行われた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 秘宝戻れば侵略はどうでもいいのかな?
[良い点] きましたね! 決闘大好きです! ありがとうございます! [一言] 両国の決闘者はどんな勇者か楽しみです
[気になる点] 決闘で負けて、仕返しに魔法攻撃しても通じなくて獣人軍にいいように蹂躙されて、近くの「死の迷宮」に方々の体で逃げ込んだ王国軍を救いにレカンがいざ出陣!ってとこかな? [一言] サシの決闘…
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