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六日目は休養した。
七日目には四十六階層まで、八日目には五十階層まで進んだ。
四十三階層からはレカンたちも未踏破だが、特に問題はなかった。
九日目は休養した。
十日目には、五十四階層まで進んだ。この階層になると、ゾイルたちも未体験だ。だがきちんと準備をしてきていたので、行き詰まることなく探索は進んだ。
五十一階層からは最大四頭の魔狼が出る。そこそこ物理耐性の高い魔狼も出始める。そのため、今回はじめて来た魔法使いたちが立ち回りをつかむのに手間取り、魔力回復のため長い休憩を入れた。
十一日目は五十八階層まで進んだ。十二日目は六十階層まで進んだ。
ここで三日間の休養をとった。
十六日目からは一日二階層をめどにするようになり、あいだに休養日も挟んで、探索二十二日目にあたる七の月の二十六日に七十階層に到達した。
受付に行って報告し、そのまま全員で町に出て祝杯を上げた。
「レカン。俺たちは今回、七十階層に到達するのが目的だった。二か月ぐらいかかると思ってた。七十階層に到達したら、一か月ぐらい七十階層の二つの穴を繰り返し探索しようと思ってたんだ」
ということは、十人で五頭の魔狼を討伐することになる。無難で実入りのいい探索になるだろう。
傷を癒し疲れが取れるのを待ちながら探索すれば、二か月ぐらいはかかったはずで、やはりゾイルは堅実な冒険者だとレカンは思った。
「ところが思いがけずあんたたちと出会えたおかげで、二十二日で七十階層に到達した。メンバーの誰一人も欠けずに、しかも傷もなしにだ。エダに乾杯!」
全員がエダに杯を捧げた。
「そこで相談だが、あんたたちはさらに先に進むつもりなんだな?」
「ああ」
「まさか百階層より先をめざしてるのか?」
「ああ」
ゾイルは椅子に深くかけてため息をついた。
「最初はエダの〈浄化〉のすごさに圧倒された。実際、こんなに早く七十階層に来ることができたのは、半分以上、エダのおかげだと俺は思ってる。だが、それ以上にすごいのがあんただ、レカン」
レカンは返事をせず、じっとゾイルの顔をみている。
「ここまであんたはずっと一人で穴に入ってきた。そして傷も負わず、短い時間で戦闘を終わらせている」
実は完全に無傷だったわけではなく、〈回復〉を使って傷を癒しているのだが、レカンは自分も〈回復〉の使い手であることは、ゾイルに教えないつもりだ。
「さすがはツボルト踏破者だ。恐れ入ったよ。それにあんたとは何度か酒を酌み交わしたが、信用できる人間だと俺は感じている。さて、みんな」
ゾイルは、パーティーの仲間たちの顔をみわたした。
「俺はこれからレカンに対して、八十階層まで共同探索を続けることを提案しようかと思ってるんだが、みんなはどう思う?」
「賛成だ」
「わしも賛成じゃ。こんなチャンスは二度とない」
「あたしも賛成だよ。〈浄化〉持ちがいてくれることが、ここまで心強いことだとは思わなかった。行けるところまでご一緒したい」
「それはいいが、ゾイルよ。少しでも無理だと思ったら、その階層でやめておいたほうがいいぞ」
「もちろん、そうだな」
全員が賛成した。
「レカン。聞いての通りだ。もう少し一緒にやらせてくれないか。条件は今までと同じだ。ただし、七十一階層からの戦闘は想定してなかったんで、無理だと思ったら言うから、そのときは共同探索を中止させてくれ」
「いいとも。願ってもないことだ」
その夜は酒がひどく進み、全員翌日は探索できる状態ではなかった。
七の月の二十八日の朝、受付の職員の前で新たな取り決めを行い、探索が再開された。
そして七の月の三十九日、共同探索三十五日目にして、〈ウィラード〉とゾイルのパーティーは、パルシモ迷宮八十階層に到達したのである。
その夜は町に繰り出して、大いに祝杯をあげた。
ところでレカンは共同探索をしているとき、ゾイルから属性魔石について情報を得た。
実は鑑定してみてわかったのだが、今までレカンが得た魔石のなかにも属性魔石はあった。
ただしこの属性が発揮されるのは、魔石から直接魔力を放出させたときだけなのだ。それには、杖や魔道具のなかに組み込む必要がある。レカンは実験してみたが、属性魔石から魔力を吸っても、普通の魔石と何も変わりがなかったし、放出する魔力の質が変わるということもなかった。
つまりレカンが自分で使うぶんには、属性魔石も普通の魔石も同じことなのである。
(魔石の鑑定なんかしないからなあ)
(もしかすると今まで手に入れて使ってしまった魔石のなかにも)
(属性魔石があったのかもしれんな)
共同探索の際に、レカンもエダもユリウスも、魔石のほかにそれなりの数の恩寵品を入手していた。
目新しいものばかりだったが、あまり自分で使いたいとは思わなかった。威力付加のついた杖が宝箱から出たので使ってみたが、思い切り魔力を込めたら杖がはじけ飛んでしまった。
たぶんレカンにとって使いでがあるような品は、もっと深い階層に行かなくては手に入らないのだろう。
ともあれ、ゾイルのパーティーと出会えたことは幸運だった。
遅くまで飲んだので、翌日はゆっくり寝ていたのだが、宿の従業員に起こされた。
「レカンさん。すいません。起きてますか」
「何か用か」
「お客さまがおみえです。下で待っておられます」
「客?」
「ジザ・モルフェス大導師様がおみえです」