表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狼は眠らない  作者: 支援BIS
第45話 紅蓮の魔女
519/702

6

6


 話がここまで進んだとき、不意にひらめくものがあった。

(そうか!)

(あのときの魔法。あれは古代語魔法だったんだ)

 シーラがレカンの前で魔法を解いて、老いさらばえた姿を現したときのことを思い出した。あのときシーラは、聞いたことのない言葉で呪文を唱えていた。

 もちろんレカンのこの世界の言語に対する理解は深いとはいえず、知らない言葉もたくさんあることはまちがいない。それにしても、あのときの呪文は異質だった。異質でありながら、どこかで聞いたような響きもした。今にして思えば、〈不死王の指輪〉や〈闇鬼の呪符〉の発動呪文と、どこか似ているような気がする。そしてたぶん、シーラは〈始原の恩寵品〉の発動呪文を言語として理解している。

 そもそもジザの祖母エラ・モルフェスは、途絶えていたはずの古代語魔法を誰から習ったのか。もちろんシーラだ。シーラに決まっている。

 シーラこそ、古代語魔法の伝承者だったのだ。

 思い返してみれば、ユリーカの怪物性を隠蔽したときも、たぶんシーラは古代語魔法を使っていた。そのほかにも、いろいろと思い当たる節がある。

 なんということだ。

 レカンはシーラの魔法使いとしての実力がきわめて高いことは理解していたし、〈交換〉や〈脱水〉をはじめ、レカンの使えない魔法も駆使する人物であることはよくわかっていた。けれども、こと戦闘ということになれば、レカンの実力はある意味でシーラに迫りつつあるのではないか、とも思っていた。

 だが、そうではなかった。目にみえる現代語魔法の奥に、シーラは古代語魔法という未知の魔法体系に属する秘術を隠し持っていたのだ。

「トルーダ」

「何だ?」

「ジザ導師は古代語魔法の攻撃魔法を使えるんだな?」

「ああ。それはまちがいない。一緒に迷宮に入った者たちが、そう証言している。発動呪文も記録されている。エラ・モルフェス導師は、すべてを焼き尽くす強大な火魔法の使い手で、〈紅蓮の魔女〉と呼ばれた。ジザ導師の母親もジザ導師も、その呼び名を引き継いでいる」

「ほう。そうか。だがジザたちは、その強力な攻撃魔法を誰かに伝授したことはないんだな」

「そんなこと知らんよ。だが、魔法研究所の理事たちが希望するような形で古代語魔法の講座をしたり、古代語魔法の体系と古代語を文字化するような作業は拒否してるらしい。その一方で、何人かの愛弟子には、攻撃魔法を教えようとしたという噂も聞いている」

「だが誰も習得できなかったんだな」

「ジザ導師以外に古代語魔法の攻撃魔法が使える人間がいるという話は聞いたことがない。みようみまねで古代語魔法の呪文を唱えても、誰も発動できなかったと聞いている」

「その理事会というのは、権威と権力があるんだろうな」

「そりゃそうさ。ある意味領主より偉い。領主は彼女らに相談や依頼はするが、命令はしないのに対して、理事会からの要請が却下されることはないからね。まあ彼女らは統治にはまったく関心がないが」

「彼女ら? 女ばかりなのか?」

「男もいるが、ほとんど女だな」

「ふむ。その理事会の要請を、ジザは断り続けているわけか」

「モルフェス家三代の功績は大きいし、理事会のメンバーは、程度の差はあってもみんなジザ導師の弟子だった人たちだ。強い態度には出にくい」

「なるほど」

「ただし、一つだけ理事会がうむを言わせずジザ導師に突き付けた要求がある」

「ほう。それは何だ」

「パルシモ迷宮八十階層以降への立ち入り禁止」

「なに?」

「死なれては困るからね、ジザ導師に」

(なるほど)

(秘伝を伝承するまでは死ぬなということか)

(ジザは老齢でもあるし、その命と安全を守るという大義名分が成り立つから)

(これは保護だといってもいい)

(本人がどう思ってるかは別だが)

「この禁令は本人に対するものだが、そのほか魔法研究所の全職員に対して、ジザ導師が八十階層以降に潜らないよう監視する義務が負わされている」

「外部の人間と組んだら監視しようがないだろう」

「研究所の人間が外部の者と迷宮探索をするのは禁じられている」

「なに? オレはジザや何人かの職員、それに魔法騎士と迷宮に潜ったぞ」

「その話は聞いたよ。外部からややこしい身分立場の探索者が来たときには、監視をつけて、相手の能力や性格をみきわめるんだ。のちのちもめ事の種にならないようにね。その場合、領主からの依頼という形になり、禁則の例外となる」

 この説明に、レカンはなるほどと納得した。しかし違和感が残った。違和感の正体は何かと考えてみると、領主側の判断がふに落ちないということだった。

 レカンはツボルト迷宮踏破者だ。そんな冒険者に引き合わせたら、パルシモ迷宮を踏破したいというジザの執念に火を着けてしまうかもしれない、とは考えなかったのだろうか。

 もっともパルシモの人間は他の迷宮を軽んじる傾向があるから、いくらツボルト踏破者でもパルシモの深層には通用しない、あるいは通用するとしても相当の時間がかかると考えたのかもしれない。

 あるいは、ひょっとすると領主側では、ジザが迷宮踏破にいまだに執念を燃やしていることを知らないのかもしれない。

 いずれにしても、今は判断材料が足りない。それにレカンに直接関係する問題とも思えない。レカンは思考を切り替えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ