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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第46話 白炎狼
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「信じられん。四日間で、八十階層だと。一階層から始めて八十の階層を四日間で突破しただと。信じられん」

「ウイーさん。それもういいですって」

「エダ殿。これは歴史的な快挙なのだ」

「ウイー。まあ肉を食え」

「ありがとう、レカン殿」

 ウイーに元気が戻った。レカンをみる目には敬意がこもるようになった。

 それはいいが、少し浮かれすぎだ。

 とはいうものの、ここまでくれば、あとは少し楽になる。

 レカンは八十一階層以降に足を踏み入れたことはないが、ジザたちからかなり詳しく話を聞いている。

 八十一階層から、それぞれの穴に出る敵は一頭になる。今までより数段強い魔狼だが、一頭ならこのメンバーが後れを取ることはないはずだ。少なくとも、五頭も六頭も相手が出てくるよりは、ずっと戦いやすいことは間違いない。

 八十一階層からの手ごわさは、五つの穴を抜けたそのあとにある。今までとちがい、五つの穴を抜けると一つの穴があり、そこに全員で入って敵を倒し、次の階層に進むのだ。いわば階層ごとに主がいるようなものだ。

 そしてこの階層からは、完全に白い魔狼が出ることがある。つまり魔法攻撃無効の魔狼だ。特に階層の主に出やすいという。だが、レカンもアリオスもユリウスも剣士なのだ。そして魔法が通用する相手ならジザがあてにできる。だから正直怖くはない。怖いのは百階層以降の敵だ。

「レカン殿。難しい顔をしていますよ」

「ああ、アリオス。ちょっと考え事をしていた」

「お酒でも飲んだらどうです」

「そうだな。そうしよう」

 酒は格別のうまさだった。竜肉をほおばりながら、ちびりちびりと強い酒を飲んだ。喉を焼く酒が、戦いの疲れを癒してくれる。スープも格別のうまさだった。エダは材料を惜しみなく投入して、八十階層突破を祝ってくれたのだ。

 ボルクは何も言わず、皆の後ろに立っている。その緑色の目だけが、たき火の光に照らされて神秘的な輝きを放っていた。

 五日目となった。

 レカン、ジザ、アリオス、ウイーとボルク、そしてエダとユリウスは、五つの穴に突入した。

 レカンが穴に入るなり、奥のほうにいた巨大な白い魔狼が冷気のブレスを放ってきた。

「〈炎槍〉!」

 冷気のブレスと〈炎槍〉が空中で衝突して爆発し、白い霧があたりに立ち込めた。レカンは前方に駆け出す。霧の向こうでは、ずたずたになって死んだ巨大な白い魔狼の残骸が横たわっていた。レカンが放った炎槍は、太さでは少しばかり冷気のブレスに劣っていたが、威力では圧倒的にまさっており、冷気のブレスを打ち消して魔獣の体に到達し、吹き飛ばしたのだ。

 八十階層までは、こちらが穴に入ってから黒いもやが生じ、そこに魔獣が出現する。ところが、八十一階層からは、魔獣はあらかじめ穴のなかに出現しており、こちらが穴に入るなりいきなり攻撃してくる。その攻撃速度は八十階層までの魔狼より格段に優れており、攻撃の威力も桁違いに大きい。

 だが、それだけだ。レカンにとっては脅威とはならない。白い魔狼だったので、思わず魔法攻撃をしてしまった。魔法無効というのがどういうものなのか知っておきたかったのだ。だが、敵は白くはあったが魔法無効ではなかった。

 レカンはそのまま走って穴を出た。

 続いてアリオスが、エダとユリウスが、ウイーとボルクが、そしてジザが穴から出た。

 前方に大きな入り口があり、もやで覆われている。この大きさなら、六人と一体が同時に突入することができるだろう。いよいよ集団戦だ。

「よし。行くぞ」

「待ってくれ、レカン殿。私が最初に入る」

「なに?」

「それが魔法騎士の役目なのだ」

 いきなり物理攻撃が飛んできた場合、魔法使いでは即死する危険がある。だから魔法騎士がまず主の部屋に突入し、相手の攻撃を引きつけて、魔法使いが攻撃するための時間を稼ぐのだ。そしてもし敵が真っ白な魔狼だったら、魔法使いたちが魔法攻撃で相手の目をくらませているあいだに敵に接近し、剣で魔狼を倒す役目も負う。

「ああ、そうだったな。だが、オレたちはこの敵とはじめて戦う。様子をみさせてもらうぞ」

 そう言ってレカンは無造作に穴に踏み入った。

 穴というより部屋だ。差し渡し五十歩ほどの丸い空間である。そしてその奥に、巨大な黒い魔狼がいて、いきなり突進してきた。

 レカンも飛び出した。そして剣を抜く、狼系の魔獣には絶対の威力を誇る〈狼鬼斬り〉だ。

 レカンの右目が敵を射抜くような光を発し、〈狼鬼斬り〉が猛突進してくる魔狼の首筋にたたき込まれるかと思ったその瞬間、魔狼は身をひねってレカンの攻撃をかわした。

 剣が空を切る直前、敵の動きに気づいたレカンは、地を蹴って身を翻し、走り去る魔狼を上空から襲った。タイミングから考えれば間に合わない動きだ。だがレカンの後ろから走り込んでいたアリオスが、魔狼の右前足に斬りつけて、一瞬動きを止めた。だからレカンが振りおろした剣は、巨大な魔狼の首を一太刀で斬り落とした。

「おっと」

 倒れた魔狼の首から滝のように血があふれ出る。アリオスは、ひょいと身をかわした。

「アリオス、助かった」

「いえいえ。しかし、速かったですね。それに大きい」

「ああ、速かったな。予想を少し超えていた。大きさもな」

 やはり八十一階層の主は、これまでの魔狼とは格が違っていた。体高も高く、移動と攻撃の速度はとてつもなく速い。これの体当たりをくらったら、レカンといえど無事ではすまない。今までの敵と同じような調子で剣を振ったら、かわされてしまった。反応速度も段違いだ。

 入り口のほうをみると、ユリウスとエダが走り寄りかけた位置で立ち止まっており、その後方にウイーとボルクがいて、そのさらに後ろにジザがいる。

「ま、まさか。八十一階層の転移部屋の魔狼が、黒い魔狼が、たった一太刀だと。ばかな」

 ウイーのつぶやきがよく聞こえるほど、部屋は静かだ。

「レカン殿。その剣、あれですね」

「ああ、あれだ」

 この迷宮にかぎっては、〈狼鬼斬り〉は〈虚空斬り〉をもしのぐ。レカンは非常によい気分だった。

 レカンはいつものように、剣を一閃させて魔獣の胸を斬り裂き、〈移動〉の魔法で魔石を取り出した。

 それをみたウイーは、目を大きくみひらき、石の彫像のように固まった。

 レカンはいつものように、右手を左胸に当て、戦場に一礼した。アリオスも、ユリウスも、エダも同じようにした。

 そんな四人を、ジザとウイーは不思議そうにみた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 書籍を見返していたのですが、6巻の >  レカンが穴に入るなり、奥のほうにいた巨大な白い魔狼が冷気のブレスを放ってきた。 > 「〈炎槍〉!」 この炎槍のルビが バンドルー ではなく…
[良い点] 3度目くらいの読み返しになるでしょうか。 読むほどに登場人物同士のやり取りに人間性が垣間見えて、飽きることなく楽しませていただいております。 [気になる点] 物語を描く、また連載する上で、…
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