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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第50話 ユフ動乱
610/702

14(ユフ迷宮地図あり)


14


 明け方近くに宿に帰ったレカンは、そのまま寝た。

 目を覚ましてから部屋で朝食を取りながら、エダとぽっちゃりに、これからの予定を説明した。

 騎士フーツラが来るのを待ちかねて西門に案内させた。騎士フーツラは従騎士二人にそれぞれ馬を引かせてやってきたが、レカンは馬を断った。

 西門を出ると迷宮の入り口に向かってエダと走った。騎士フーツラは馬に乗って追いかけてきたが、馬が急峻な坂道を上る速度は速くない。置き去りにした。何かわめいていたが、無視した。

 そもそも西門を出てしまえば、フーツラの案内など必要なかった。ユーフォニアから迷宮入り口までの地図は騎士ノッドレインからもらっていたし、ごくわかりやすい道だった。

 坂道を走るのはきついが、レカンとエダは体力回復薬を飲み、また途中で何度か〈浄化〉で体調を整え、昼には入り口についた。雪に覆われていた。二日かかる道のりを半日でこなしたわけだ。軽い食事を取ってから、迷宮に入った。

 入り口をくぐった場所は薄暗かった。

 念のためエダと手をつないで〈転移〉の呪文を唱えた。

 ふわりと落ちるような感触があり、気がつけば赤い砂の上だった。

 明るい。

 こんなに明るい迷宮も珍しい。

 これほど空が高い迷宮も珍しい。

 そしてここまで広大な迷宮は、生まれてはじめてだ。

 目の前には広々とした草原があり、その向こうには山が見えている。山の向こうには谷があるはずだし、山の右奥には湖沼エリアがあるはずだ。振り返ってみれば、後ろは砂漠だ。

「〈階層〉」

 呪文を唱えると、地上階層への転移ができる状態だと確認できた。

 この赤い砂漠にいるあいだに、いくつか確認しておくことがある。

 ここにいるあいだは、魔獣から察知されることも襲われることもないのだ。

 そしてレカンの〈生命感知〉が赤い砂の向こうには届かない。ここは普通の迷宮でいう階段にあたる場所なのだ。

「〈鑑定〉〈着火〉〈障壁〉〈浮遊〉〈回復〉〈雷撃〉〈図化〉〈創水〉〈移動〉〈隠蔽〉〈灯光〉〈炎槍〉〈火矢〉〈引寄〉〈閃光〉〈風よ〉、なにっ」

「ど、どうしたの?」

「いや。何でもない」

 一瞬あわてたが、〈生命感知〉も〈魔力感知〉も〈立体知覚〉も、正常に働いている。問題ない。

 ふうっ、と大きく息をついた。

 この世界で習い覚えた魔法が使えないのは、昨日の騎士ノッドレインとの話でわかっていた。だが、もとの世界で覚えた技能である〈突風〉が使えないのは予想外だった。探知系の技能は問題なく使えている。どうも、〈突風〉はこの世界では魔法だとみなされ、探知系の技能はそうではないようだ。

 ともあれ、〈生命感知〉が使えることが確認できて、ほっとした。たぶん使えるだろうとは思っていたが、もし使えなかったら困難の度合いが一気に増す。

「エダ。魔弓を撃ってみろ」

「うん」

 エダはイェルビッツの弓を取り出して構えて撃った。

 ちゃんと撃てている。

 これも騎士ノッドレインとの話で大丈夫だろうとは思っていたが、もしも魔弓が撃てないようなら、エダはここから帰らせねばならなかった。

 次にエダに〈浄化〉を使わせてみたが、発動しなかった。レカンの〈回復〉が発動しなかったのだから、これは予想通りだ。

 次に〈コルディシエの杖〉を取り出して、呪文を唱えたが、仕込んである対物理魔法障壁は発動しなかった。

 次に〈赤火弾の杖〉を取り出した。これはもとの世界の品で、呪文を唱えれば魔法使いでなくても魔法が撃てる品だ。この杖には、〈赤火弾〉の初級魔法が五発詰まっている。

「エダ。〈インテュアドロの首飾り〉は装備してるな。今、お前の体の近くに魔法を撃ち込む。動くなよ」

「うん」

 レカンは杖を構え、呪文を唱えた。すると〈赤火弾〉が飛び、〈インテュアドロの首飾り〉の魔法障壁に阻まれて四散した。

 〈コルディシエの杖〉に仕込んだ魔法は発動しなかったが、〈赤火弾の杖〉に詰めた魔法は発動した。〈インテュアドロの首飾り〉の対魔法障壁も発動した。ということは、この迷宮では、魔法が使えないというより、発動に魔力や魔法的技術が必要な魔法は発生しないのだろう。

「よし。〈インテュアドロの首飾り〉は問題なく使えるな。草原に入るぞ」

「うん」

 少し歩いて、二人は草原に足を踏み入れた。ここからが本当の一階層だ。

 そしてこの場所でも〈生命感知〉はちゃんと働いている。

 範囲内には魔獣も人もいない。

「もう一度弓を撃ってみろ」

「うん」

 エダはもう一度イェルビッツの弓を撃った。問題なく発動している。

 レカンは〈収納〉から〈雷竜の籠手〉を取り出して左手にはめた。

(よし)

(魔力が通っているな)

 そのまましゃがみ込んで草の生えた地面を殴りつけた。

 発光と爆発が起こり、雷撃が飛び散って、草と土が吹き飛んだ。

「ぺっ、ぺっ。レカン、予告もなしにそれはちょっとひどいんじゃない?」

「すまん」

「頭に草がいっぱいついてるよ」

 レカンがしゃがむと、エダが頭や肩についた草の葉を取ってくれた。

「さて、次だ。〈ゾルアス・クルト・ヴェンダ〉」

 とたんにレカンは三十歩近く前方に転移した。

 始原の恩寵品も問題なく使える。

 最後にレカンは〈彗星斬り〉を取り出し、魔法刃を生成した。

 草むらをなぎ払った。

 問題なく使える。

 魔法刃を消した。

「とりあえず試しておかなくてはならんのは、このぐらいかな」

(最初は少し慎重に進むか)

 絶対に通ってはいけないと言われたのは山エリアと谷エリアだ。

 山には飛竜族が飛んでいる。その飛行速度は速いし、恐ろしく遠方から人間をみつけるので、どうしても戦闘続きになってしまう。少人数ではとても進めないという。

 谷には猛鳥族が飛んでいる。群れをなして飛ぶし、比較的早く仲間を呼び集め始めるので、厄介なことこの上ない。ここも少人数では進めないという。

 砂漠も避けたほうがいいという。歩きにくいし、体力を奪われ、踏破するのに時間がかかる。そのうえ、ここに出現する魔獣とは非常に戦いにくいという。

 湖沼も難所だし、騎士団にとっては非常に進軍しにくい地帯だが、レカンなら何とかなるだろうということだった。

 レカンは地図を取り出してにらみつけた。

 ノッドレインによれば、迷宮騎士団がユーフォニアを出て迷宮に着くまで二日かかるという。レカンは身軽だからもっと早く着けるだろうが、今回の伝令でも、一応迷宮到着まで二日かかるとみつもった。

 最初の草原を越えて山の右側の裾野にたどり着くのに五日。もちろん順調に前進できたとしての話だ。

 そのあと、湖沼を通って岩山に入り、岩山の裾野をぐるりと迂回して草原に出るまでに八日。

 草原を抜けて岩山にたどり着き、岩山の裾野を越えるのに七日。

 草原を突っ切り、砂漠の端をかすめて草原に入るまでに六日。

 それがノッドレインのみたてだ。最後の草原に入ったら迷宮騎士団を探さねばならない。草原に入って六日でみつけられたとして、そこまでで三十四日かかる。

 そこから二日かけて神殿に移動し、三日かけて神殿を踏破し巨人族の三体の魔獣を倒したとする。さらに、迷宮騎士団が迷宮から出てユーフォニアに下りてくるまでに二日かかる。合わせて四十一日だ。

 今日が、二の月の八日だ。ノッドレインは、三月の中旬を過ぎれば、包囲側も強硬な手段に出る可能性があると言った。三月の二十日まで、あと五十二日ある。

 迷宮騎士団を呼び戻すのが早ければ早いほど、ルビアナフェル姫が危険に遭う確率が減る。

 レカンは胸いっぱいに空気を吸い込んだ。空気は新鮮だ。

 迷宮だというのに風がそよいでいる。

「さてと、行くか」

「うん!」

 レカンとエダは走り始めた。

 目の前にははじめての迷宮が果てしなく広がっている。

 隣にはエダがいる。

 冒険が終われば帰る家がある。

 この世界に来てよかった、とレカンはしみじみ思っていた。





挿絵(By みてみん)

ノッドレインが指示したレカンの進路

「第50話 ユフ動乱」了/次回9月2日「第51話 魔王降臨」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] なんだこのふざけたマップw 砂漠や草原隣接してるのかよw
[一言] ご返答ありがとうございます。 なるほど納得です!
[気になる点] ・「〈階層〉」  呪文を唱えると、地上階層への転移ができる状態だと確認できた。 ・レカンは杖を構え、呪文を唱えた。すると〈赤火弾〉が飛び、〈インテュアドロの首飾り〉の魔法障壁に阻まれ…
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