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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第52話 腐肉王の迷宮
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 あまりに意外な鑑定結果だ。

(名前が変わっているだと?)

(そんなことがあり得るのか?)

 この恩寵品は、確かに〈ザナの守護石〉という名だったはずだ。

 今までに二回鑑定したことがあるので、それは間違いない。

 鑑定する側の熟練度が上がれば、鑑定内容が変わってくる。

 また、例えば剣でも剣身だけを鑑定するのと柄も含めて鑑定するのでは、鑑定結果が違う場合がある。

 だが、名前が変わるというようなことがあるのだろうか。

(わからん)

(このことについては基礎的な知識が足りん)

(今度シーラに会ったら聞いてみよう)

 ふと思った。

 レカンはこの品の正式の名は〈ザナの守護石〉だとばかり思い込んできた。

 だから、ルビアナフェルが母親から伝え聞いたという〈覇王の守護石〉というのは、俗称のようなものだと思っていた。

(そうではないのかもしれんな)

 以前は〈覇王の守護石〉という名だったのが、〈ザナの守護石〉に変わり、そして〈巫女の守護石〉という名になった。そういうことだったのかもしれない。

 それにしても、〈巫女の祈り〉などという恩寵はなかった。

 名鑑定士テルミンによれば、恩寵がついていても未熟な鑑定士だと見落とすことがあるということだったが、たしかここは、〈呪い無効〉か、それに似た何かだったはずだ。つまり恩寵が変わっている。

 恩寵品の恩寵が変化するなどということがあるのだろうか。

 〈調整者:オリエ、ルビアナフェル〉というのは、いったいどういう意味なのだろう。こんな項目が鑑定で出てきたのははじめてだ。

 わからない。

 わからないことだらけだ。

 そして、最もわからないのが、〈この宝玉の恩寵は、ライコレス神の祝福を受けた者にだけ発動できる〉ということだ。これはいったいどういうことなのか。

 レカンはライコレス神など信仰していない。

 神殿に参拝したこともないし、金や貴重な品を献納したこともない。

 教義も知らない。

 ライコレス神の恩寵などというものからは、まったく無縁であるはずだ。

(いや)

(待てよ)

 レカンはライコレス神などと縁はない。

 だが、ルビアナフェルはライコレス神と縁がある。

 ルビアナフェルは、ライコレス神殿の巫女の血筋だ。

 〈豊穣の巫女〉だったか〈祝福の巫女〉だったか忘れたが、とにかくライコレス神に愛された巫女の血筋で、ユフ全体を祝福できるほど、ライコレス神に愛されている。

 そのルビアナフェルを、レカンは救ったではないか。

 ザイドモール家では、四度にわたる暗殺からルビアナフェルを守った。

 つい最近は、ユフを訪れ、危機に陥っていたルビアナフェルを救った。

 ライコレス神の愛し子を守り救ったのだから、ライコレス神の祝福を得ても、何の不思議もないではないか。

 それだけではない。

 この世界に落ちてきたばかりのとき、魔獣に襲われるルビアナフェルを救った。

 それはただの偶然ではあったが、ライコレス神はレカンに感謝したのだろう。

 そこまで思考を進めてきて、何かがレカンの心に引っかかった。

 何が引っかかっているのか、しばらく考えた。

 そして心に引っかかるものの正体に行き当たった。

(本当に偶然か?)

 ルビアナフェルが魔獣に襲われた。

 そのすぐそばに、別の世界から来たレカンが出現した。

 そして魔獣を倒し、ルビアナフェルを救った。

 レカンほどの強者でなければ、ルビアナフェルを救うことはできなかった。

 よりによってあの場所に落ちたのでなければ、ルビアナフェルの危機を知ることもなく、駆けつけることもなかった。

 そんな都合のいい偶然というものがあるものなのだろうか。

(まさか)

 まさかとは思うが、ライコレス神がレカンを呼び寄せたのではないか。

 いや、もちろん、〈黒穴〉に飛び込んだのはレカン自身の選択だ。その点については何者の干渉も受けていない。

 だが伝説的といっていいほど珍しいものである〈黒穴〉が、よりによってあのタイミングでレカンの前に現れたのは、もしかするとライコレス神のしわざなのではないのか。

 わからない。

 わからないが、都合のいい偶然より、そちらのほうがレカンとしてはしっくりくる。

(とするとボウドは巻き込まれたわけか?)

 いや、そんなはずはない。

 ボウドはボウドで、自らの意志で自らが行く道を決めた。落ちるべき場所に落ち、なすべきことをなし、得るべきものを得ているはずだ。

 きっといつかボウドに会える。そのときレカンは、ボウドも驚嘆するような強者になっているだろう。

 ふと、地竜トロンのことを思った。

 トロンはもともと、ずっと西のほうにいたはずだ。ところがザック・ザイカーズがトロン討伐を決意した直後、ザックの手をすり抜けるように姿を消し、いつのまにかザイドモール領の北に移動してきていた。

 そのトロンをレカンは発見し、倒した。

 よく倒せたものだと思う。

 神獣というものがいかなる存在であるのか、白炎狼との戦いで思い知った。

 そのトロンを、あまりに簡単にレカンは倒した。

 まるでそのときだけ、守護石が特別な力を出したかのように。

 あたかも、トロンを倒したことで得た力で、これから起こるであろう危機からルビアナフェルを救えというかのように。

(まさかと思うが)

(トロンを倒せたのはライコレス神の加護があったからか?)

(それどころかトロンを東に移動させたのもライコレス神のしわざか?)

 わからない。

 わからないが、そんなこともあるのかもしれない。


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― 新着の感想 ―
[良い点] (トロンを倒せたのはライコレス神の加護があったからか?) (それどころかトロンを東に移動させたのもライコレス神のしわざか?) こんな初っ端の話が今になって再浮上してくるのって大好きです!…
[良い点] 神の存在証明とか中二病心を刺激してきますが、今までもこの世界に影響を与える神の存在が示唆されていました。問題は神と呼ばれる存在が人間に対して慈悲深いのか、酷薄なのか、見守るだけなのかですね…
[良い点] ・だから多少は異常をやわらげてくれたが、結局エダの〈浄化〉を受けるまで、自由を取り戻すことはできなかった。 ポポ様 ・ユフ迷宮は魔法が使えなかったので、エダは浄化使ってなかったと思います…
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