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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第52話 腐肉王の迷宮
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 目を覚ましたとき、何かを右手で握っているのに気づいた。

 恐ろしく強大な魔力を持つ何かだ。

 寝転がったままで、それを持ち上げ、みた。

 魔石だった。

 トロンの魔石と同じほどの大きさがある、美しく輝く深紅の魔石だ。

(白炎狼の魔石、か?)

 それは白炎狼を倒したという証しだ。

 あの強敵を、戦闘に特化した神獣を、ついにレカンは倒したのだ。

 少しぼんやりした意識のまま、深い満足を味わいながら、その魔石を〈収納〉に入れ、再び眠りについた。

 その次目を覚ましたときには、ひどく空腹なのを感じた。

 それに、寒い。

 夜だ。

 むくりと起き上がると、まず両足に〈回復〉をかけた。

 よく効いた。

 魔力回復薬と体力回復薬を口にふくんでかみくだき、水をごくごくと飲んだ。

 うまかった。

 水が体中にしみ込んでいき、体がめきめき力を取り戻していくのを感じた。

 自分の全身に〈回復〉をかけた。

 枯れ枝を集めて燃やし、肉を焼き、スープを作った。出来上がるまで待つことはできなかったので、パンをかじりながら作業をした。

 そしてゆっくり、食事をした。いくら食べても足りなかった。

 食べ終わると、〈インテュアドロの首飾り〉に魔力をそそいでから眠りについた。

 目が覚めると、まず服を〈収納〉から出して着た。折れ飛んだ〈トロンの剣〉を拾った。

 寒かった。

 体は冷えきっている。たき火を焚いて暖を取った。

 白炎狼の死骸はなかった。今回の勝利で得られたものは、魔石だけということになる。

「さて、と。移動するか。それにしても、ここはどこだ?」

 〈生命感知〉の探知範囲を最大限に広げながらしばらく歩くと、村がみつかった。

 村に入り、村人に話しかけて、ここはどこだと聞いた。

 村人から話を聞き、村の名はティレンといい、ここがモード男爵領だということがわかった。

 ずいぶん北西の方角に移動していたのだ。

 東に進めばトランシェの町があり、北東に進めばエジスの町があるという。ティレン村からみると、どちらも同じくらいの距離だが、若干エジスのほうが近いようだ。

 レカンは村人から食料を買い、代金を払った。

 村人たちは、明らかにレカンを警戒し、恐れていたので、村で宿泊先を探すのはあきらめ、そのまま森に入って北東を目指した。

 この方角に進めばエジスに着くか、あるいはエジスとトランシェをつなぐ街道に出る。エジスから王都には街道がつながっているので、そこからマシャジャインに帰ることができる。

 森のなかで野営しようとして、あたりを〈生命感知〉と〈立体知覚〉で調べたとき、木々が密集して生えているその奥に、〈立体知覚〉が及ばない場所があるのに気づいた。

「なにっ?」

 レカンはその場所に近づいていき、様子をさぐった。

 土が盛り上がった場所がある。こうしてみると、山の一部にしかみえないが、木々に取り囲まれるようになっていたため、うっかり〈立体知覚〉で探査してしまったのだ。普通は土のなかなど探査しようとはしないが、探査できないわけではない。ところが、この場所はレカンの〈立体知覚〉では探査できない。

 こんな反応を示すものは、ただ一つしか心当たりがない。

「〈炎槍〉! 〈炎槍〉! 〈炎槍〉!」

 邪魔な木々や草を吹き飛ばしたところ、山肌があらわになってきた。

 レカンは、そこをじっとみつめた。

 そして後ろに下がると右手を構え、魔力を練り上げて、呪文を唱えた。

「〈炎槍〉!」

 特大の〈炎槍〉が山肌を直撃し、岩を砕き土を吹き飛ばした。

 そこに、穴が現れた。

 迷宮だ。

 やはり迷宮だった。

 レカンは〈収納〉から小型のシャベルを取り出して、土をかき分け、岩をどかした。

 間違いなく迷宮だった。迷宮の入り口が土と岩に埋もれていたのだ。

 もしかすると、未発見の迷宮かもしれない。とすれば、当然ながら未踏破ということになる。

 レカンのような迷宮専門の冒険者にとり、未踏破の迷宮を踏破するというのは、最高に楽しい冒険だ。しかも、誰も入ったことのない迷宮なのだ。ぞくぞくするような喜びが湧き上がってくる。期待がふくれあがる。

 手早く食事を済ませると、着替えをした。

 幸い、ユフでもらった鎧がある。大炎竜の革とディラン銀鋼でできた、部分別に装着するフリーサイズの鎧だ。デュオ・バーンが身に着けていたのとほぼ同じ造りになっているが、ユフ迷宮騎士団の紋章は入っていない。王宮への献上品にしたり、他の諸侯への贈答品にしたりするために作られた鎧なのだ。

 普段着て歩くには仰々しすぎる品だが、物理魔法双方の防御力の高さは折り紙つきで、しかも完全な金属鎧に比べれば、ずっと自由に動ける。

 兜はどうしようかと少し悩んだが、装着した。兜をかぶると視界が悪くなるが、レカンには〈立体知覚〉がある。あまり兜は好きではないが、一度は使い心地を試しておきたかった。

 ガントレットは装着しなかった。

 左手にガントレットを着けると、手甲にした〈ウォルカンの盾〉が着けられない。右手は自在に剣をあやつるため自由にしておきたかった。

 腰に吊るのは〈ラスクの剣〉だ。

 手甲の形に縮小した〈ウォルカンの盾〉を左手に装着した。

 〈ローザンの指輪〉

 〈インテュアドロの首飾り〉

 〈ハルトの短剣〉

 〈不死王の指輪〉

 〈闇鬼の呪符〉

 〈白魔の足環〉

 そして、〈ザナの守護石〉

 万全といってよい装備だ。迷宮の浅い階層を探索するには大げさすぎる準備だが、まったく未知の迷宮なのだから、用心するに越したことはない。

 もうすっかり日は落ちて暗くなっており、逆に迷宮のなかだけがぼんやりと明るい。

 曇り空ではあったが、夜になっていよいよ雲が厚い。

 湿った風が吹いたかと思うと、ぽつりぽつりと雨が落ちてきて、遠方で稲妻が光った。

 レカンが迷宮のなかに足を踏み入れるのとほとんど同時に、迷宮の外では、土砂降りの雨が山に降りそそいできた。

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― 新着の感想 ―
白炎狼との死闘を乗り越えたばかりなのに未踏の迷宮見つけたらホイホイ入っちゃう迷宮バカ。 そういうレカンが好き。
ここ掘れワンワン૮ ฅ•ᴥ•აฅ
[一言] 今までの迷宮の説明から、出現場所はともかくできたら目立つようになってると思ってたので この迷宮は誰かに隠されたのかなと思っちゃいますね その理由が難易度の高さから無駄死を防ぐためか、神薬確定…
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