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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第45話 紅蓮の魔女
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「なに?」

 杖を持ったまま声を出してしまったことに気づき、レカンは杖をカウンターに置いた。

 店主が言った。

「もういっぱいだ。これ以上の魔力は入らん」

「なに? まだ〈炎槍〉一発分の魔力も入れていないぞ」

「〈炎槍〉一発に、どんだけ魔力を込めるつもりだ! とにかく、ここまでだ。ずいぶん入れたな。このままじゃ危ないから、魔力を抜くぞ」

「よかったら、オレが抜こうか?」

「なんだと。一度入れた魔力が抜けるというのか?」

「ああ」

「おもしろい。やってみろ」

 レカンは中杖を持ち上げ、魔力を吸って、カウンターに置いた。

 店主は再び中杖を調べた。

「魔力が抜けてる。〈吸収〉か? いや、詠唱がなかった。発動詠唱なしに〈吸収〉はできん。あんた、何もんだ?」

 レカンの〈魔力吸収〉は、もともとスキルであり、魔法ではない。そしてもとの世界では、〈収納〉〈魔力感知〉〈生命感知〉〈立体知覚〉〈魔力吸収〉〈魔力付与〉は詠唱など行わないのが当たり前だった。考えてみれば、それだけでもこの世界の魔法使いたちより有利だ。

 だが、それを説明するには、落ち人であることを告げ、手の内をさらさなければならない。今さら落ち人であることを隠すつもりはなかったが、手の内を知られるのはいやだった。だから〈何者だ〉という質問には答えなかった。

 そのあと、いろいろな杖をみせてもらった。

 その結果、いくつかわかったことがある。

 まず、威力にせよ、速度にせよ、精度にせよ、何かの性能を引き上げた杖は、魔力容量が落ちるし、その杖に定められた以上の性能を出すのはひどくむずかしくなる。

 つまり、速度を底上げする杖を使っても、本人の素地の速度のほうが速ければ、結局魔法の発動は遅くなってしまうのだ。

 だから普通は、伸ばしたい能力をうまく引き出せる杖を使い、本人の成長に応じて次々に杖を換えてゆくのだという。

 攻撃用の杖のほかに、身体系魔法の効果が上がる杖もあるというので何本かみせてもらった。〈回復〉しか使わないと約束して実際に発動してみた。レカンが使うと〈回復〉の発動が速くなったが、エダが使うと逆に遅くなった。〈浄化〉でも同じだった。

「驚いた。目の前で〈浄化〉をみたのははじめてだ」

「今までみせてもらった杖は、効果が出る魔法の種類がある程度決まっていたが、〈回復〉にも〈炎槍〉にも〈雷撃〉にも使えて、速度が速くなったり、威力や効果が上がったりするような杖はないのか」

「ないことはないが、ここにある杖だと、最上のものでもあんまりたいしたことがない。そういう汎用の杖は、属性魔石を使わず、制作者の技量で調整するんだ。直営店に行けばそういう杖もある。あとは恩寵杖だな。〈オルダスの杖〉のような」

「直営店というのは何だ」

「魔法研究所の直営店だ。丘の上にあるだろうが」

 その場所には気づいていた。ひどく厳重な魔法防御がほどこされた一角だ。魔法の障壁が何重にも張り巡らされている。そして化け物のような魔力持ちがうようよいる。レカンはそのなかに入ろうとは思わなかった。

 〈鑑定〉用の杖もみせてもらったが、使い物にならなかった。店主とトルーダは、レカンが〈鑑定〉まで使えると知って、唖然とした。レカンは、シーラからもらった細杖をみせて、これ以上の杖があるか、と聞いた。

 しばらくその杖を調べた店主は、感に堪えないといったようすでため息をついた。

「なんてすごい杖だ。渋い造りだな。派手な機能は何もないが、使い手を縛らない。わかるやつにはわかる最高の杖だ。直営店にも、これと同じタイプでこれ以上の杖となると、ないかもしれん。あるとしたら、上級研究員や導師たちが自分で使ってる杖ぐらいだろうな」

「なるほど。ところで今までみせてもらった杖は、あんたが作ったのか」

「ああ」

「恩寵品の杖は置いてないのか」

「恩寵品だと、〈コルディシエの杖〉がある」

 〈コルディシエの杖〉は、あらかじめ魔法を仕込んでおいて、発動呪文だけで発動させられる恩寵品だ。

「それはツボルトでみたことがある。この迷宮でも落ちるのか」

「ああ。三十階層台から九十階層台までのどこでも出る。ツボルトで〈コルディシエの杖〉が出たという話は聞いたことがないな。ここで出た杖だろう」

「そういえば、ツボルトの売店で売っていると聞いたが、ツボルトで落ちたとは言っていなかったな。いい杖だと何発ぐらい魔法を詰められるんだ」

「どういう意味だ?」

「以前みた〈コルディシエの杖〉は、五発の魔法をストックしておくことができた。いい杖なら、さぞたくさんの魔法をためておけるんだろうな」

「あんた、魔力はけたはずれに多いし、使える魔法も多いようだが、考え方が素人だな」

「なに」

「〈コルディシエの杖〉の最も有効な使い方は、何だ?」

「それは人それぞれだろう」

「では、ある程度以上の力量の魔法使いが使う場合、〈コルディシエの杖〉ならできて、ほかの魔道具ではできない使い方は何だ?」

「わからん」

「決戦武器としての使い方だ」

「決戦武器?」

「そうだ。とどめの一撃を放つために使うんだ。いいか。ちまちました魔法なら、べつに〈コルディシエの杖〉なんぞ使わなくっても、自力で放てばいい。何かの魔道具を使ってもいい。そうじゃなくて、放つには魔力の集中と念入りな準備詠唱が必要で、しかも魔力残量がたっぷりなくちゃ撃てない魔法こそ、〈コルディシエの杖〉にしまっておくべきなんだ。数多くの魔法を詰められる杖ほど、一発の威力は低くなる。だから、一発か二発、最大でも三発までしか入らない杖で、全体の容量が大きいものが、いい杖なんだ」

 言われてみればその通りである。レカンは感心した。そのほかにもいろいろと杖について知識を得ることができた。

 店を出たときには、すっかり日が落ちていた。トルーダは、お勧めの装具屋にレカンたちを連れてゆき、店主に紹介して、そのあと一緒に夕食をとることになった。

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