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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第46話 白炎狼
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 八十二階層の主は白い魔狼だった。

 レカンはその魔狼の頭を〈炎槍〉で吹き飛ばした。

「準備詠唱がない。詠唱省略だと? しかもいったい何なのだ、このばかげた威力は。それにどうして白い魔狼に魔法攻撃をするのだ。間違っている。というか、〈炎槍〉を曲折させた? まさか。そんなばかな」

 ウイーがぶつぶつ言っているが、レカンは気にしなかった。

 この魔狼からも大きな魔石が採れた。非常に質のよい魔石に思えた。これもジザに渡した。なにしろジザには〈インテュアドロの首飾り〉といい〈自在箱〉といい、大盤振る舞いを受けている。手に入ったものはすべてジザにもらってもらうつもりだ。

 八十三階層の主との戦いでは、レカンは、エダとユリウスに先頭に立って戦えと命じた。

「オレとアリオスがすぐに飛び出せるようにしておくから、思いっきりぶつかってみろ」

「わかった」

「わかりました、師匠!」

「だめだ! 危険すぎる! 私が先頭に立って敵を引きつけるから、そこをエダ殿とユリウスが攻撃すればよい」

「黙っててくれ、ウイー」

「いや、黙らない。これは集団戦だ。どうして二人だけを危険な目に遭わせるのだ」

「ウイー。レカンちゃんにはレカンちゃんの考えがあるのじゃ。感情論で反対するのはいただけんのう」

「おばばさま。しかし」

「ウイーさん。レカン殿は、今のエダさんとユリウスがこの階層の敵相手にどのくらい動けるのかみたいんですよ。さらに下層での戦いのために」

「アリオス殿」

 アリオスの言葉を聞いて、ウイーの興奮は静まった。

(ほう。アリオスの言うことは聞くんだな)

(この二人、相性がいいのか?)

「よし。行け」

 レカンはエダとユリウスに指示を出した。後ろでアリオスが、困った人だという顔でレカンをみている。アリオスにそう思われているだろうとレカンも気づいていたが、レカンとしては自分の集中力は敵と戦うことにのみ振り向けたかったのであり、味方のはずのパーティーメンバーに行動理由を説明するために気力を消耗するのはいやだった。

 白い魔狼だった。ユリウスとエダが部屋に入るなり、高熱のブレスを放ってきた。エダも〈イェルビッツの弓〉で攻撃する。部屋に入る前に弓を引き絞って準備していたこともあり、恐ろしく短時間で魔法の矢が飛び出した。

 ブレスと魔法の矢は中空でお互いを打ち消した。

 魔狼が駆け出しながらブレスを放つ。

 同じく駆け出しているユリウスが、わざとこの攻撃を受ける。〈インテュアドロの首飾り〉が障壁を生成してブレスを防ぐ。

 三度目のブレスを放とうとした魔狼の口元に、五本の魔法の矢が着弾する。ユリウスが魔狼の攻撃を受け止めたことで、エダに攻撃の余裕が生まれたのだ。もちろん白い魔狼に魔法攻撃は通じない。だが一瞬目をくらまし、注意をそらすことはできる。

 すかさずユリウスが低い姿勢で飛び込んで、地上すれすれに剣を振り抜く。

 魔狼の右前足の先が切れ飛んだ。

 体勢を崩す魔狼の顔に、またも魔法の矢が着弾する。

 〈疾風剣〉が魔狼の首筋に鋭く食い込む。

 魔狼が素早く首を巡らして巨大な口を開き、ユリウスに牙を突き立てんと迫る。

 だがそのときすでにユリウスは、ひらりと身をかわして魔狼の右後ろ足の先を斬り飛ばしていた。

 魔狼はなおも首をめぐらしてユリウスを捉えようとし、転倒した。

 ユリウスの剣が魔狼の喉元を斬り裂く。

 魔狼が苦し紛れに繰り出した左前足の攻撃がユリウスの胸元をえぐる。

 それに構おうともせず、ユリウスは再度魔狼の喉元を斬り裂く。

 それが致命傷となり、戦いは終わった。

「〈浄化〉!」

 エダが放った魔法でユリウスの傷が癒える。といっても、小火竜の革鎧はきわめて頑丈であり、魔狼の爪はユリウスの肉体に届いてはいないはずだ。せいぜい軽い打撲程度の負傷だが、癒しておくに越したことはない。

「ユリウス! 見事だ」

 アリオスが声を上げた。

「素晴らしく伸びのある歩法だった。そして見事な斬撃だった。長い剣筋の攻撃は実戦では使いにくいものだが、実に的確な攻撃だった」

「父上」

「やはり君をレカン殿に預けたのは正解だったな。この前、里で君の剣技をみたとき、大きく殻を破りつつあると思ったが、この成長ぶりには驚いたよ」

「ち、父上。ありがとうございます!」

「エダ。お前も見事だったぞ。的確な支援攻撃だった。それに〈イェルビッツの弓〉の発射速度が格段に速くなっている。よく修練したな」

「えへへ。ありがと、レカン」

「ま、まさか二人で転移部屋の魔狼を倒すとは。信じられん」

「よし。二人の動きと攻撃力は、およそわかった」

 レカンは魔石を採りだしてジザに渡した。

「おばば」

「なんじゃな」

「次の階層ではあんたの戦いをみたい」

「ひょ、ひょ、ひょ。いいとも、いいとも。たっぷりみせてやろう」

「次の階層に跳んでから、少し休もう。皆、手をつなげ」

 レカンとジザとアリオスとエダとユリウスとウイーとボルクは手をつないだ。

「〈階層〉〈転移〉」

 レカンが呪文を唱えると、一行の姿はその部屋から消えた。


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