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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第47話 裏切り者
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 翌朝ヴォーカ目指して出発しようとしたレカンだったが、一つ問題があるのを思い出した。

 竜肉が腐り始めているのだ。

 一度目にロトル迷宮の主を倒して得た竜肉は、ちゃんとマシャジャインで処理してもらったが、手元に残した分はだいぶ前に食べきった。

 二度目に得た竜肉は、処理もしないまま大きく切り分けて〈収納〉に突っ込んでおいて、必要に応じて取り出して食べていたのだが、それが腐り始めていたのである。

 マンフリーに相談したところ、腐りかけてはいるが、それは表面の部分だけであり、表面を削り落とせば食べられるということだった。大きな塊だと、魔力が抜けずに残るので、腐りにくいのだという。確かに、一か月以上たっているのにまだ食べられるというのだから、普通の獣の肉とは比較にならないもちのよさだ。

 だが、表面をそぎ落とした肉を削って焼いて食べたところ、うまくなかった。いや、うまいことはうまいのだが、明らかに風味が落ちている。

 レカンは手持ちのすべての竜肉をマンフリーに贈呈して、ロトルに向かった。

 ロトル迷宮の休眠期は四十日なので、もう復活しているはずだった。

 次の竜肉を手に入れなければならない。そしてちゃんと処理してもらわなくてはならない。ちゃんと処理をすれば一年近くはもつと聞いている。

 だが、ロトルに着いたとたん、竜肉のことなどどうでもよくなった。

 食堂で料理を注文したところ、近くのテーブルに座る若い男の足に目がいった。

 レカンの目が驚愕で大きくみひらかれる。

 その若い男の両脚には、脛覆いが巻き付けられていた。そしてその脛覆いに刻まれた文様は、〈不死王の指輪〉や〈闇鬼の呪符〉に刻まれた文様と、とてもよく似ていたのである。

(〈始原の恩寵品〉だ!)

(足に着けているということは、たしか……ええっと)

(思い出した。〈白魔の足環〉だ。エジス迷宮の品だ)

 若い男は食事をしている。同じテーブルの向かい側では、若い女が食事をしている。レカンも食事を注文したのだが、店が立て込んでいるせいか、なかなか注文した品が出てこない。そのうちに若い男と若い女は食事を終えた。

 そのときレカンの注文した品が届いた。若い男と女が店を出て行く。レカンは立ち上がって、大銅貨を二枚取り出して、料理を運んできた店員に渡した。

「すまんが急用を思い出した。この料理は食べたいやつにやってくれ」

「えっ? ええっと、お客さんっ?」

 とまどう店員にかまわず、レカンは二人の跡を追うように店を出た。

 この町には人が多い。距離をあけるとみうしなってしまうかもしれない。

 相手の二人は魔力持ちではないので、レカンの能力では他人との差が感知できない。みうしなったら、もうみつけられないだろう。

 〈始原の恩寵品〉は魔力も帯びていないし、離れた所から感知できるような特徴がない。だから今回のように、たまたま目撃する偶然でもなければ、探し出すことができない。この機会をむだにはできなかった。

 やがて二人は町を離れて西に向かった。

(しめた)

 街道を離れた山道に入ったので、人通りがほとんどない。これならかなりの距離を置いて追跡できる。今やレカンの〈生命感知〉の有効範囲は二千歩を超えるのだ。

 まずは、何らかの理由をつけて、脛覆いを鑑定させてもらう必要があるだろう。勝手に鑑定してもいいが、そのことが相手にばれた場合、不信感を持たれる恐れがある。それは避けたい。

 山のなかで日が暮れ、二人は野営した。レカンも離れた場所で野営した。

 野営する二人のところに行って挨拶し、脛覆いを鑑定させてくれと頼んでみてもいいが、こんな山のなかでそんなことをすれば怪しまれてしまうだろう。いや、それを言うなら、町のなかであっても同じだ。

 いったいどうすればいいのだろう。

 レカンのこういう場合の交渉能力は、情けないほど低かった。

 何事もなく朝が来て、二人は食事をしてから出発した。レカンもあとを追った。

 山を下り、広い草原に出る。二人とレカンは黙々と前進した。

 太陽が中天に差しかかるころ、馬に乗った三人の男が現れた。

 そして、驚いて立ちすくむ二人の周りをぐるぐる回り始めた。

 レカンの位置からはよく聞こえないが、何か野卑な言葉を投げつけているようだ。そして三人の風体は山賊か傭兵か、そうでなければ冒険者だ。

隠蔽(ニルズム)

 レカンは自分自身に〈隠蔽〉をかけて近寄った。

 やはり馬に乗った男たちは山賊のたぐいだったような風体だ。

「うらーっ。うらーっ」

「どうした。へっぴり腰め。そんなことで妹を守れるのか」

「命が惜しければ、金目のものを全部置いていくのだっ」

 レカンは神に感謝した。どうみても二人の若者には、この三人の襲撃者に対抗できるような力はない。これで自然な形で二人に接触できる。

「そこで何をしている」

 レカンは大声を上げた。そんなことをすれば、〈隠蔽〉は解ける。

 三人の山賊は、ぎょっとした目で突然現れたレカンをみた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 山賊さんナイスでニコニコしました やったね!恩が売れるよ!レカン良かったね! このまま全ての原始の恩寵品ゲット出来たらいいですね! いや、さすがに全部は要らないかな……? でもコレクション…
[一言] 今思うとここで〈白魔の足環〉の持ち主見かけたのはかなりの幸運でしたよね 始原の恩寵品の中で一番在り方の捕捉が難しかったのって〈白魔の足環〉だろうし
[良い点] レカンが2話連続でギャグに走るとは… しかもアリオス抜きで。 コンビ漫才師からソロ活動化でしょうか? [気になる点] レカンの奇行が目立ちますが、そもそも〈始原の恩寵品〉をそんじょそこらの…
2020/01/05 22:09 退会済み
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