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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第53話 王都再会
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 そのあと、結婚式の担当者であるという家臣数人と打ち合わせをした。

 レカンの意見を聞いたり確認を求めたい事項は多く、採寸もあり、それはその日だけでは終わらず、翌日丸一日を費やすことになった。ほとんどの場合、「それでいい」か「任せる」と答えることになったのであるが。

 その翌日、つまり三の月の二十二日、レカンはマシャジャインを出発することにした。

 出発の前に、ユフ迷宮で得た大炎竜の魔石と皮の残りをマンフリーに贈った。何かと世話になっているし、結婚式では大いに金を使わせることになる。かといって、レカンが費用を負担すると申し出れば、たぶんマンフリーに恥をかかせることになる。だから魔石と皮を贈ったのだ。魔石をみたマンフリーは驚きを顔に浮かべ、そのあとにやりと笑った。何か使い道を思いついたようだ。

「あ、そうだ、レカン。これからヴォーカに帰ると言っていたな」

「ああ。薬草の採取をして、魔力回復薬と体力回復薬を作っておきたいしな」

「ダイナ迷宮に行ったりする予定はあるのかね」

「ダイナ? ああ、〈死の迷宮〉か。そのうち行ってみたいとは思ってるが、すぐには考えていない。きつい戦いが続いたあとだし、しばらくのんびりするつもりだ」

「そうか。それならいい」

「ダイナに行くと、何かあるのか」

「いや。まだ状況がはっきりしないし、私は知らないことになっている話だから、これ以上は言わないほうがいいだろう」

「ふうん。あ、そうだ。何かうまい果物はないか?」

「うん? 以前言っていた、長腕猿の土産かな」

「ああ。実は長腕猿が二匹に増えててな。この前の何とかいう果物は、喜ばれたんだが、足りなかった」

「そうか。ちょうどいいものがある。南方の果物でシュレンゴーというのだが、人間にとって美味なのはもちろんだが、長腕猿もひどく好むと聞いている。タリスギア侯爵からの贈り物でね。最初は二千個だったのが、タリスギアに着くまでに腐ったものを除いていき、さらにここへの道中でも同じことをして、ここに着いたときには四十二個になっていた。確かにうまい。あと三個残っていたはずだ。君に譲ろう」

「それはありがたい」

「ただし、もうあまりもたない。もって十日かな。それまでに腐り始めるかもしれん」

「わかった。急いで届けることにしよう」

「ところで、その神薬が出たという迷宮がどこにあるのかは、教えてもらえるのかな」

「いや。誰にも話す気はない」

 こうしてレカンはマシャジャインを出発した。

 バンタロイでチェイニー商店を訪ねると、運よくチェイニーがいた。

 レカンは〈トロンの剣〉を一本譲り受けた。チェイニーが代金を受け取ろうとしなかったので、ユフで得た聖硬銀の鉱石の半分を贈った。あとの半分は、別の相手に渡すつもりだ。

 ヴォーカに到着したのは二十六日のことだ。

 シュレンゴーのうち一つは腐ってしまった。だが、あと二つある。

 ゴンクール家の離れに入ったが、ジェリコもユリーカもいない。

 本邸から執事のカンネルが来た。

「レカン様、お帰りなさいませ」

「ああ。ジェリコとユリーカがいないんだが、どこに行ったかわかるか?」

「修業でございましょう」

「修業?」

「時々出かけるのでございます。ノーマ様がおっしゃっておられました。あれは修業だ。強くなろうとしているのだと」

 あれ以上強くなってどうしようというのだろう。

 というか、いったいどこで何と戦っているのだろう。

「いつ帰ってくるかな」

「いつも修業に出ると、十日か二十日は帰ってきません。一昨日出たばかりなので、しばらくは帰らないかと」

 では、シュレンゴーは腐ってしまう。

「ど、どうなさったのですか。そんな肩を落とされて」

「カンネル」

「はい」

「これをやる」

「これは?」

「シュレンゴーという果物だ」

「聞いたことがあります。これが、そうなのですね。なんとよい香りだ」

「一つはプラドに、もう一つはお前に土産だ」

「これは、恐れ入ります。珍しいものをありがとうございます」

 レカンはシュレンゴーをプラドとカンネルに贈った。土産を自分で食べたら負けだと思ったのだ。

 それからしばらくのあいだ、調薬に没頭した。

 まずは材料の採取だ。

 ターゴ草とニチア草は、すでにたっぷり採取してある。ザハード苔とそのほかのいくつかの薬草を採取した。

 次にシアリギの若芽を採取した。シーラの畑でも採取した。ジェリコとユリーカがきちんと世話をしているので、ここの薬草畑では相変わらず質のいい薬草が採れる。

 そして、下ごしらえをして、体力回復薬と魔力回復薬を作った。キュミス草は、前回採取した残りがあった。体力回復薬は、魔力回復薬ほど消費が激しくないが、やはり多めに持っておくにこしたことはない。

 傷薬、万能薬、かぜ薬、ポプリ、毒消しも作った。作り方を忘れないためだ。

 ノーマのいないゴンクール家の離れは、あまり居心地がいいともいえなかった。悪くはないのだが、何かが決定的に足りない。あの居心地のよさはノーマのおかげだったのだなと、しみじみ思った。それに、ノーマと話をしていると、頭のなかが整理され、もやもやしたものがすっきりする。そういえばしばらくノーマに会っていない。会いたい、とレカンは思った。

 途中、ジェリコとユリーカが帰ってきた。

 前以上の化け物になったことが感じられた。向こうもレカンをみてぎょっとしていた。

 ユリウスが来た。これまでにも二度来ていたらしい。稽古をつけてやった。

 ヴォーカを出てマシャジャインに向かった。

 マシャジャインに着いたのは、四の月の十七日のことだった。もちろんユリウスも一緒だ。

 エダがいた。

 エダはレカンの左目がみえるようになったことをマンフリーから聞いていたが、実際にレカンに対面して感激し、涙を流しながら、よかったね、よかったねと、レカンを祝福した。

 レカンは小さな声で、すまんな、と謝った。

 ううん、ううんと首を振るエダを、レカンは抱きしめた。

 しばらくそうしていると、マンフリーが声をかけてきた。

「レカン。至急帰ってきてほしいとヴォーカに使いをやったんだが、会っていないようだな」

「使い? オレにか? 知らん」

「行きちがいになったようだ。まあ、帰ってきてくれてよかった。くつろいでいるところをすまんが、執務室に来てくれんか」

 目に真剣な光があり、口調が堅い。雰囲気が異様だ。

 この男がこんな雰囲気をさせたことは、これまでなかった。

「ああ。エダも一緒でいいか」

「む。うむ。一緒で構わない」

 執務室のソファーに向かい合って座るなり、マンフリーが前置きもなく話を始めた。

「獣人の帝国がわが国を侵略している。君の力を借りたい」

「第53話 王都再会」了/次回5月2日「第54話 獣人帝国」

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― 新着の感想 ―
651/702話 爆殺したユフ三巨人から出た宝箱産の袋に入れとけば良かったンよ... ---------------------------------------------------------…
お土産持って帰るもジェリコとユリーカがいなくてしょんぼりする魔王。
[良い点] ノーマを恋しいと思うレカン、レダに小声で謝るレカン >ノーマのいないゴンクール家の離れは、~会いたい、とレカンは思った。 ノーマに直接言ってあげて!
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