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「ひょひょ。そうかいの。じゃが、わしと一緒に潜ると、おぬしは今後パルシモに入ることを禁じられるかもしれんぞ」
「踏破できれば、もうこの迷宮にも町にも用はない」
「ひょっ、ひょっ、ひょっ。これは愉快じゃ」
レカンもにやりと笑った。
そしてあることを思い出した。
「そういえば、あんたが参加すると、一人半分の枠が埋まると聞いたが」
ジザはしばらく沈黙した。そのあと出てきた声は、奇妙に低かった。
「それはどういう意味じゃ。おんし、何を知っておる」
「エラ・モルフェスはマザーラ・ウェデパシャから二つの贈り物を受けたはずだ。一つは杖で、もう一つはヤックルベンドの力を借りて作った傑作だと聞いている。それが何であるのかは聞かなかった」
「誰にそのことを聞いたのじゃ」
「オレの魔法の師匠だ」
「その師匠の名は」
レカンは返事に詰まった。
シーラの名を言えば、この老魔法使いは、その人物を捜すかもしれない。すると、ヴォーカの町に住んでいた薬師で、薬聖の師ともいわれている人物だと突き止めるだろう。突き止めたからといってどうということはないが、ジザはマザーラ・ウェデパシャとシーラが深い関係にあることを知る。それはシーラがおぞましい不死者であることを明らかにする手がかりとなるかもしれない。
「あんたに名を明かしていいかどうか、オレにはわからん」
「その師匠という人は、マザーラ様とどういう関係なんじゃな?」
まさか同一人物であるとは言えない。
「そういえば、師匠が言っていた。〈驟火〉の伝授を受けたとあんたに伝えろと」
「何じゃと!」
珍しくジザが驚きをあらわにした。
「レカンちゃんは、その師匠という人から、〈驟火〉の伝授を受けたっていうのかの?」
「ああ」
「レカンちゃんは、〈驟火〉を使えるのかの?」
「ああ」
「なんてことじゃ」
「それがどうかしたのか」
「エラ・モルフェスは、マザーラ様から古代語魔法の伝授を受けた」
「そうらしいな」
「膨大な魔力を持ちながらモルフェス一族の伝える現代語魔法ではほとんど力を発揮できなかったエラじゃったが、古代語魔法を教わるや才能が開花し、強大な力を身に付けた。エラは古代語魔法の世界に夢中になった」
「なるほど」
「あるときマザーラ様がおっしゃった。〈のめり込むのはおよし。確かに古代語魔法には強力なものが多いけど、現代語魔法にも便利なものが多い。結局工夫次第なんだ。視野を狭くしちゃだめだよ〉とのう」
「それで?」
「エラは言い返した。〈でも攻撃魔法の威力に限っては、現代語魔法は古代語魔法に遠く及びません〉。マザーラ様は〈その考え方が狭いというんだ〉とおっしゃり、強力な現代語魔法の見本だといって〈驟火〉を実演してくださった。エラは常に迷宮での戦いを念頭に置いていたから、一人で軍団を相手取るような魔法については考えたこともなかったんじゃな。ひどく〈驟火〉に魅力を感じたエラは、マザーラ様に懇願して教授を受けた。じゃが習得できなんだ」
「なに? それはおかしい」
「いくら練習してもエラが同時に放てる〈火矢〉の数は二百にも届かなかったんじゃ。マザーラ様によれば、少なくとも千、できれば万の〈火矢〉を同時に放つのでなければ〈驟火〉とはいえんということじゃった」
「魔力不足というわけではないだろうな」
「そうではないんじゃと。マザーラ様によると、エラは理詰めで魔法を使うタイプじゃが、〈驟火〉を使いこなすには直感的な魔法の発動と、きわめて精密な魔力制御が必要だというんじゃよ」
「ああ。まあ、そうだな」
「その〈驟火〉をおぬしは習得できたのじゃな?」
「合格はもらえた」
「一度みせてもらえんかのう」
「いいとも。今、やるか?」
「森を焼き尽くす気かの。そんなことしたら領主の兵に捕縛されて、迷宮探索どころではなくなるわい。また今度頼むわいな」
「わかった」
ジザはいったん研究所に帰り準備を調えなければならない。同行者に声をかけて準備させる必要もある。ただし、ぐずぐずしていると理事会がジザの思惑に気がついて邪魔をするかもしれない。だから迷宮への突入は一日後ということになった。
「じゃあオレは今日は迷宮に入らず、町をぶらつくことにする」
「そうしてくれるかの。あ、そうだレカンちゃん。気になってたことがあるのじゃ。おぬしが首にかけてるそれは、もしかしたら〈インテュアドロの首飾り〉じゃないかのう。それも特別製の。ちょっとみせてくれんかの」
レカンは首飾りをはずしてジザに渡した。
「やっぱこれじゃったか。レカンちゃん。どういういきさつでおぬしがこれを持っておるのか、教えてもらえるじゃろか」
「ニーナエ迷宮でジャイラというパーティーに襲われ、殺されそうになったが、こちらが勝った。そのとき、ジェイドという引退した冒険者があいだに入って仲裁したので、やつらの命は奪わなかった。後日、わびの印だということで、白金貨六枚とこの首飾りが届けられた」
「そんなことやらかしたんじゃのう。この首飾りはわしが作ったものなんじゃ」
「ほう」