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「神殿さ」
「神殿?」
「そうさ。神に捧げられ、長年神官や人々の祈りを受けた恩寵品は、神々のみわざによって名が変わることがある。そんなにたくさん事例はないんだけど、そういうことは確かにある」
「そう、か。つまり神々だな。神々が関わるとき、恩寵品の名が変わることがあるんだな」
「名前どころか、恩寵そのものが付加されたり、より強力なものになったりすることもあるといわれてる。あたしは自分で確認したことないけどね」
「ないのか」
「変わったあとっていうのをみたことはあるけど、変わる前と比較できたことはないね」
「じゃあ、これがはじめてだな」
「え? あんた、何を言って……。ちょっとお待ち」
シーラは再び細杖を構え、驚いたことに準備詠唱までしてから〈鑑定〉の魔法を発動させた。
「なんて、なんてこった。〈巫女の祈り〉だって? こんな恩寵じゃなかったはずだよ。こんな恩寵はみたことない。すごい恩寵だ」
先ほどの鑑定では、名前だけに気をとられ、恩寵の中身までは注意が及んでいなかったようだ。シーラでもそんなことがあるのだ。
「そこは以前は〈呪い無効〉か何かじゃなかったかな」
「そうだよ。それも、そう強い効果のある恩寵じゃなかった。だけど、この恩寵はかなり強力だね」
「〈魔力補填〉という恩寵も、効果が上昇していないか?」
「そういえば、そんな気もする。たしかこいつは記録してあったはずだから、あとで確認しとくよ」
「〈この宝玉の恩寵は、ライコレス神の祝福を受けた者にだけ発動できる〉というのは、昔からあったのか?」
「ああ。これは昔からこうだったよ」
ということは、以前のレカンでは練度不足で読めなかっただけなのだ。
「オレが最初にこの守護石を鑑定したときは、〈ザナの守護石〉という名だった」
「なんだって。あんたはあたしに〈鑑定〉を教わったはずだね」
「そうだ。鑑定したのはそのあとだ」
「しまったねえ。そのころに一度鑑定しとくんだった。あんたがこれを持っていると知ってたら。いや、知っててもわざわざ鑑定はしなかったかもしれないねえ」
レカンはそれからシーラに、ルビアナフェルと自分との関係や出来事について詳しく説明し、この守護石の恩寵が自分に働く理由についての仮説も告げた。
「なるほどねえ。だいたいにおいて、あんたの推測が正しいように思うよ。あたしは神殿とはあんまり縁を結ばなかったから、というか避けてたからねえ。こういう現象については、ほとんど実物に接したことがなくてねえ。こりゃ貴重な経験だ。礼を言っとくよ」
「オレの前にあのタイミングで〈黒穴〉が開いたのも、落ちた先にルビアナフェルがいたのも、ライコレス神が手を回したんだろうか」
「何だって? ふふん。そう思えばそういうことかもしれないけど、その手はあんまり考えすぎないほうがいいよ。もしもあんたがそう考えることを神々が望むなら、何かそういうしるしが現れるはずさね。先回りしてあれこれ神々の思惑を推し量っても、あんまり意味がない。あんたはあんたの意志で生きている。そこを疑っちゃだめだよ」
「なるほど。そうしよう。ところで、こんなものがあるんだがな」
レカンは〈巫女の守護石〉をしまい、白炎狼が残した魔石を取り出して机に置いた。
再び、シーラの目が大きくみひらかれた。
「なんてこった。今日は何度も驚かされる日だねえ。あんた、いったい、これをどこで手に入れたんだい?」
「ユフを出てから森を移動していると、また襲ってきたんでな。とことん逃げて魔力を消費させ、始原の恩寵品や、あんたから譲られた〈リィンの魔鏡〉なんかも使ってようやく倒した」
「倒したって、あれをかい?」
「何度も襲われたら闘い方ぐらい工夫するさ」
「何度も襲われた? そんなことするやつじゃないんだけどねえ。あんたいったい何をしたんだい?」
「襲われたことは前にも話したはずだぞ。ぼけたのか、シーラ」
「あんたもしかして、白炎狼と戦って、これを手に入れたのかい?」
「当たり前だ。白炎狼の魔石は白炎狼から手に入れる以外、どうやって手に入れる」
「鑑定してごらん」
レカンは再び細杖を取り出し、静かに魔力を練ってから、準備詠唱を行い、〈鑑定〉の魔法を発動させた。
だが、読めなかった。
もう一度、さらに集中力を高めて挑戦した。
だが、だめだった。この魔石には、レカンの〈鑑定〉は通らないのだ。
「シーラ。オレにはこれが鑑定できないようだ」
「そうかい。あんたは剣だったら、かなり難しい鑑定もできるみたいだけど、魔石はまたちがうからねえ。これは、王竜アトラシアの魔石さ」
「……は?」
「まぬけな顔をするんじゃないよ。みっともない。だからこれは、王、竜、アトラシア、の魔石さね」
「なんで白炎狼を倒して、王竜アトラシアの魔石が落ちるんだ」
「白炎狼がアトラシアを倒したんだろうね。そして魔石を手に入れて、あんたへの置き土産に置いていったんだろうさ。それ以外考えようがない」
「なんてこった」
「あたしのしゃべり方がうつってるよ」




