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「導師とか理事とかいうのは何人ぐらいいるんだ?」
「導師は五人だと思う。理事は、さあ十人をちょっと超えるぐらいだろう。導師は理事になれるんだが、なりたがる人はいない。導師級の魔法使いなんて、研究以外に時間を使うのが大嫌いな人ばっかりだからね。だから今、導師と理事はメンバーがかぶっていないと思う」
「強いんだろうな」
「戦闘の話か? そうとは限らない。それは上級研究員にしても同じだ。研究に専念していて迷宮には潜らない人もいる。とはいっても、上級研究員や理事で八十階層に潜れない人はほとんどいないと思う」
「それは世間の基準でいけば、かなり強い。ところで、魔法騎士団というのは、いったい何なんだ」
「一応騎士団という名がついているけど、集団で行動するのはほとんどみないな。迷宮探索の補助をするために生み出されたのが魔法騎士で、管理上騎士団に組織されてるだけだ」
「迷宮探索の補助?」
「エラ・モルフェス導師の時代には、魔法使いだけで深層に潜っていた。だが強力な魔法使いが減っていって、魔法抵抗の強い魔狼が出ると苦戦するようになった。それで、魔力はあるけれど強力な魔法使いになれるほどの魔法適性はなく、筋力や俊敏性に優れた者に騎士としての訓練をほどこし、魔法騎士にするという対応がとられた。魔法騎士というのは、迷宮探索のためだけにある。迷宮の外でなら、魔法騎士なんか使わなくても、騎士と魔法使いを使えばいいからな」
それは迷宮のなかでも同じではないのかと言おうとして、思い出した。パルシモ迷宮には、魔力を持たない者は入れないのだ。
「この町には魔力持ちが多い。魔法を覚えたい者は民間の魔法使いに弟子入りすることもあるが、優れた指導を受けたいなら魔法研究所を目指すことになる。その入所試験で魔法騎士に向いていると判定されたら、いやでも魔法騎士にならされる」
「拒否権はないのか?」
「自分で望んで入所試験を受けたんだからな。配属に文句は言えないよ。まあ配属されたあとで辞める者もいるらしいが、多くはない。そもそも魔法騎士というのは尊敬され、尊重される立場だ」
迷宮探索をしたい魔法使いたちは、深層では魔法騎士の助けを借りることになるだろうから、魔法騎士を敵に回すような振る舞いはしないだろう。
「ただなあ。魔法使いにあこがれて研究所の門をたたいた者のなかには、自分が魔法騎士であることになじめない場合もある」
(もしかしたら)
(ウイーがそうなのかもしれないな)
「杖屋の店主は、よく魔法研究所を辞められたな。誰かに魔法を伝授できたのか?」
「できたんだろうな。それでなければ辞めさせてもらえない。ところで古代語魔法の存在は口にしてはいけないことになっている。そんな魔法は公式には存在しないんだ」
「ふん?」
「パルシモの魔法使いでさえきちんと習得できていないのに、よその人間に関心を持たれるのは困るのかもしれんな」
「なるほど。それはわからなくもない」
「研究所を辞めたあとも、研究所の外で古代語魔法を使うのは御法度だ。もっともこれは建前で、研究所を辞めた何人かの魔法使いが自分の家や店で古代語魔法を使っていることは、理事たちも知っている。知っていて放置してるんだ。もしかしたら、新たな古代語魔法の使い手が現れるのを期待しているのかもしれん」
聞きたいことは聞けたので、レカンは礼を言ってトルーダの店を出た。
ぶらりと酒場によって夕食をすませ、宿に戻った。
エダとユリウスは先に帰っていた。伝言はなかった。
翌日、町でいろいろな店を見て回った。
夕刻、宿に帰ると受付から伝言があった。
次の日の朝、受付に行くと、パーティーの申し込みがあったという話があった。
申し込んできたのは、ゾイルという剣士がリーダーをしているパーティーで、外から来た冒険者たちだった。
ゾイルのパーティーは、パルシモ迷宮に潜るのは三度目であり、今回は、物理職十人と魔法使い十人をそろえていて、七十階層までの攻略を目指しているのだという。
過去二回の経験から、今回はこの人数が必要だと考えたのだということだった。二十人が五つの穴に入れば、一つの穴には四人ずつになる。六十一階層から七十階層まで、魔狼は最大五頭出現する。魔狼五頭を相手取るには、四人いないと安全が確保できないというのがゾイルの判断だ。
ゾイルをはじめ、メンバーのうち十四人は五十一階層まで潜ったことがあるが、六人はこの迷宮に潜ったことがない。そのため、一階層から攻略していかなくてはならない。
受付で声をかけられ、ゾイルは、〈ウィラード〉が探索協力の依頼を出していることを知った。ゾイルはツボルト迷宮にも潜ったことがあり、その百五十階層の主を倒して迷宮を踏破したレカンに強く興味を持った。また、〈浄化〉持ちが同行してくれるとなれば、これほど心強いことはない。
もし、ゾイルのパーティーと〈ウィラード〉で合同探索することになれば、一階層からやり直しになる。だからゾイルは、レカンの依頼を受けるという形ではなく、対等の立場で合同探索をしたい、と申し出たのだという。
「ふむ。その条件に問題はない。とにかく会ってみよう。それからの話だ」
「はい。すぐお呼びします」




