6
6
「いや。ちがわない」
「この世界には魔力を持ってる人間と、持ってない人間がいる。というか、ふつう人間は魔力を持っていない。持ってる人間のほうが珍しいんだ」
「それは、魔法を行使できるほどの魔力という意味だろう。魔力がないということは、生命がないということだ。生命を持たない人間などいるわけがない。いたとしたら、それはもう人間じゃない」
「その信念というか、思い込みが、たぶんこんな面白い事態を引き起こしたんだろうねえ。よくわかんないけど」
「なに? 何のことを言ってるんだ?」
「あんた、この世界に落ちたばかりのとき、〈生命感知〉で感知できない人間がいただろう」
「ああ」
「しかもそのなかには、かなりの強者、つまり強い生命力を持ったやつもいた」
「ああ」
「こんなはずはない、とあんたは思った。それで相手のごく近くで〈魔力感知〉を最大限の精度で発動した。すると相手の魔力が、つまり生命力が感知できた。それからは〈生命感知〉でも相手が認識できるようになった」
「驚いた。よく覚えているな」
「そりゃあ、そうさ。こんな重要な手がかりを忘れるわけがない。ちゃんと記録もしてある」
「記録?」
「そもそも、〈生命感知〉でも〈魔力感知〉でも、同じ色にみえるというのがおかしいんだ。その二つの技能は種類がちがう。この世界のルールからするとね。なのに同じような判別をする。それがおかしい」
「オレはこの世界の生まれじゃない」
「だけど今はこの世界にいる。まあ、いいからお聞き。あんたがいた世界とこの世界は、ひどくよく似ている。たぶんあまりに異質な世界とは通路がつながらないんじゃないかと思う。けれどよく似ているといっても、やはり異世界だ。ものの存在のありようも、現象が起きるその起き方も、同じではない。だから、すり合わせというか、適応が起きた」
「適応?」
「あんたの能力は、この世界のルールに沿って修正されたのさ」
「何のことかわからん。前の世界で使えた能力は、この世界でも問題なく使えているぞ」
「あんたがこの世界に来て〈生命感知〉を使ったとき、最初人間は映らなかった」
「いや。二人は映ったんだ。その二人は魔法使いだった」
「へえ、そうだったのかい。魔力を持った人間は映ったんだね。だけど魔力を持たない人間は映らなかった。それはあんたにとって、あり得ないことだった。生きた人間であるなら必ず〈生命感知〉に映るはずだからね。だからあんたは、映れ、と強く念じて、〈魔力感知〉を発動した。その場面で〈魔力感知〉を使ったということは、〈生命感知〉より〈魔力感知〉のほうが精度が高いんだろうね」
「そうだ。〈魔力感知〉はごく近くでしか使えないが、精度をうんと上げることができる」
「念じたということは、祈ったということさね。あんたの祈りは、この世界の神々に届いた」
「神々に祈ったわけじゃない」
「じゃあ、この世界の法則の根源をつかさどる働きの発動を促した、と言い換えておこうかね。とにかく、その結果、能力の作り替えというか修正が起きた」
「能力の作り替えだと?」
「〈生命感知〉や〈魔力感知〉は、魔力あるものを映し出す能力だ。魔力のないものは映らない。あんたの世界じゃ、生命を持つものには必ず魔力があった。だから〈生命感知〉や〈魔力感知〉には、生きている人間は必ず映る。ところが、この世界には魔力のない人間がいる。この世界のルールと、あんたの能力の定義が矛盾したわけだ。そこですり合わせがおこなわれ、魔力のない人間は薄い光で表示されるようになった。あんたはそれを微弱な魔力だと解釈した。だけどそうじゃなかったんだよ。あんたの能力が、この世界のルールに適応して作り替えられたのさ」
「な……に……?」
シーラの言うことをきちんと理解できたわけではないが、納得できる部分もあった。レカンは以前からおかしいとは思っていたのだ。エザクの前で〈魔力感知〉を最大限に働かせて、エザクを認識できるようになり、それからというものは〈魔力感知〉でも〈生命感知〉でも、問題なくすべての人間を捉えることができるようになった。だが、どうして最初からできなかったのか。そこに違和感を覚えてはいたのだ。
「適応は、ほかのとこでも起きてるよ。例えば魔法さ」
「魔法?」
「あんたの世界じゃ、魔法は迷宮なんかで魔獣を倒して得られる技能なんだね」
「そうだ」
「あんたはずいぶんいろんな迷宮でいろんな魔獣を倒したはずだ。だけどあんたは、自分には魔法は使えないと言った」
「ああ。魔法を得やすい魔獣をいくら倒しても魔法を習得できない人間がいるんだ。魔法への適性が低いんだな。これは保有魔力の大小には関係ない」
「へえ、そうかい。この世界における魔法の適性ってのはね、どんなタイプの魔法を習得しやすいかってことなんだ。大きな魔力を持ってるのにどんな魔法も覚えられないなんてことはあり得ないんだよ」
「おかげでオレも魔法を使えるようになった」
「あんたはこの世界に来て、いつ魔法が使えるようになったと思ってるんだい」
「あんたに魔法を教えてもらったときだ。〈灯光〉の魔法をな」
「それはちがうよ」