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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第46話 白炎狼
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 八十四階層に下りて、しばらく休憩した。

 レカンは全員に体力回復薬をふるまい、ジザとウイーとエダには魔力回復薬も渡した。自分でも飲んだ。ここからの戦いのために、そうすることが必要だと思ったのだ。

「そういえば、アリオス」

「はい」

「ユリウスが魔法剣を使うのを禁止しているようだが、なぜなんだ」

「気が乱れるからですよ。レカン殿にとっては、剣で相手を攻撃することと、魔法で相手を攻撃することは、まったく別のことに思えるでしょうね」

「当たり前だ」

「ところが、剣のわざを突き詰めてゆくと、魔法の制御とよく似た部分が出てくるんです」

「なに?」

「剣は筋肉の力で振るうわけですが、その筋肉を制御し、そこに筋肉の力以上のものを吹き込んでやるのでなければ、剣のわざとはいえません」

「ふん?」

「呼吸を制御し、体の各部から引き出した力を、体のなかにぐるぐると回して強化し増幅し、剣にその剣以上の切れ味を与えるのです」

「よくわからん」

「その力が通る道を気脈といいます」

「ほう」

「ところが、魔力を体内で増幅して放出するときの、その魔力の通り道というのは、多くの場合、その気脈とよく似ているんです。それに、気を練るのも魔力を練るのも集中のしかたは同じようなものです」

「わかってきた」

「充分に気脈の確立していない剣士が魔法剣を使いだすと、当然ながら、その気脈を使って魔力を通そうとしてしまいます。しかし、気脈と魔力の通り道は完全に一致することはないのです。その結果、剣に力を与えるわざが乱れてしまうわけです」

「よくわからんが、わかった。充分に自分のなかの気脈とやらを使いこなせるようになれば、魔法剣を使っても問題ないんだな」

「そういうことです。というより、わが流派の奥義のなかには、魔法剣の習得も含まれています。気脈と魔力制御の両方ができなければ、一族のあるじたる立場には立てないのです」

「ユリウスは、どうなんだ」

「今のユリウスは目覚ましい成長期に入っています。レカン殿のおかげです。これが落ち着くまでは、余分な要素を加えるべきではありません」

「なるほどな。お前は魔法剣が使えるが、魔法は使わんな」

「はい。同じ理由です。魔法を学んでしまうと、剣のわざが乱れることがあるんです。だから、魔法剣を使える程度の魔力制御は身につけますが、魔法そのものは練習もしません」

「あの、アリオス君?」

「はい。エダさん、何ですか」

「イリーズの一族って、剣の一族だよね」

「はい。そうです」

「でも、一族の奥義を極めるには、魔力がいるの?」

「はい」

「でも、必ず魔力持ちが生まれるとはかぎらないんじゃないの?」

「エダさんは、鋭いですね」

「そうかな。えへへ」

「その通りです。だから一族の長の妻は、豊かな魔力を持っている女性が望ましいとされています」

「あ、そういえば、アリオス君のばあちゃんって、すごい魔法使いなんだよね」

「はい」

「ユリウス君のお母さんも、すごい魔法使いなの?」

「すごい魔法使いではありませんでしたが、豊かな魔力の持ち主でした」

「でした?」

「亡くなってしまいましたので」

「あ、ごめんなさい」

「いえ、いいんです」

「さて、休憩は終わりだ。行くぞ」

 一行は腰を上げ、それぞれの穴に入った。

 そして、それぞれの穴を攻略し、出口で集結した。目の前には階層の主が待つ部屋がある。

「さてと。それじゃ行くかいの」

 ジザはそうつぶやくと、じろりと一同をみまわした。

「アリオス殿」

「はい」

「これをもらってくだされや」

「これは、〈インテュアドロの首飾り〉ですね」

「そうじゃ。あなたにはこれが必要になる」

「わかりました。お借りします」

 アリオスが首飾りを装着するのをみとどけてから、ジザは〈自在箱〉から一本の杖を取り出した。

 長大な杖だ。小柄な老女であるジザの身長の倍ほどもある。

 上のほうの部分は大きく湾曲していて、その湾曲した部分から七つのとげが突き出ている。

 いや、とげというより角だ。ナイフのようにもみえる。

「こ、これがモルフェス家の秘宝〈七頭の青杖〉!」

 ウイーがやたら感動した顔つきで、ジザの持つ杖にみいっている。

「レカンちゃん。わしが部屋に入ると同時に部屋に入っとくれ。でないと戦いをみのがすかもしれんからの」

「わかった」

「ディオ」

 ジザが短く言葉を唱えると、〈七頭の青杖〉の湾曲部分から突き出した角の一本が、音を立てて赤く発光した。

「ヴェント」

 次の言葉を受けて、二本目の角が、薄桃色の光を発した。

「パードラ」

「カーツォ」

「シャンタ」

「サリカ」

「イリエント」

 ジザが言葉を発するたびに、突き出した角が一つずつ、ぼっ、ぼっ、と黄色、緑色、水色、青色、紫色の光にそまる。そしてすべての角が発光したとき、ばちばちとすさまじい火花が散り、雷電が飛び交った。

 反応し合っているのだ。七つの角のそれぞれが反発し合い、増幅し合い、力を高めている。やがて杖本体が青い燐光を帯びた。

 杖にそそがれている魔力は想像を絶するほど膨大なものだ。今や小柄な老婆から発する魔力の奔流は、周りのすべてを吹き飛ばしそうなほど荒れ狂っている。近くに立っているレカンは、その奔流に圧迫され、体がふわりと横に運ばれそうな感覚を覚えた。

 ジザのまとうゆったりした服は、ばさばさと波打っており、ジザの髪は命あるもののように逆巻きゆらめいている。

 ジザが穴に足を踏み入れた。

 レカンも穴に入った。

 ほかのメンバーも、この場面をみのがしてはならないとばかりに、ほぼ同時に転移部屋に侵入した。

 部屋に入ったその瞬間、ジザの発動詠唱が響いた。

「カルクスマルフォリエンナ」

 そして地獄が現出した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 気脈を使った攻撃力の増幅は所謂身体強化魔法のような立ち位置な印象ですね この体系を確立した人もまた偉人ですね、多分長命種で名前は世間に残ってなさそうですけど
[良い点] https://ncode.syosetu.com/n3930eh/539/ ・「ユリウスが魔法剣を使うのを禁止しているようだが、なぜなんだ」 ・「気が乱れるからですよ。レカン殿にとっては…
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