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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第46話 白炎狼
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「さて、そろそろ攻略を再開するか」

 レカンがそう声をかけると、ジザがこう言った。

「ウイー。ボルクちゃんを連れていくのじゃ」

「えっ」

 ウイーが驚いた顔でジザをみた。

「ボルクちゃんというと、人造皺男のことですね、おばばさま」

「そうじゃ。あんたはみたことがなかったかのう」

「ありません。おばばさまが迷宮探索を禁じられたのは、私が魔法騎士になる前ですから」

「そうかの。ちょっと待っておくれな」

 ジザは〈自在箱〉のなかから小さな人形を取り出した。

 白っぽい何かの金属でできた人形である。

 細杖を構えたジザは、呪文を唱えた。

「マザーラ・ウェデパシャとヤックルベンド・トマトの名において、ジザ・モルフェスが命じる。土人形ボルクよ、わが命に従い、疾く仮初めの眠りより覚めよ」

 人形がまぶしく発光した。その光は段々強く大きくなる。

 ジザは魔力を注ぎ続ける。

 とてつもない量の魔力が惜しげもなく注がれてゆく。

 やがてジザが魔力を注ぐのをやめ、光が収まったとき、そこにはレカンよりも少し大きな体躯を持つ、白い巨大な人形が立っていた。

 たくましい筋肉を持つ人間の男性を模した彫像のようでもある。ただ、体が全体にのっぺりとしていて、人間そのものにはみえない。

 目があるべき位置には緑色の宝玉がはまっている。

 鼻も耳もあることはあるが、穴が開いていない。

 口は大きく引き結ばれていて、決然とした力強さを感じさせる。

「これが、人造皺男」

 ウイーがぽつりとつぶやいた。

「ウイーよ。まずボルクちゃんへの命令を覚えてもらう。わしの言うことを復唱するのじゃ。よいかの」

「は、はい」

「〈ボルク、前進開始〉」

「ボルク、前進開始」

「〈ボルク、前進終了〉」

「ボルク、前進終了」

 続いてジザはウイーに、後退開始、後退終了、戦闘開始、戦闘終了、誘引開始、誘引終了、防御開始、防御終了、攻撃開始、攻撃終了、拘束開始、拘束終了という命令を伝授した。

「こんなもんじゃな。基本的に開始の命令は終了の命令と対になるが、例えば前進開始を命じてから戦闘開始を命じると、自動的に前進の命令は解除になる。その一方で、戦闘を命じた状態で前進を命じると、戦闘は継続したまま前進する。まあ、そのあたりは実際に使ってみて覚えるんじゃな」

「ジザ導師様、質問してもいいですか」

「おや、エダちゃん。何が知りたいのじゃな」

「戦闘開始と攻撃開始って、どうちがうんですか」

「攻撃開始を命ずると、必ず攻撃する。じゃが、戦闘開始を命じた場合、相手の攻撃を待ち構えたり、味方を守る行動に出たりするかもしれん。ボルクちゃんには高度な判断機能が与えられておるんじゃ」

「へえー」

「前進を命じられたからといって、ただまっすぐ前にあるくわけじゃない。斜め右前方に穴があれば穴のほうに向けて進むし、前方に人間や魔獣がいれば、そちらに向かって進むのじゃ」

「誘引って何ですか」

「魔獣を引き寄せて引きつけるんじゃ。さて、ウイー」

「はい、おばばさま」

「穴に入ったら、すぐに戦闘開始と誘引開始を命ずるとええ。そうすれば魔獣は全部ボルクちゃんに向かう。それをたたき斬ってゆけばよいのじゃ」

「は、はい。しかし」

「しかし、何じゃ?」

「私がボルクちゃんを使ってよいのでしょうか」

「ウイーよ。あんたがこの階層を踏破したとき、何人で穴に入った?」

「五人です」

「そうじゃろうのう。このあたりの階層は、魔獣の最大数に合わせてメンバーを組むと攻略しやすい。いくらあんたでも、一人では戦えん」

「し、しかし、それはレカン殿もアリオス殿も同じでは」

「このお二人は、高速戦闘が得意じゃ。ついでにいえば、ユリウスちゃんもエダちゃんもそうじゃ。あんたは装備も学んできた戦い方も、高速戦闘には向いとらん」

「は、はい」

(ほう。ジザはよくみてるな)

(それにしても、ウイーに高速戦闘ができないというのは、オレたちから言うわけにはいかん言葉だった)

(ジザに言われたのなら、ウイーも納得するだろう)

「ウイー。ボルクちゃんの手を握るのじゃ」

「はい」

 ウイーがボルクの手を握ると、ジザは細杖を向けてボルクに魔力を流し込んだ。

 しばらくのあいだ、それは続いた。

「よし。これでウイーを命令者として登録できた」

「命令者、ですか」

「そうじゃ。今度回収して再起動するまで、ボルクちゃんは、あんたの言うことしか聞かない」

「え」

「さ、穴のほうを指して前進を命じるんじゃ。そして穴を通るときには、ボルクちゃんのどこかに手を触れとくのを忘れんようにな。そうすればボルクちゃんは装備の一部とみなされて、一緒に穴のなかに入ることができるからのう」

「はい」

 ウイーは人さし指で穴のほうを指さした。

「ボルク、前進開始」

 ボルクがくるりと向きを変え、穴に向かって歩き始めた。ゆったりした歩みだが、力強い。ボルクとウイーは穴に入った。

 その後ろ姿をみおくってから、レカンはジザに話しかけた。

「ところで、全然皺男に似ていないが、あれのどこが人造皺男なんだ?」

「え? 似とらんのか?」

「あんた、皺男をみたことがないのか」

「この迷宮には皺男は出んからのう」

 この老魔法使いなら、図版か何かで皺男を知っていそうなものだ。いや、知っていてとぼけているのかもしれない。

「それに、土人形というより金属人形だ」

「わしがそう呼んだわけじゃない。文句があるのなら、ヤックルベンド師に言うがええ」

「わかった。この話はなしだ」

 この日は、ゆっくり休憩を取りながら七十階層まで進んだ。〈転移〉で次の階層に跳ぶときは、ウイーがボルクの手を握った。

 四日目には、八十階層まで進んだ。

 ウイーの戦いぶりは安定していた。エダとユリウスが遅れることが多くなり、防具に傷が増えた。


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― 新着の感想 ―
レカン「おのれ、ヤックルベントめ!」
[一言] 人造皺男落ちた世界の文化レベルに対して高性能すぎてオーパーツですね、持ち運びしやすいよう収縮機能まであるし シーラとヤックルベントの合作なのでそういうのができるよなとはなりますが、ただ合作ゆ…
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