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「ヴルスを復活させただと!」
「もちろん完全な形での復活じゃないよ。ごく小さくて弱い、形ばかりの復活さ。それでも完全体と同じ形質を備えているんだから、実験にはちょうどいい」
「まさか、魔石から魔獣を復活させることができるのか?」
「そこからかい。普通の魔石は魔獣の魔力の残滓だ。まあ、置き土産みたいなもんだ。だけどある程度以上の魔獣、実際にはほぼ上級竜種にかぎられるけど、ある程度以上の魔力量と魔力密度を持つ魔石を残す魔獣についての情報は、すべてその魔石に含まれている」
「情報?」
「要するに、上級竜種の魔石は、卵なのさ。ほっておけば自然に魔力を蓄え、環境が整えば復活する。自然に復活するには、ひどく長い時間がかかるけど、今回は無理やり魔力を注入し、擬似的に環境を調えて復活させた」
「何を言ってるのかさっぱり理解できんが、あんたがとんでもない人で、とんでもないことをやっていたんだということはわかった」
「おだてるんじゃないよ。あ、そうだ。聞くのを忘れてたけど、魔石は〈生命感知〉には映らないだろうね」
「ああ、〈生命感知〉には映らない。〈魔力感知〉なら捉えることができるが」
「そうだろうね。そうでなくちゃいけない。魔石は生命素子を持たないんだからね。さて、ヴルスが生まれ落ちる瞬間を記録し、何度か観察するうちに、ついにあたしは答えをみつけた」
「ほう」
「螺旋さ」
「らせん?」
「竜巻のように、ぐるぐると立体的に巻いているのさ。生命素子ってのは、その構成要素が螺旋のように並んでるんだ。ヴルスが誕生した瞬間、その螺旋が生じた。左巻きの螺旋がね」
「ほう?」
「気づいたときには、あっと声を上げたよ。それから、いろんな素材の生命素子の螺旋の向きを調べた。すると魔獣は左巻き、人間は右巻き、獣や虫や魚や鳥は、両方が混じってた。こんな簡単なことだったんだよ」
「ほう、簡単だな。オレにはちっともわからんが」
「どうしてこんなことに気づかなかったんだろう。答えはずっと目の前にあったんだよ。数え切れないほどそれを観察してきたというのに、まさかこんなところに答えがあったなんてね」
「よかったな」
「いさぎいいほど人ごとだね。とにかく研究は一気に進展した。あたしはあたし自身の生命素子を調べた。左巻きだったよ」
「魔獣あるいは妖魔だな」
「あんたは気持ちがいいほど遠慮がないね。研究者向きかもしれないよ。さて、あたしは次の段階に進むことを決意した」
「次の段階?」
「螺旋の向きを変えるのさ」
「なに?」
「獣、虫、魚、鳥の生命素子は、さっきも言ったように右巻きと左巻きが混じってる。これを全部左巻きにするのは簡単だった」
「できるのか、そんなことが?」
「ちっぽけな虫の生命素子を書き換えるだけで、びっくりするような魔力が必要だったけどね。できたさ。ただし、生命素子の書き換えをした生き物は、長くは生きられなかった。これは、右巻き左巻き両方の生命素子を持つことで得られていたある種の力が失われたためだったとわかった。たぶんその力があんたの〈生命感知〉には緑色として認識されたんだろうね」
「ふうん」
「だけど左巻きの生命素子を右巻きに変えるのは、なかなか成功しなかった。あたしはふと思いついて、普通の魔法使いが魔力を込めた杖を使って実験してみた。すると成功した」
「ほう」
「糸口がつかめたんで、そのあとの検証ははかどったさ。左巻きを右巻きに変えるには、魔石から得た魔力ではだめで、人間の魔力ならうまくいった。ただし一度魔石に蓄積した場合は人間の魔力でもだめだった。そして複数の魔法使いの魔力を混ぜると成功率が落ちた。実験対象が持っている魔力が大きければ大きいほど、書き換えに必要な魔力も大きくなった」
「魔石の魔力と人間の魔力に質的なちがいがあるのか?」
「魔力の質というより、力の方向の問題だと思う。とにかく、〈生命感知〉で青色に映るものから発した魔力では、左巻きから右巻きへの書き換えはできないってこったね」
「頭が痛くなってきた。この話はまだ続くのか」
「少しはしょって話すと、あたしの生命素子を右巻きに戻すには、上級竜種なみの、しかも魔獣由来ではない単一の魔力が必要だとわかった」
「なにっ。そんなことを考えていたのか。しかし上級竜種なみの魔力を持った人間なんて、いるわけがない。あんた自身を除けばな」
「ところが、あたしの魔力じゃだめなんだ。しかも魔力量は、あたしの持ってる魔力よりずっと多くないといけない」
「そりゃ無理だ」
「そうだね。この世界にかぎっていえばね。でもあんたは、バリフォアの魔石を持ってた」
「あれは魔獣だろう」
「この世界ではまだ魔獣になっていないんだよ。この世界のどの事象ともまだ紐付けされていない力が、あれにはこもっていた。あれを使えばあたしは自分の生命素子を右巻きに書き換えられると考えた。そしてその推測は正しかった。試みは成功したのさ」




