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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第53話 王都再会
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7


〈名前:レカンの剣〉

〈品名:剣〉

〈攻撃力:中〉

〈硬度:中〉

〈ねばり:大〉

〈切れ味:中〉

〈消耗度:極小〉

〈耐久度:極大〉

〈制作者:マルケファスト〉

〈調整者:ミキスズ〉

〈深度:八十〉

〈恩寵:自動修復(大)〉

※自動修復:欠損を修復し、消耗度を下げる。


 悪くない性能だ。

 いや。よすぎるかもしれない。

 この剣に、ここまでの攻撃力があっただろうか。

 ツボルト迷宮でさまざまな剣を手にしたレカンからすると、すこし鑑定結果がよすぎる気もする。

 それに深度が八十もある。これはおかしい。

 この剣は迷宮品というわけではない。人間の剣匠マルケファストが打った品だ。

 鑑定士テルミンは、人間が打った剣の場合、深度は一から十ぐらいになるものだと言っていたはずだ。つまり迷宮深層で出た剣に、深度では及ばない。だが、名工が打った剣は、鑑定に現れない性能や使い心地が優れているのだとも言った。

 レカンの愛剣は、まさに使い心地という点では圧倒的に優れていた。レカンにとっては最高の剣だった。だが、深度が八十というのはおかしい。

(待てよ)

(〈自動修復〉が恩寵になっているな)

(そういえばそうだったな)

(そういうことか)

 もとの世界で人間の付与師が付けた性能が、この世界では神々の恩寵として鑑定されるのだ。

 ミキスズというのが、愛剣に付与をしてくれた付与師の名前だった。それが鑑定では〈調整者〉として表示されている。

 もとの世界の物品をこの世界に持ち込むと、置き換えが起きる。

 たぶん深度もそうなのだ。もとの世界でこの剣の持っていた存在の深みだか、頑健さだか、何だかよくわからないが、そういうものがこの世界では〈深度〉として鑑定されるのだ。ここはもう、そういうものだと思っておくしかない。

「オレの愛剣が、修理されている。折れていたのに。しかもちゃんと〈自動修復〉が利くようになっている。これは、まさか」

「ヤックルベンドの仕事さね。ヤックルベンドはこの剣についていた宝玉の〈自動修復〉の機能を解析して、折れた剣を打ち直し、そしてあらためて宝玉を剣に組み込んで、〈自動修復〉の機能を付加したのさ」

「解析、できたのか」

「ああ。できたみたいだよ。その解析結果は、あとで教えてもらえることになってるけどね。ただし、その宝玉が再現できないんだそうだ。だから、この世界の物品に新たに〈自動修復〉を付加することはできないみたいだね。少なくとも今のところは」

 レカンは感動していた。

 愛剣が戻ってきたことは、無条件にうれしい。そしてこれからは、愛剣という控えがあるのだから、〈ラスクの剣〉をいっそう遠慮なく使うことができる。

 レカンは愛剣を〈収納〉にしまった。

「この剣を修理してくれたことには礼を言う。そういえばシーラ、聞きたいことがある」

「何だい」

「〈鑑定〉で読み取れる名前というのは、変わったりするものなのか?」

「名前って、何の名前だい?」

「例えば剣だ」

「剣の名前ねえ。人間が打った剣だと、普通は名前がないね。名工が打つと、時々その名工の名前が鑑定名に出る。〈銘入り〉ってやつだね。もとは名前がない剣でも、優れた剣士が長年愛用していると、その使い手の名前が鑑定名に出ることがある。これも〈銘入り〉と呼ぶやつもいるし〈名入り〉と呼んで〈銘入り〉と区別するやつもいる。鑑定の流派によると思うよ。剣匠の場合、打ち手の名が入ったものだけを〈銘入り〉と呼んで、使い手の名が入ったものと区別するみたいだね」

「もともと〈銘入り〉だった剣が、使い手の名に変わることもあるのか」

「あるよ」

「なるほど。迷宮品の剣だとどうなんだ」

「これはもう、あるかないか、どっちかだね。迷宮品の剣の場合、その名前が変わることはないね。迷宮品の剣で名前があるってことは、恩寵品なわけだ。恩寵品の名前は変わらないよ」

「変わらない、のか。じゃあ、これは、いったいどういうことなんだ」

 レカンは〈巫女の守護石〉を取り出して机の上に置いた。

「驚いたね。これ、あんたが持ってたんだ」

「知ってるのか」

「知ってるよ。どこで手に入れたんだい?」

「オレがこの世界に落ちてきたとき、最初に滞在したのがザイドモール領だ」

「どこにあるんだい、それ」

「ヴォーカからさらに北にある」

「あ、そうか。あんたが地竜トロンを倒したところか。トロンのとげをチェイニー商店に売ってるのが、そのザイドモール家だった。大森林に接している領地なんだね」

「そうだ。そのザイドモール家の娘で今はユフに嫁いで何とかの巫女と呼ばれている姫が、母親から受け継いだもので、ある物と交換でオレにくれた」

「なるほどねえ。オリエの子孫がそんなところにいたわけだ」

「オリエを知っているんだな」

「知ってるよ」

「この守護石を鑑定してみてくれ」

 シーラはどこからともなく細杖を出し、静かに集中してから、守護石を鑑定した。

 その顔に、驚愕が浮かんだ。

「なんてこった。こいつは確かに〈覇王の守護石〉って名だったはずだよ。今は〈巫女の守護石〉かい。名前が変わってるじゃないか。恩寵品なのに、名前が変わるなんて。いや、お待ち。そういえば、恩寵品の名前が変わることはある。うっかりしてたけど、こいつは有名な話だ」

「ほう。その話とやらを聞かせてくれ」


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― 新着の感想 ―
[良い点] ナニガシトマトで覚えていたけれど、ヤックルさんだったのですか [一言] これからはヤッコベントウ=トマト(奴弁当赤茄子)と覚えておこう
[気になる点] かつてのレカンの愛剣がこう言う形で復活するとは、思いませんでした。ヤックルベンドさんには関わりたくないレカンですが、ついでにツボルトで折れたオドの剣も直してもらったら良さそうですね。ヤ…
[良い点] うきうきレカンさん 剣が直ったということは、以前シーラが調べてヤックルベンドに情報流したと思われる貴王熊のマントも直る可能性が出てきたのでしょうか? 今後の解析次第だとは思いますけど、素…
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