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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第46話 白炎狼
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 八十五階層に下りて、昼食を取ることになった。

 レカンが薪を出し、エダが火を着ける。

「〈着火〉」

「準備詠唱をしないのだな。発動が速い。それなのに正確で丁寧だ」

「え? ああ、あたいは師匠から魔法を教わるとき、準備詠唱のことは教わらなかったんです。だから、どの魔法についても、準備詠唱は知りません」

「そうか。魔法研究所の研究員はみんな、準備詠唱を省略することができる。私はできない」

「え、そうなんですか」

「おばばさまに本格的に弟子入りしたら教えてもらえるはずだったのだ。だが魔法騎士団に入ってからは、ほとんど魔法は教えてもらえなかった。それでいいと思っていた。魔法騎士は魔法使いを守る盾となり、白い魔狼を倒す剣となるのが役目なのだから。だが、あるとき魔法使いに言われたのだ。そんなに大きな魔力を持っているのに、もったいないと。だが私は魔法を磨かなかったわけではない。磨けなかったのだ」

 エダは返事ができなかった。

 少しの沈黙のあと、ジザが言った。

「だからレカンちゃんに腹が立ったんじゃの」

「……はい」

「腹が立った?」

「そうじゃよ、エダちゃん。導師級の魔力に恵まれながら、ろくに魔法の修練も積んでいない冒険者じゃとの」

「えっ? えっ? レカンはものすごく魔法を練習してますよ。というか、あたいレカンが魔法の練習をしてるとこは何度もみたけど、剣の練習をしてるとこなんか、みたことないです」

「ウイーにはそうみえたんじゃよ。レカンちゃんは杖も持たず、いかにも剣士という格好をしとるじゃろ?」

「まあ、それはそうですけど」

「ところが、レカンちゃんが詠唱省略で撃つ〈炎槍〉の威力のすさまじいこと、発動速度の速いこと。しかも曲折させて撃つという導師級の芸当までやってのける。それに、〈移動〉を使って魔石を取り出すわざのすごいこと。あんなのはわしでもみたことがない。ウイーはそれをみて、すっかり打ちのめされたんじゃよ」

 再び沈黙が下りた。

 その沈黙を破ったのは、アリオスだった。

「ウイーさん」

「え、何でしょうか、アリオス殿」

「もしもまた魔法が学べるとしたら、あなたは魔法を学びたいですか」

 ウイーはうつむいた。だがしばらくしてはっきりとした声で答えた。

「学びたい」

 こんな会話を聞きながら、レカンはジザの戦い方について考えていた。

 八十一階層以降では、転移部屋の魔狼の速度と攻撃力は、これまでとは隔絶している。魔法使いの反応速度では、一瞬で殺されても不思議はない。だから、魔力を練り魔法を発動寸前にしておいて、突入するなり最大火力の攻撃をたたき付けるのだ。そう考えてみると、あの戦法は理にかなっている。

「おばば」

「ほい?」

「あの戦法で戦うとして、相手が完全に白い魔狼だったらどうするんだ?」

 八十一階層からは、完全に白い魔狼、つまり魔法が無効な魔狼が出る。いくらジザの魔法の威力が大きくても、倒すことはできないはずだ。

「そのときは、特製の〈魔矢筒〉を使うんじゃよ。あれはそのために開発したんじゃからの」

「ほう。なるほど。そういえば、エダ」

「え? なに? レカン」

「八十三階層の主と戦うとき、〈睡眠〉を使わなかったな」

「あ。忘れてた」

 ここまでの探索で〈睡眠〉を使っていれば、ずいぶんらくだっただろう。だが使わないことで、ユリウスもエダもよい修業ができた。だから悪いことではない。

「今度は使ってみろ」

「うん!」

 ゆっくり昼食を取ったあと、八十五階層の穴に入り、転移部屋に入って魔狼と戦った。エダの〈睡眠〉が効果を現し、非常にらくな戦いとなった。ウイーは、エダの魔法の射程の長さに驚いていた。

 そのあと九十階層まで進んだ。これで五日目は終わった。

 六日目である。

 九十二階層の転移部屋で、完全に白い魔狼が出現した。

 当然、エダの〈睡眠〉は効かない。レカンは〈炎槍〉を連発して、魔法の効果を確かめた。

 魔法そのものは無効だが、熱や衝撃がまったく効果がないわけではない。〈炎槍〉の熱はわずかばかりながら魔狼の毛皮を焼いたし、〈炎槍〉の衝撃力は魔狼をのけぞらせた。

 こうした結果になることは、聞いて知ってはいた。だが、実際に自分の目でみなければ、本当の感覚はつかめない。

(ふむ)

(はじかれているわけでもないし、吸収されているわけでもない)

(魔法の破壊効果は現れているはずなのに、それがなかったことにされているような感じだな)

 充分に感触をつかんだあと、レカンは〈狼鬼斬り〉を使って敵を倒した。

 九十八階層では、真っ黒な魔狼が出た。完全に黒い魔狼が出るのは百一階層からだというが、物理攻撃無効の実際のところをみることができる。

 不思議な感触だった。剣をたたき付けてもまともな手応えがないのだ。ふわふわとしたみえない膜のようなもので魔狼が覆われていて、打撃の力がそこに吸収されてしまうかのようだ。

 が、剣の攻撃がまったく無意味なわけではなく、相手の突進をそらしたり受け止めたりすることができることを確かめられた。レカンは〈ウォルカンの盾〉を使ってみたが、これが案外有効だった。

 こうしてこの日は百階層まで進んだ。

 エダの〈睡眠〉も、九十階層台後半からは効かなくなってきた。

 魔狼はますます手ごわくなってきている。だがこちらの連携も整ってきた。

 ウイーがボルクに命じて魔狼を引きつける。レカンが〈ウォルカンの盾〉で牽制し、アリオスが素早い攻撃で足止めをする。白い狼なら〈狼鬼斬り〉で、黒い狼ならジザの魔法攻撃で倒す。エダは目つぶしをくらわせ、ユリウスが遊撃して、ウイーはジザの護衛をする。誰かが傷を負えば、ただちに〈浄化〉が飛んでくる。

 これなら、ずっと下の階層でも戦えるだろう。

 明日は七日目である。いよいよ深層に突入する。

 深層、つまり百一階層以下の階層には、百階層以下からしか跳べない。

 百階層以下で〈階層〉の呪文を唱えると、地上階層から百階層までの全階層のほか、百一階層から百五十階層までのどこか一つの階層が表示される。どの階層が表示されるかはまったく無作為であるという。一度表示されると、その階層を踏破するか、表示が消えるまで数日間待たないと、深層のほかの階層には跳べない。

 ここまで一緒に来たパーティーメンバーが、手をつながずに〈階層〉の呪文を唱えると、別々の階層が候補にのぼる。そのことから、〈階層〉の呪文を唱えたときに跳べる階層が決定されるのだと考えられている。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 完全な黒・白の魔狼はそれぞれ物理・魔法の攻撃という事象そのものを拒絶するみたいな感じですね 無効化のその先って感じでそんな存在を生み出せる迷宮はやはり神の領域って気がします
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