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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第7話 ゴルブル迷宮再訪
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 本当に大きかった。

 皺男は、普通の個体でも、天井に届くかと思うほどの身長がある。

 この大型個体はその倍ほどの身長がある。当然、立つことはできず、座っている。その巨体で、ほとんど部屋は埋め尽くされているといってよい。

 皺男の動作はにぶい。そして攻撃されるまで自分からは攻撃しない。

 レカンは、魔力を練り上げてあるその上から、さらに魔力を練った。

 右目を閉じ、まるで天から降ってくる何かを受けとめるかのように、両手の指を大きく開き、指先の隅々から魔力を発生させた。手の指からだけではない。ブーツのなかの足の指からもだ。

 そして魔力は体内をめぐる。めぐりながら肉体の各所に秘められた魔力を吸い上げてゆく。魔力は奔流となり、丹田に流れ込む。先に練った魔力の塊を包み込むように、新たな魔力が旋回を始める。

 もはや両の手は開かれていない。荒れ狂う力を押し込めるように、厳しくこぶしは固められ、ぶるぶると震えている。

 レカンは右足と右手を引き、かっと右目をみひらいて、目標をみさだめる。

 動く。

 動く。

 巨大な魔力が丹田から右腕に動いてゆく。

 熱い。

 熱い。

 全身が熱い。

 全身を引き絞って、噴出のための最後の準備が行われる。

 そして。

「〈炎槍(バンドルー)〉!!!」

 雄叫びをあげながら、レカンは右のこぶしを開いて前方に突き出す。

 まばゆい光がわきおこり、光の槍が現出したかと思うと、まっしぐらに山のような魔獣に向かって飛び出した。もしこの光景をみる者がいたら、あまりの熱の高さに、残像が焼き付いたであろう。

 狙いあやまたず、必殺の一撃は怪物の首元を直撃した。そここそが、この岩の巨人の弱点なのである。

 爆発の閃光が収まったとき、皺男の頭がぐらりと揺れて、ちぎれて落ちた。

 飛び散る破片を、レカンは後ろに飛んでさけた。そこはもう一つ前の部屋である。

 もう一度皺男のいた部屋にもどると、岩の魔獣の死骸が、びきびき、びきびきと音を立てて縮まってゆき、最後に大きな魔石が残された。

 レカンはそれを拾って〈収納〉に入れた。


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 くらり、とめまいを覚えた。

 そのままレカンは床に座り込んだ。

 大型個体が再出現するまで、しばらく時間がある。その時間を有効に使うつもりだ。

 大青ポーションを出した。

 先ほどの攻撃で、魔力の大半を使ってしまった。今の自分のできる最大の魔法攻撃を試してみたかったのだが、まさかこれほど強力な攻撃ができるとは思ってもいなかった。そしてまた、たった一撃でこれほど魔力を消費するとも思っていなかった。

 今後は、魔力運用が大きな課題になるだろう。

 ポーションを飲み込もうとしたのだが、体が拒否している。強い嫌悪感が湧いてくる。それでも我慢して飲み込んだ。

 まるで毒を飲んだかのような拒否反応が起きた。ある程度収まるまで、しばらくは動くこともできなかった。

 何とか体がポーションを受け付けてみると、それでも魔力の飢えは残っている。つまり大青ポーションでも、まったく足りない。

 シーラからもらった魔力回復の丸薬を取り出して飲んだ。

 空腹を感じたので、食料と水を出して腹ごしらえをした。

 シーラの丸薬は、速効ではないが、じわじわと魔力を回復してくれている。何より、ポーションを受け付けない状態でもするりと飲めたのがありがたかった。

 もぐもぐと、なかなか味のよい干し肉をかみしめながら、レカンは〈生命感知〉が告げる情報に首をかしげていた。

 ここに近づいている者たちがいる。

 最初は気のせいかと思ったのだが、魔獣のいる場所を回避しながら、確実にこの場所に近づいている。

 大型個体を目指しているのかとも思ってみたが、この部屋に近づきはじめたのは大型個体を倒したあとだったと思うし、ほかの大型個体のいる場所を避けてここに向かっている。

 一つ確かなのは、地図を持っているのはもちろんだが、近づいてくる人間六人のなかに、何らかの探知能力を持っている者がいる、ということだ。六人のうちに二人魔力持ちがいるので、そのどちらかがそうなのだろう。

 敵か。味方か。

 そう考えてみると、知り合いなどいないのだから、味方ではない。

 敵、と考えておいたほうがよい。

 いよいよ接近してきた。

 と思ったら、少し離れた場所で止まった。

 この六人の正体が気になるが、そろそろ大型個体の再出現に備えなければならない。

 最後に水をごくりと飲んで水筒をしまい、レカンは立ち上がって、〈収納〉からバトルハンマーを出した。もとの世界の極上品のハンマーだ。格別な付与はないが、頑丈でバランスがよく、非常に扱いやすい。

 二回目も魔法で戦うつもりだったが、得体の知れない敵が近づいているのに、魔力の過半を消費してけだるさを覚えた状態になるわけにはいかない。

 部屋の奥に黒いもやもやした煙のようなものが渦を巻きはじめ、やがて大きくふくらんで、皺男の大型個体が再出現した。

 近づいてくる。

 六人の敵が近づいてくる。

 このままでは、レカンは強敵と戦いながら、後ろに新たな敵を迎えることになる。

 レカンは右目を細めてにやりと笑った。

(面白い)(来るなら来い)

 そして皺男との戦いが再び始まった。

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[一言] 無害な皺男をしばきに来る冷酷非道な人間たち
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