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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第47話 裏切り者
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「ゼアハドですってっ?」

 リントスが驚いた顔をした。妹のマイナも、集まった六人の元店員たちも一様に驚いている。

「知っているやつか?」

 リントスが元店員のうちで、もっとも年長である男のほうをみた。年配の男が説明した。

「セプテマ商会本店の番頭だった男です。事件のあと、給金を辞退して店を辞めました。店に負担をかけぬためかと思っておりましたが、その後まったくあいさつにも来ないし、消息も知れないので、不審には思うておったのですが」

「ふうん。その男に間違いないのか?」

「言われてみれば、ヌーガの顔立ちはゼアハドに似ております。どうして今まで気づかなんだのか」

「会いに行ったのか」

「物陰から様子をうかがいました。私の顔をヌーガは、いやゼアハドはみておりません」

「それならいい。ケイブンという男はどうだ」

「以前、メイス商会で番頭をしておったケイブンという者がおりました。セプテマ商会との取引を担当しておった男です。この者も、事件のあとメイス商会を辞めたと聞いておりました。ホータンの顔もみにいきましたが、確かにケイブンに顔立ちがにております」

「なるほど。つながってきたな。さて、リントス」

「は、はいっ」

「領主館に行く。チェイニーとオレのほかに、従者が二人同行できる。お前が選べ」

「はい。一人は私です。もう一人は」

 リントスは年長の元店員をみた。

「ホトル。来てもらえますか」

「はい。お供させていただきます。ところでリントス様」

「何ですか」

「チャダの者たちも呼び寄せますか」

 チャダの町にも何人かの元店員が残って、商売と情報集めを行っている。

「いえ。まだ早いでしょう。決着をつけるときには、必ず呼びます」

「はい。ありがとうございます」

 九の月の三十二日、チェイニーはレカンを伴い、ロトル領主ナリス・カンドロスの館を訪問した。

「ロトル伯爵様。こちらが冒険者レカン様です。レカン様。こちらがロトル伯爵ナリス・カンドロス様でいらっしゃいます」

「レカンとやら、よく来てくれた。ツボルト迷宮を踏破した冒険者に会えてうれしいぞ。しかも〈彗星斬り〉を得たというのだから素晴らしい。このロトルの町にも幸運をもたらしてくれ」

「レカンだ。よろしく頼む」

「しかも最近パルシモ迷宮が踏破されたというが、それもお前のやったことらしいな。信じられん。お前はこの国最高の冒険者の一人なのだろうな」

「パルシモではメンバーに恵まれた。特に大導師ジザ・モルフェスの参戦は大きかった。モルフェス導師が一緒でなければ、とても踏破できなかった」

「ははは。みかけは剛胆そのものだが、意外に謙虚ではないか。この町は食べ物はうまいし、酒もよい。充分楽しんでくれ」

「確かに食い物も酒もうまい。宿の風呂もまあまあだ」

「ははは。楽しんでくれているようだな。女はどうだ。それとも女の連れがいるのか」

「今は連れていないが、婚約者は二人いる」

「二人、だと?」

「伯爵様。レカン様の婚約者のお一人は、マシャジャイン侯爵様のお従姉妹です」

「なにっ。ばかな。いや、失礼した。だが、マシャジャイン侯爵家の姫が冒険者に嫁がれるとは。待てよ、二人の婚約者と言ったな」

「はい、伯爵様。もうお一人の婚約者は、ヴォーカのエダ様です」

「ヴォーカの、エダ。ヴォーカというのは、チェイニーの根拠地だったな。エダ。その名には聞き覚えがある」

「〈薬聖〉スカラベル様に〈浄化〉をおかけになったかたですよ」

「〈北方の聖女〉殿か! その噂は南部にも聞こえておる。それにしても婚約者が二人ということは、お前は、いや、貴殿は……。そういえば、冒険者レカンは〈落ち人〉だという噂を聞いた。もしや貴殿はもとの世界で貴族であったか」

「まあ、そんなところだ」

「これは失礼した。明日か明後日にでも晩餐にお招きしたいが、いかがであろうか」

「招待に感謝する。だが、その話の前に、用事を済ませたい」

「ああ、そうであった。では私はしばらく用事で席をはずす。くつろいでいただきたい。侍従は残す。あなたたちが何も持ち込まず、何も持ち去らなかった証人だ」

「すまんな。一服したらオレたちは帰る。あらためてあいさつには来させてもらう」

「お待ちしている」

 レカンとチェイニーが座っているソファの後ろには、リントスとホトルが使用人然とした格好で立っている。ヴァンダムは部屋の外だ。ちなみにニルフトは正式には入館せず、身を隠して何かを調べている。ニルフトは魔力持ちなので、レカンにとっては居場所を確認しやすい。ただ、一度みうしなったら再発見はむずかしいかもしれない。この領主館には、ニルフト程度の魔力の持ち主は何人もいる。

 ホトルは、壁際に飾られた壺の一つから目を離さない。それが目当ての品なのだろう。ホトルも〈鑑定〉の使い手で、壺を鑑定した。レカンも鑑定した。

 領主館を出て、馬車のなかでホトルは口を開いた。

「壺は奪われた宝物の一つです。間違いありません。製造元は、これがセプテマ商会の注文で作製したものだと証言してくれます。長年懇意にしている工房なのです。そして何かと取り違えるような品ではありません」

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― 新着の感想 ―
もう普通に権力者と挨拶できてるのが草。敬語は相変わらず使わんが(笑)
[一言] うーんまだ情報が頭のなかでごちゃついていて一本に繋がりません。 引っかかってることも全部次で解決するのかどうか気になります。
[良い点] ミステリー風味が新鮮 [一言] 以前、12(6)の倍数になる自然現象由来の定数が存在しない世界で、時刻に12進数が使われるのは不自然と書きましたが、時刻は落ち人がもたらした技術である可能性…
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