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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第7話 ゴルブル迷宮再訪
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 第十四階層の魔獣は、熊鬼族第三階位魔獣の茶毛玉(ゴエディジ)である。

 床に巨大な茶色い毛玉が転がっているのだが、一定の距離まで近づくと、正体を現して飛びかかってくる。腕を大きく振り上げた高さはほとんどレカンの身長に匹敵する。

 しかもこの魔獣は、顔が異様に大きい。従って口も大きい。その巨大な口を限界まで開いてよだれをたらしながら飛びかかるのだから、若い冒険者にとっては恐怖以外の何物でもないだろう。

 だが、この魔獣、一定の距離まで近づかなければじっとしている。

 つまり、遠距離攻撃ができる冒険者なら、最初の一撃は確実に取れるのである。

 また、擬態を解いてからの最初の攻撃こそ素早いものの、そのあとの動きは緩慢で、かみつきにさえ注意すれば、さほど怖い敵ではない。

 二十歩少々離れた場所でレカンは立ち止まり、右の人差し指を向け、魔力を練った。

「〈炎槍(バンドルー)〉!」

 炎の槍が飛び出して茶毛玉の体の三分の一ほどを削り取って、その向こう側の地面に着弾して、草と土をえぐり取った。

 レカンは腕をかまえたままだ。

 右手人差し指には、むずがゆいような感覚が残っている。

(この人差し指があるから魔法がまっすぐ飛んでいるような感じもするし)(この指を通すから魔力が制限されているような感じもする)(ふむ……)

 そのまま階段に向かって進む途中、またも茶毛玉がいた。

 二十歩手前で立ち止まり、今度は指を全部握り込んで、そのこぶしを魔獣に向けた。

「〈炎槍〉!」

 魔法はすぐには発動しなかった。こぶしの前に丸い炎の塊ができ、それがぐるぐる回転しながら大きくなり、そして目標に向かって飛んでいった。

 激しい爆発音がして、茶毛玉が粉々にはじけ飛んだ。

 相当な威力である。

 だがこれは〈炎槍〉といえるのだろうか。たぶん、〈炎槍〉の変形の一種ということになるのだろう。

 さらに階段のすぐ手前に、もう一頭茶毛玉がいた。

 レカンは今度は手刀を作って魔獣に向けた。

「〈炎槍〉!」

 今度の炎は、薄く広がった形状で標的を破壊した。

(だめだ)(威力もぐっと下がったし)(制御も甘い)

 第十五階層の魔獣は、空魚族第四階位の目赤魚(エンウルチー)である。

 空中に巨大な赤い目玉が浮いているので、初見のときは少し驚いた。

 この魔獣は非常にすぐれた探知力を持っており、乱立する柱に妨げられず、きわめて遠方から敵を察知する。そして敵が近づくのをじっと待ち、三十歩ほどの距離になったとき、敵を〈硬直〉させる。

 前回、はじめて攻撃を受けたときは、一瞬、全身がしびれたものの、指輪のおかげでただちに硬直が取れ、そのまま近寄って斬り捨てた。そのあとは、柱に隠れて近づき、相手が攻撃してくる前に倒した。だから、〈硬直〉攻撃のあと何をしてくるかはわからなかった。

 便覧によると、硬直した敵に鋭い触角を差し込み、体液を吸い尽くすらしい。

 今回はこちらにも遠距離攻撃の手段がある。たぶん射程はこちらが勝つが、あちらこちらに柱があるため、三十歩以上の距離で相手がみえることは、ほとんどない。

 つまり、条件は対等だ。

(早撃ち合戦といくか)

 つまり、相手の〈硬直〉が発動するのと、こちらの〈炎槍〉が相手に命中するのと、どちらが早いか競うのである。

 結局階段にたどりつくまでに四度、目赤魚と遭遇した。

 早撃ち合戦は、いずれもレカンの勝ちだった。

 だがレカンは階段手前で振り返り、倒した魔獣たちに礼をしながら、何かがちがうと考えていた。

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