表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狼は眠らない  作者: 支援BIS
第7話 ゴルブル迷宮再訪
55/702

8_9

8


 第十六階層の魔獣は、樹怪族第三階位魔獣の小腕樹(パルバルアン)である。

 木の根と幹に二本ないし三本の枝がついたような姿をしている。というより葉のない木そのものである。

 これが森のなかにいたら、さぞ恐ろしいだろう。だが、この迷宮のなかには樹木など生えていないのだから、そういう魔獣がいるということさえ知っていたら、擬態にだまされる者はいない。

 攻撃は腕を振るだけなのだが、非常に威力が高いうえ、長さもあり、所々妙な箇所で曲がるので、柱の後ろに隠れても意味がない。

 この魔獣は、地に太い根をいくつも下ろしている。だから動かないのだろうとレカンは思っていた。

 ところが便覧によれば、そうではないらしい。根が地中を移動して、本体を移動させるというのだ。その際細い根がちぎれ、太い根も傷つくため、移動すると若干弱体化するらしい。それにしても、動かないだろうと油断してこの階層で眠ったりしようものなら、その冒険者はみじめな末路を迎えることになる。

 視界の先にある小腕樹に、レカンは指をつきつけた。

 だが、ふと思いついて指を開き、手のひらを標的に向けて、魔法を発動させた。

「〈炎槍(バンドルー)〉!」

 抵抗感もなく魔法の槍は手のひらから射出され、小腕樹の幹をへし折り、その後ろの古木に似た柱をもへし折った。

 今までにないよい感触だった。

 レカンは、進路を少し調整して、別の小腕樹の前にでた。

「〈炎槍〉!」

 小腕樹は消滅し、宝箱が残った。

 今日はじめての宝箱である。開けてみると、中青ポーションがあった。

 そういえば、かなり魔力を消費している。

 その中青ポーションをレカンは口に入れ、容器をかみつぶすと、中身を飲み込んだ。容器もすぐに溶けたので飲み込む。どうも唾液で溶けるようだ。

 足りない。

 失われた魔力は、まだまだ補われていない。

 もう一つ中青ポーションを取り出して飲んだ。だが、まだ足りない。

 大青ポーションを取り出して飲んだ。今度は足りた。

 前回試したときも感じていたが、赤ポーションも青ポーションも、小や中はレカンにとっては力が弱い。

(これからは)(小と中は売り払うことにしよう)(それにしても)(今の炎槍の感触はよかった)(魔力が自然に撃ち出された感じがした)

 次の小腕樹に近づくと、手のひらを向けて〈炎槍〉を撃った。威力も貫通力も上がっている。

(指先で撃ったときは)(かまえた指に方向が限定されていた)(ところが手のひらから撃つと)(飛んでいく方向を)(かなり自由に設定できるようだ)(もう少し実験してみよう)

 今度の小腕樹は、幹を狙っていたが、撃つ直前に狙いを枝に修正した。

 魔法はちゃんと発動し、拡散することも弱体化することもなく直進して、正確に枝を破壊した。

(よしっ)(これなら使い物になる)


9


 第十七階層の魔獣は、猿鬼系第六階位の赤猿(ウルドゥ)だ。ただし上位種である。

 第一階層に出てきた赤猿は下位種だった。体は小さく、攻撃は素手で、多少の素早さはあったが、敵ではなかった。ただし、森のなかで複数の人物を護衛しながらこの魔獣の群れに襲われたら厄介だろうとは思った。

 第四階層で蜘蛛猿鬼に交じって出現した赤猿は、杖を持っており、魔法を撃ってきた。

 第十階層で出現した赤猿は、二回りも体が大きく、剣や棍棒を使った。魔獣が武器を持つのははじめてみたので、初見のとき、レカンは大いに驚いたものだった。

 そして第十七階層の赤猿は、もはや別種ではないかと思うほど体が大きく、獰猛で、そしてなんと防具を着け武器を持っているのである。そのうえ、一匹では出てこず、便覧によれば、戦いに手間取ると仲間を呼ぶらしい。

 レカンはもう赤猿は飽きてきたので、さっさと階段に駆け込んだ。斬り捨てた赤猿は一匹だけである。

 第十八階層の魔獣は、空魚系第四階位の鉈魚(トイチー)である。

 平べったい魚が宙に浮いて、しびしびと身をよじっているのは、奇妙な光景だ。敵が射程に入ると、まっすぐ敵のほうを向き、ぶるぶると震える。そして突然縦方向に回転しつつ前方に飛び出して、尾びれで敵を上からたたき斬る。この尾びれはまるで鉈のような厚みと破壊力を持っている。

 鉈魚は、まっすぐ前からみると、非常に体が薄いため、背景に溶けて視認しづらい。だから正面に盾持ちを置き、両側から攻撃を加えるのが定石だと便覧には書いてあった。

 この鉈魚、相手が射程内に入ってこないと、自分から相手に近寄るが、一度に移動する距離は短く、しびしびと待機している時間はながい。

 つまり遠距離からならゆっくり狙える獲物だ。

 レカンは鉈魚に狙いをつけ、〈炎槍〉を撃った。かすっただけだが鉈魚は死んだ。

 だがレカンは自分を叱った。

(だめだ)(こんな雑な魔法の使い方をしていてはだめだ!)

 次の標的がみえる位置に移動すると、レカンはゆっくりと魔力を練った。

(まずは体の隅々から下腹部に向けて魔力の流れを作る)(全身から少しずつ送り込まれた魔力を丹田でぐるりと回して力の塊を作り)(それをすうっと右腕に送り込む)(あとは)(すうっと通り過ぎるように)(魔力を体の外に押し出しつつ)(正確な発音でしっかりと呪文を唱える)

「〈炎槍〉!」

 素晴らしい精度と密度の攻撃が標的を直撃して破壊した。

(これだ)(この感覚をつかみ)(そして磨きあげていくんだ)(そうすればいずれ)(素早い攻撃もできるようになる)(きちんと手順を守って魔力を発動させるのが大事だと)(シーラから教わったではないか)

 シーラが最初、〈灯光〉の習得に時間をかけさせた理由が今ならわかる。

 弱い魔力で発動する魔法にこそ、正しく魔法を行使するための秘密があるのだ。

 宝箱が落ちたが、中身が中青ポーションだったので、そのまま飲んだ。

 とたんに悪寒に襲われた。体の奥底から気持の悪さが込み上げてきて、吐き気がする。

(なんだ)(これは?)(そういえば)(シーラは)(摂理に反するものだとも言っていた)(そうか)(ポーションは即効性が高いかわり)(あまり続けて飲めないようになっているのか)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] (独自の世界観を)(お持ちなのかもしれませんが) (これでは)(伝えたいことがミリも伝わりません) (意味不明です)
2020/09/21 20:07 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ