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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第7話 ゴルブル迷宮再訪
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10


 第十九階層に出る階段で、二人の冒険者が待機している。

 じっと第十九階層のほうをみている。一人は弓をかまえ、一人は杖をかまえて。

 魔法使いは呪文を唱えている。

「……します神々よ。わが願いを聞き届け、悪を滅する力を与えたまえ。われは乞いねぎまつる。顕現せよ……」

 レカンが近づくのに気づいて、弓使いがちらりと視線を送ってきたが、すぐにもとのほうに注意を戻した。

 やがて乱立する柱の向こうから男が走ってきて、階段に走り込んだ。

 その後ろを巨大な猪が追いかけてきて、階段に突入しそうになったそのとき、透明な壁にでもはね返されたように、はじき飛ばされた。

 たちまち弓使いは弓を放ち、魔法使いは魔力を解放した。

「〈炎槍バンドルー〉!」

 放たれた炎の槍は、大きくはなかったが、よく制御されていて、的確に魔獣の頭部を直撃した。炸裂音が響き、爆炎があがり、すぐに収まったが、魔獣はふらついている。

 この魔獣は、猪鬼族第三階位魔獣である鼻曲(バンブー)の中位種だ。

 弓使いはさらに二本の矢を射かけ、魔獣を引っ張ってきた男は剣を抜いて魔獣に襲いかかった。

 戦いが終わったのをみとどけてから、レカンは階段を降りきり、第十九階層に足を踏み入れた。三人の冒険者の視線を感じるが、声はかけてこなかった。こちらも声はかけず、ただ通り過ぎた。

 そのまま下りの階段まで進むつもりだったが、少し離れた場所にある青い点が、突然レカンのほうに移動を開始した。

 各階層に何頭かいるという大型だろう。そういえば、ここらでそろそろ〈印〉を作っておいてもよい。

 レカンは、すたすたと歩きながら、丁寧に魔力を練り上げた、そして右腕を上げ、柱しかみえない前方に向かって手のひらをかざした。

 魔獣の速度は驚異的だ。もうすぐそこまで来ている。

 姿がみえた。想像以上に大きい。

「〈炎槍〉!」

 明確な輪郭をもって大きな炎の槍が出現し、まっすぐに魔獣に殺到し、貫通した。

 すさまじい勢いで突進してきていた魔獣は突然停止した。時がとまったかのようにしばらく静止し、ぐらりと揺れて倒れた。

 魔石を取り、そのまましばらく待った。

 魔獣はなかなか再出現しない。

 これは情報がちがったかと思いはじめたころ、ゆらゆらと黒いもやが立ちのぼり、沸き立つようにぐらぐら揺らめいていたが、やがてそこに先ほどと同じく巨大な鼻曲が現れた。レカンは〈炎槍〉で倒した。

 階段に移動して呪文を唱えた。

「〈階層(シジメル)〉!」

 レカンの頭のなかに、迷宮の階層図が浮かんだ。そのなかで、地上階層だけが明るく光っていた。


11


 第二十階層の魔獣は、狼鬼族第四階位の木狼(トルジェ)の上位種だ。これも第二階層で出現した下位種とは、形や色こそ同じだが、大きさも攻撃力も速度も、まるで比較にならない。

 そして、赤猿もそうだったが、この木狼も、戦いに手間取っていると仲間を呼ぶ。そのうえ、木狼は獲物を襲うとき、右に左にめまぐるしく飛び跳ねるが、柱が乱立する場所でこれをやられると、どうにも戦いにくい。

 とはいえ、〈立体視覚〉を持つレカンには、相手の動きは丸みえだし、仲間を呼ばせるほど戦闘が長引くことはない。

 この階層では四頭の敵と戦った。いずれも〈炎槍〉で倒した。

 相手が近づくのを探知しておいて魔法の準備をし、姿を視認したら魔法を発動した。

 ただし四頭とも回避行動を取ったため、狙った位置には当てられていない。

 やはり呪文を唱えてから発動までのわずかな時間が問題だ。もっと迅速に発動できなければならない。

 そして、魔法の準備の時間も短縮していかないと、とっさの場合には使えない。

 だが、剣を思えばいい。

 剣というものを知ってから使えるようになるまで、いったいどれほどの時間がかかったことか。それを思えば、〈炎槍〉が本当に役に立つ技能になる日はまだまだ先でいい。

 第二十一階層手前の階段で食事を取り、少し寝た。まだ迷宮に入ってから丸一日程度のはずだが、ここからは少し気を引きしめる必要がある。


12


 第二十一階層から、迷宮の造りが変わる。四角い石造りの部屋を、縦横にずらっと並べたような構造だ。四角い部屋の四つの壁には、穴が空いている場合もあるし、空いていない場合もある。つまり、一つしか出入り口がない部屋、二つある部屋、三つある部屋、四つある部屋がある。

 出入り口は、人間にとっては大きい。レカンのように身長の高い人間でも問題なく通れる。

 しかし、魔獣は通れない。なぜなら、下層に出現する魔獣はどれもこれも大型だからだ。

 穴が空いている位置はまちまちなので、隣り合っている部屋より向こうのことがみえることは、あまりない。

 そんな構造の部屋のところどころに魔獣がいる。一つの部屋に大勢の人間が入ることはむずかしいし、一人目が入ったら戦闘になってしまうから、戦闘態勢を整えてから戦闘するというわけにはいかない。

 それならば、穴の外側から弓や魔法で攻撃すればよいと、誰でも考えるが、下層の魔獣たちは、隣の部屋の敵ぐらいなら攻撃する手段を持つものばかりだ。

 第二十一階層の魔獣は、岩塊族第三階位の魔獣である皺男(ゼオファン)だ。

 岩の巨人なのだが、表皮のひび割れが皺のようにみえる。身長はレカンの四倍はあり、刃物も魔法も通じにくい。

 隣の部屋から攻撃すると、皺男は自分の体の一部を引きちぎって投げるらしい。便覧にはそう書いてあった。

 前回この階層に来たときには、バトルハンマーで戦ったが、あまり連戦したい相手ではなく、早々に下の階層に降りた。

 今回は魔法を試してみよう、と思いながら第二十一階層に足を踏み入れたレカンは、少しとまどった。

 目の前の部屋の一つ向こうに、大型の個体がいる。

 迂回しようかとも思ったが、この程度の相手から逃げていては、とても最下層までは行けないと思い直した。

 敵がいる部屋に入る前に、ゆっくりと息を吸い、魔力を練った。

 そして穴をくぐった。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] >われは乞いねぎまつる  願い奉るでしょうか。  魔法使い「神様今日は肌寒いので、晩御飯はネギ鍋でお願いします」とかどうだろうとちょっと思いました。
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