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目を覚ましたとき、何かを右手で握っているのに気づいた。
恐ろしく強大な魔力を持つ何かだ。
寝転がったままで、それを持ち上げ、みた。
魔石だった。
トロンの魔石と同じほどの大きさがある、美しく輝く深紅の魔石だ。
(白炎狼の魔石、か?)
それは白炎狼を倒したという証しだ。
あの強敵を、戦闘に特化した神獣を、ついにレカンは倒したのだ。
少しぼんやりした意識のまま、深い満足を味わいながら、その魔石を〈収納〉に入れ、再び眠りについた。
その次目を覚ましたときには、ひどく空腹なのを感じた。
それに、寒い。
夜だ。
むくりと起き上がると、まず両足に〈回復〉をかけた。
よく効いた。
魔力回復薬と体力回復薬を口にふくんでかみくだき、水をごくごくと飲んだ。
うまかった。
水が体中にしみ込んでいき、体がめきめき力を取り戻していくのを感じた。
自分の全身に〈回復〉をかけた。
枯れ枝を集めて燃やし、肉を焼き、スープを作った。出来上がるまで待つことはできなかったので、パンをかじりながら作業をした。
そしてゆっくり、食事をした。いくら食べても足りなかった。
食べ終わると、〈インテュアドロの首飾り〉に魔力をそそいでから眠りについた。
目が覚めると、まず服を〈収納〉から出して着た。折れ飛んだ〈トロンの剣〉を拾った。
寒かった。
体は冷えきっている。たき火を焚いて暖を取った。
白炎狼の死骸はなかった。今回の勝利で得られたものは、魔石だけということになる。
「さて、と。移動するか。それにしても、ここはどこだ?」
〈生命感知〉の探知範囲を最大限に広げながらしばらく歩くと、村がみつかった。
村に入り、村人に話しかけて、ここはどこだと聞いた。
村人から話を聞き、村の名はティレンといい、ここがモード男爵領だということがわかった。
ずいぶん北西の方角に移動していたのだ。
東に進めばトランシェの町があり、北東に進めばエジスの町があるという。ティレン村からみると、どちらも同じくらいの距離だが、若干エジスのほうが近いようだ。
レカンは村人から食料を買い、代金を払った。
村人たちは、明らかにレカンを警戒し、恐れていたので、村で宿泊先を探すのはあきらめ、そのまま森に入って北東を目指した。
この方角に進めばエジスに着くか、あるいはエジスとトランシェをつなぐ街道に出る。エジスから王都には街道がつながっているので、そこからマシャジャインに帰ることができる。
森のなかで野営しようとして、あたりを〈生命感知〉と〈立体知覚〉で調べたとき、木々が密集して生えているその奥に、〈立体知覚〉が及ばない場所があるのに気づいた。
「なにっ?」
レカンはその場所に近づいていき、様子をさぐった。
土が盛り上がった場所がある。こうしてみると、山の一部にしかみえないが、木々に取り囲まれるようになっていたため、うっかり〈立体知覚〉で探査してしまったのだ。普通は土のなかなど探査しようとはしないが、探査できないわけではない。ところが、この場所はレカンの〈立体知覚〉では探査できない。
こんな反応を示すものは、ただ一つしか心当たりがない。
「〈炎槍〉! 〈炎槍〉! 〈炎槍〉!」
邪魔な木々や草を吹き飛ばしたところ、山肌があらわになってきた。
レカンは、そこをじっとみつめた。
そして後ろに下がると右手を構え、魔力を練り上げて、呪文を唱えた。
「〈炎槍〉!」
特大の〈炎槍〉が山肌を直撃し、岩を砕き土を吹き飛ばした。
そこに、穴が現れた。
迷宮だ。
やはり迷宮だった。
レカンは〈収納〉から小型のシャベルを取り出して、土をかき分け、岩をどかした。
間違いなく迷宮だった。迷宮の入り口が土と岩に埋もれていたのだ。
もしかすると、未発見の迷宮かもしれない。とすれば、当然ながら未踏破ということになる。
レカンのような迷宮専門の冒険者にとり、未踏破の迷宮を踏破するというのは、最高に楽しい冒険だ。しかも、誰も入ったことのない迷宮なのだ。ぞくぞくするような喜びが湧き上がってくる。期待がふくれあがる。
手早く食事を済ませると、着替えをした。
幸い、ユフでもらった鎧がある。大炎竜の革とディラン銀鋼でできた、部分別に装着するフリーサイズの鎧だ。デュオ・バーンが身に着けていたのとほぼ同じ造りになっているが、ユフ迷宮騎士団の紋章は入っていない。王宮への献上品にしたり、他の諸侯への贈答品にしたりするために作られた鎧なのだ。
普段着て歩くには仰々しすぎる品だが、物理魔法双方の防御力の高さは折り紙つきで、しかも完全な金属鎧に比べれば、ずっと自由に動ける。
兜はどうしようかと少し悩んだが、装着した。兜をかぶると視界が悪くなるが、レカンには〈立体知覚〉がある。あまり兜は好きではないが、一度は使い心地を試しておきたかった。
ガントレットは装着しなかった。
左手にガントレットを着けると、手甲にした〈ウォルカンの盾〉が着けられない。右手は自在に剣をあやつるため自由にしておきたかった。
腰に吊るのは〈ラスクの剣〉だ。
手甲の形に縮小した〈ウォルカンの盾〉を左手に装着した。
〈ローザンの指輪〉
〈インテュアドロの首飾り〉
〈ハルトの短剣〉
〈不死王の指輪〉
〈闇鬼の呪符〉
〈白魔の足環〉
そして、〈ザナの守護石〉
万全といってよい装備だ。迷宮の浅い階層を探索するには大げさすぎる準備だが、まったく未知の迷宮なのだから、用心するに越したことはない。
もうすっかり日は落ちて暗くなっており、逆に迷宮のなかだけがぼんやりと明るい。
曇り空ではあったが、夜になっていよいよ雲が厚い。
湿った風が吹いたかと思うと、ぽつりぽつりと雨が落ちてきて、遠方で稲妻が光った。
レカンが迷宮のなかに足を踏み入れるのとほとんど同時に、迷宮の外では、土砂降りの雨が山に降りそそいできた。




