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〈名前:レカンの剣〉
〈品名:剣〉
〈攻撃力:中〉
〈硬度:中〉
〈ねばり:大〉
〈切れ味:中〉
〈消耗度:極小〉
〈耐久度:極大〉
〈制作者:マルケファスト〉
〈調整者:ミキスズ〉
〈深度:八十〉
〈恩寵:自動修復(大)〉
※自動修復:欠損を修復し、消耗度を下げる。
悪くない性能だ。
いや。よすぎるかもしれない。
この剣に、ここまでの攻撃力があっただろうか。
ツボルト迷宮でさまざまな剣を手にしたレカンからすると、すこし鑑定結果がよすぎる気もする。
それに深度が八十もある。これはおかしい。
この剣は迷宮品というわけではない。人間の剣匠マルケファストが打った品だ。
鑑定士テルミンは、人間が打った剣の場合、深度は一から十ぐらいになるものだと言っていたはずだ。つまり迷宮深層で出た剣に、深度では及ばない。だが、名工が打った剣は、鑑定に現れない性能や使い心地が優れているのだとも言った。
レカンの愛剣は、まさに使い心地という点では圧倒的に優れていた。レカンにとっては最高の剣だった。だが、深度が八十というのはおかしい。
(待てよ)
(〈自動修復〉が恩寵になっているな)
(そういえばそうだったな)
(そういうことか)
もとの世界で人間の付与師が付けた性能が、この世界では神々の恩寵として鑑定されるのだ。
ミキスズというのが、愛剣に付与をしてくれた付与師の名前だった。それが鑑定では〈調整者〉として表示されている。
もとの世界の物品をこの世界に持ち込むと、置き換えが起きる。
たぶん深度もそうなのだ。もとの世界でこの剣の持っていた存在の深みだか、頑健さだか、何だかよくわからないが、そういうものがこの世界では〈深度〉として鑑定されるのだ。ここはもう、そういうものだと思っておくしかない。
「オレの愛剣が、修理されている。折れていたのに。しかもちゃんと〈自動修復〉が利くようになっている。これは、まさか」
「ヤックルベンドの仕事さね。ヤックルベンドはこの剣についていた宝玉の〈自動修復〉の機能を解析して、折れた剣を打ち直し、そしてあらためて宝玉を剣に組み込んで、〈自動修復〉の機能を付加したのさ」
「解析、できたのか」
「ああ。できたみたいだよ。その解析結果は、あとで教えてもらえることになってるけどね。ただし、その宝玉が再現できないんだそうだ。だから、この世界の物品に新たに〈自動修復〉を付加することはできないみたいだね。少なくとも今のところは」
レカンは感動していた。
愛剣が戻ってきたことは、無条件にうれしい。そしてこれからは、愛剣という控えがあるのだから、〈ラスクの剣〉をいっそう遠慮なく使うことができる。
レカンは愛剣を〈収納〉にしまった。
「この剣を修理してくれたことには礼を言う。そういえばシーラ、聞きたいことがある」
「何だい」
「〈鑑定〉で読み取れる名前というのは、変わったりするものなのか?」
「名前って、何の名前だい?」
「例えば剣だ」
「剣の名前ねえ。人間が打った剣だと、普通は名前がないね。名工が打つと、時々その名工の名前が鑑定名に出る。〈銘入り〉ってやつだね。もとは名前がない剣でも、優れた剣士が長年愛用していると、その使い手の名前が鑑定名に出ることがある。これも〈銘入り〉と呼ぶやつもいるし〈名入り〉と呼んで〈銘入り〉と区別するやつもいる。鑑定の流派によると思うよ。剣匠の場合、打ち手の名が入ったものだけを〈銘入り〉と呼んで、使い手の名が入ったものと区別するみたいだね」
「もともと〈銘入り〉だった剣が、使い手の名に変わることもあるのか」
「あるよ」
「なるほど。迷宮品の剣だとどうなんだ」
「これはもう、あるかないか、どっちかだね。迷宮品の剣の場合、その名前が変わることはないね。迷宮品の剣で名前があるってことは、恩寵品なわけだ。恩寵品の名前は変わらないよ」
「変わらない、のか。じゃあ、これは、いったいどういうことなんだ」
レカンは〈巫女の守護石〉を取り出して机の上に置いた。
「驚いたね。これ、あんたが持ってたんだ」
「知ってるのか」
「知ってるよ。どこで手に入れたんだい?」
「オレがこの世界に落ちてきたとき、最初に滞在したのがザイドモール領だ」
「どこにあるんだい、それ」
「ヴォーカからさらに北にある」
「あ、そうか。あんたが地竜トロンを倒したところか。トロンのとげをチェイニー商店に売ってるのが、そのザイドモール家だった。大森林に接している領地なんだね」
「そうだ。そのザイドモール家の娘で今はユフに嫁いで何とかの巫女と呼ばれている姫が、母親から受け継いだもので、ある物と交換でオレにくれた」
「なるほどねえ。オリエの子孫がそんなところにいたわけだ」
「オリエを知っているんだな」
「知ってるよ」
「この守護石を鑑定してみてくれ」
シーラはどこからともなく細杖を出し、静かに集中してから、守護石を鑑定した。
その顔に、驚愕が浮かんだ。
「なんてこった。こいつは確かに〈覇王の守護石〉って名だったはずだよ。今は〈巫女の守護石〉かい。名前が変わってるじゃないか。恩寵品なのに、名前が変わるなんて。いや、お待ち。そういえば、恩寵品の名前が変わることはある。うっかりしてたけど、こいつは有名な話だ」
「ほう。その話とやらを聞かせてくれ」