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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第52話 腐肉王の迷宮
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 レカンは素早く右に移動して呪文を唱えた。

「〈炎槍〉!」

 〈炎槍〉が腐肉王に着弾するかと思われた寸前、何もない空間で〈炎槍〉は爆発した。

 障壁だ。

 先ほど腐肉王の魔法攻撃は〈インテュアドロの首飾り〉の障壁で阻まれた。

 その同じ障壁を、腐肉王は作り出してみせたのだ。おそらくはレカンが放った魔法攻撃の魔力を使って。

「〈炎槍〉! 〈炎槍〉! 〈炎槍〉! 〈炎槍〉!」

 レカンは右に右にと回り込みながら、立て続けに魔法攻撃を放った。

 そのすべての魔法攻撃は、腐肉王の体を捉える前に、障壁によって阻まれた。

 レカンは立ち止まり、今起きたことを理解しようと努めた。

(オレが最初に撃った〈炎槍〉の魔力を)

(やつは奪い取った)

(そしてその魔力で二度目以降の攻撃に対して障壁を張った)

 みれば腐肉王の右手の人さし指の前には、まだ魔力の塊が回転している。

(オレの攻撃一度分の魔力で)

(計五度の攻撃をやつはまかない)

(しかもまだゆとりがある)

(魔法効率がやつとオレとでは桁違いなんだ)

 レカンは慄然とした。

 どう戦えばいいのかわからなかった。

 腐肉王がゆっくりと体の向きを変え、レカンと向き合った。

 レカンは〈妖魔斬り〉を振り上げ、腐肉王に攻撃しようとして走り寄った。

 腐肉王が魔法を放った。

 〈炎槍〉だ。

 レカンの装着する〈インテュアドロの首飾り〉が発動して障壁を張り、〈炎槍〉を防いだ。爆発に構わずレカンは剣を振りおろしたが、そこには腐肉王はいなかった。

 腐肉王は、再び部屋の一番奥まった場所に転移していた。

 相変わらず右手を持ち上げ、曲がった人さし指をレカンのほうに向けている。

 その指先とレカンの胸元に、魔力の線がつながっている。

 どこにつながっているかを確認したレカンは、再び背筋が寒くなるのを感じた。

 〈インテュアドロの首飾り〉だ。

 今何が起きているのか、レカンは直感的に悟った。

(この骸骨野郎は)

(首飾りから魔力を抜いているんだ!)

 レカンは後ろに跳んだ。

 だが魔力のつながりは切れない。

 左右ジグザグに動きながら後退したが、やはり魔力のつながりは切れない。

 階層の入り口まで後退したレカンは、いったん階段に逃げようとした。

 だが、出られなかった。

「〈ゾルアス・クルト・ヴェンダ〉!」

 呪文を唱えたが、転移しない。

 腐肉王との決着をつけるまでは、この部屋から出られないのだ。

 レカンは、〈妖魔斬り〉で魔力のつながりを断ち切ろうとしたが、切れなかった。物理的な手段では、このつながりは切れないのだ。

(いったいどうすれば?)

 そのときつながりが切れた。

 次の瞬間、腐肉王は〈炎槍〉を放った。

 レカンが放つのと同じ、太く青白く強力な〈炎槍〉だ。

 その〈炎槍〉はレカンの胸元に着弾して、レカンを吹き飛ばした。

 後頭部を岩の壁に打ち付けたが、意識を失うようなことはなかった。この兜の防御力は非常に優れているようだ。

 体勢を整えようとするレカンに、続けざまに〈炎槍〉が飛んできた。

 足を、腹を、肩を撃たれてレカンは翻弄され、ダメージを受けたが、それでも体勢を立て直し、次に飛んできた〈炎槍〉二発はかわすことができた。

 すると〈炎槍〉の連発が止まったので、レカンは敵をみすえつつ、思考をまとめる時間を得た。

 敵の魔法攻撃がレカンに届いた。

 これが何を意味するかといえば、〈インテュアドロの首飾り〉が働いていないということだ。つまり首飾りの魔力は、もうすべて抜かれてしまったのだ。

 この状況でできることは何か。

「〈ティーリ・ワルダ・ロア〉!」

 〈不死王の指輪〉の恩寵が発動し、レカンの体はわずかに白く濁った。今からしばらくのあいだ、レカンはどんな攻撃によっても傷つかない。

 腐肉王が、ちょこんと首をかしげた。

 〈妖魔斬り〉を振り上げ、レカンは腐肉王に突進した。

 腐肉王の右手の人さし指から巨大な〈炎槍〉が放たれ、レカンを直撃する。

 だがレカンはわずかな衝撃を感じただけで、ダメージは受けない。

 〈不死王の指輪〉の恩寵である〈無敵〉が発動しているあいだは、いかなる攻撃からもダメージは受けないのだ。

 レカンは猛然と腐肉王に襲いかかる。

 あと二歩で剣が届くというところで、レカンの体がぴたりと止まった。

 まるで透明な巨人につかまれたように、身動きができない。

 腐肉王の右手の人さし指から魔力が出ている。何かの魔法がレカンの動きを封じたのだ。

 レカンは、不可視のいましめに逆らって前に進もうと、体中の筋肉に力を送り込んだ。

 だが、進めない。レカンを阻む力は、少しも揺るがない。

 腐肉王が指をぐいと押し出すしぐさをした。

 とたんにレカンは後ろに吹き飛ばされた。

 岩の床に転がり、体のあちこちを岩にぶつけながら後ろに転がったレカンは、それでも体の制御を取り戻して立った。

 このとき、〈不死王の指輪〉の効果時間が切れた。

 腐肉王の指が天井をさした。

 レカンの体が天井に打ち付けられる。

 激しい痛みがレカンを襲う。

 腐肉王の指が床を指した。

 レカンの体が床にたたき付けられる。

 息が止まるかと思うような衝撃があった。

 腐肉王の指が右の壁を指した。

 レカンの体が右の壁に激突する。

 腐肉王の指は、天井と床と左右の壁を次々にさし、レカンはなすすべもなく、あちこちにぶつけられる。

 〈妖魔斬り〉は手から離れて落ちた。

 兜がちぎれて飛んだ。

 むき出しの頭が打ち付けられるのだけは防ごうとしたが、完全に防ぐことはできず、レカンの頭と顔は血だらけになった。鎧のなかの身体も、かなりの痛手を受けている。

 レカンは体が自由に動かせることに気づいた。

 腐肉王は右手を下げ、わずかに首をかしげながらレカンをみつめている。

 レカンは痛みをこらえて立ち上がった。

 頭がくらくらした。

「〈回復〉」

 顔と頭の傷がたちまちふさがり、血が止まった。視覚と聴覚と思考力が健全さを取り戻した。ただし、顔と頭が血まみれであることは変わらない。

「〈回復〉」

 鎧の上から〈回復〉をかけ、さらに魔力回復薬と赤ポーションを取りだして飲んだ。

 腐肉王は、そんなレカンをじっとみている。

 もてあそんでいるのかもしれない。

 だが、回復したり次の攻撃の準備をする時間をくれたりするというなら、相手の思惑などどうでもいい。

 とにかくできることは何でもやる。

 レカンは〈収納〉から〈トロンの剣〉を取り出した。

 白炎狼との戦いで折れ、半分ほどの長さになっている。

 それでも魔法を散らすことができれば、腐肉王を倒せるかもしれない。

 剣を構えて前方に進みつつ、呪文を唱えた。

「〈ゾルアス・クルト・ヴェンダ〉」

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― 新着の感想 ―
いかな<無敵>状態でも、身体の周りを例えば<移動>のような魔法で固めてしまえば動けなくなるって感じなのかな? もう魔法超えて無法ですね。、
ギミックボス臭がする
[良い点] 次から次に強い敵が出てくる。 [気になる点] 白炎狼を倒した分のレベルアップが入った上でこれって腐肉さん強すぎるけど、仮に腐肉さん倒したらレカンの存在格みたいなのとんでもない事になりそう
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