表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狼は眠らない  作者: 支援BIS
第51話 魔王降臨
612/702

2

2


(む)

(魔獣がいる)

(とても強力な個体だ)

 〈生命感知〉の範囲ぎりぎりに、すなわち二千五百歩先に、反応があった。

 進路を斜め右に取った。このまま進めば、敵の千歩ほど右を通過することになる。

 次第に魔獣との距離は近づいてゆく。だが、敵に反応はない。

 進路を少しだけ左に修正した。

 黴のような匂いが漂ってくる。

(ふむ)

(強い個体とも一度戦ってみておいたほうがいいな)

 レカンは前進速度を緩め、左に転進した。エダは何も言わずレカンに合わせた。

 五百歩に近づいても、敵は動かない。

(そろそろこちらに気づいてもよさそうなものだが)

 レカンはさらに速度を緩め、魔獣に近づいてゆく。

 距離は二百歩を切った。

 百。

 〈立体知覚〉の範囲に入った。敵は身をかがめたようにして、じっとしている。

 レカンは剣を抜いた。〈ラスクの剣〉だ。

 左手首には〈ウォルカンの盾〉が、左の薬指には〈ローザンの指輪〉が、人さし指には〈不死王の指輪〉が装着されている。もちろん、〈ザナの守護石〉も〈ハルトの短剣〉も〈インテュアドロの首飾り〉も〈白魔の足環〉も装備している。

 レカンは再び前進を始めた。

 五十。

 草を踏み分ける音だけが響く。

 三十。

 二十。

 レカンは停止した。

 草むらの向こうにはっきり魔獣の姿が目視できる。

 頭部が異様に大きい魔獣だ。顔の周りに長い毛がたくさん生えている。髪のようであり、髭のようであり、体毛のようでもある。

 目を閉じて、じっとしている。石像のようだ。

 うずくまった状態でもレカンの身長に負けない体高がある。

(まさか寝ているのか?)

(あるいは仮死状態か何かか?)

 深く息を吸うと、突進を開始した。

 魔獣の目がかっと開いた。

 巨大な口をばくりと開け、黒いもやのようなものをはき出した。

 強烈なかび臭さが漂った。

 敵が飛びかかってくる。

 レカンは剣を振り上げ、相手の顔の中央に振りおろそうとした。だが、狙いが狂い、魔獣の左肩のあたりをたたいてしまい、長い体毛の上で剣が滑る。

 魔獣は巨大な左前脚をレカンの顔にたたき付けてきた。

 かわそうとしたが、うまくかわせず、左肩に痛撃を受けた。まるでバトルハンマーのように強烈な打撃だ。

(いかん!)

 そのまま右前方に倒れ込む。

 と同時に魔獣の巨大な顔にエダが放った魔法矢が突き刺さる。

 魔獣はいったん着地し、うなりをあげてエダに襲いかかる。

 レカンは起き上がろうとしたが、うまく体が動かせない。

 剣を放し、〈収納〉に右手を差し入れた。

(黄色ポーション、緑ポーション、赤大ポーション)

 念じると、その三つをつかみとることができた。

 そのまま口に放り込む。

 体が動くようになった。立ち上がって〈収納〉から〈彗星斬り〉を取り出すと魔法刃を生成した。

 目の前でエダが、魔獣の攻撃から身をかわしながら〈イェルビッツの弓〉で攻撃している。

 レカンは魔獣に駆け寄り、斜め後ろから胴体に魔法刃を振りおろした。

 魔獣はすさまじい怒りの声をあげて振り向いた。

 おそろしく醜い顔だ。

 レカンは飛びかかってきた魔獣の顔に十文字に剣を振るい、左に体をかわした。

 魔獣は再び振り返って、威嚇の声をあげた。

 レカンは足がすくみ、気力が萎えるのを感じた。

 だが気力を振り絞って足を踏み出し、魔獣の真上から魔法剣を切り下ろした。

 ぐらり、と魔獣の体が傾き、倒れたと思ったら、そこに宝箱があった。

 レカンはその場にへたりこんだ。

「レカン、大丈夫?」

「ああ。お前、けがはないか?」

「うん。平気。いったい、どうしたの?」

「わからん。が、お前は体がしびれたりしていないんだな」

「うん」

 エダには、呪い抵抗のついた〈ギエナの髪留め〉と、毒無効のついた〈イルレントの護符〉を装備させている。そして〈睡眠〉の使い手であるエダは、精神系魔法に耐性がある。

 いっぽうレカンは、呪い無効のついた〈ハルトの短剣〉と、異常耐性と毒耐性と呪い耐性のついた〈ローザンの指輪〉をしている。〈ハルトの短剣〉ほど効果は強くないが、〈ザナの守護石〉にも呪い無効がついている。

 たぶん、あのかび臭い匂いが敵の攻撃だったのだ。魔力を飛ばしてくる精神系魔法なら〈インテュアドロの首飾り〉が障壁を張ったはずだ。だが、物理的な粉ははじかない。その粉のなかに、毒と精神系魔法がこもっていた。そんなことがあるのかどうかわからないが、今のところほかに考えられない。

 だからエダには効かなかったが、レカンには効いた。ただし、〈ローザンの指輪〉が効果を弱めてくれたので、多少は動くことができた。

「レカン。左肩、血が出てる」

「ああ、赤ポーションを飲んだから、傷は治っている」

「外套と鎧も裂けてるよ」

「この鎧と外套を着けてなかったら、左腕をもぎ取られていたろうな。助かった」

「この魔獣、なんて魔獣なのかな」

「わからんが、獅鬼族とかいうやつだろうな」

 宝箱のなかに入っていたのは、エダが持っているのと同じ〈退魔の腕輪〉だった。エダの〈退魔の腕輪〉を昨夜鑑定したときは深度が百二十もあった。この腕輪の深度も深いのだろう。

「いきなりきついのに当たったな。待てよ。今の魔獣には、〈退魔の腕輪〉が効いてたか?」

「ううん。効果なかったと思う」

「そうか。一体とか二体で出現する魔獣には効かないと思っておくべきだな。さて、もう少し進もう」

「うんっ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 魔法対策に対するメタ持ちでかつ魔法は強烈 それでいて接近戦も力強い攻撃を繰り出せる、かなり厄介な魔獣ですね 強さはここまでではないでしょうけどこの魔獣も外の世界にいると思うと恐ろしい
[一言] 筒井康隆様然り木城ゆきと様然り、出版社と折り合いがつかづ本を出す会社が変わる事はよくある話ですね 今までの紙媒体等は全て購入させていただいてる者として狼は眠らない第5巻をどの出版社からでも…
[良い点] 毒や魔法が込められた微粉を吐き散らしてくるとは新しいですね。若し微粉が無色透明無味無臭だったら、と考えると訳も分からず苦しむ事になるので現代の化学兵器のようですね↓恐ろし過ぎる・・・ [気…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ