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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第44話 伴侶
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 結局、一日目は十二階層まで進んだ。レカンは大金貨二枚と金貨四枚をトルーダに支払った。

 途中でレカンはトルーダに聞いた。

「あんたたちは全員魔法使いだな」

「ああ、その通りだ」

「白に近い色の魔狼が出たら、どうするんだ? それとも、浅い階層なら魔法攻撃だけで踏破できるのか?」

「三十階層までなら魔法攻撃だけでも充分探索できるよ。といっても、白に近い魔狼を魔法で倒すのは魔力の無駄だ。だから物理攻撃をする」

「弓でもしまっているのか?」

「昔は弓を使うのが普通だった。ただ、体力のない魔法使いは弓の威力も大したことがなくてね。弓専門の探索者もいたが、雇えば高くつく。それで、〈水刃〉や〈鋼弾〉の魔法を覚える魔法使いが多かった」

「〈鋼弾〉という魔法は知らんな」

「鋼の玉を飛ばすだけの魔法だよ。あまり遠距離では使い物にならないが、条件さえ調えばかなりの威力が出る場合がある」

「なるほど」

「ところがあるとき、魔法研究所が〈魔矢筒〉を開発した」

「〈魔矢筒〉?」

「これさ」

 トルーダが〈自在箱〉から長さ半歩ほどの細い筒を取り出した。

「これに専用の矢を差し込んで、根本の部分に小魔石を入れる。そしてしかるべきタイミングで呪文を唱えれば、魔石が爆発して矢が飛び出す。今ではこの迷宮に入る魔法使いは、ほぼ全員、〈魔矢筒〉を持っているんだ」

「ほう、なるほど」

(そうか)

(ツボルト迷宮の主と魔法で戦う方法を思いつかなかったが)

(〈水刃〉や〈氷弾〉ならいけるかもしれんな)

「この〈魔矢筒〉を開発したのが若き日のジザ導師なんだ。そのほかにもいろんな功績がある。だからあのかたはパルシモの探索者すべてから尊敬を受けている」

「ほう。その〈魔矢筒〉は、オレでも買えるのか」

「私は〈魔矢筒〉の店をやっている。来店すればもちろん売るよ」

「小魔石であれば、どんなものでもいいのか」

「いや。そうはいかない。筒の種類によって使える矢も決まっているし、魔石の大きさや魔力も調整しておかなくては危険だ。だから店で買った魔石以外を使ってはいけない」

 ということは、〈魔矢筒〉というのは、ここパルシモにいなければ使い続けることはできない。レカンはこの武器への興味を失った。

「もっと大きな魔石を使い、大きな矢を飛ばす〈魔矢筒〉もある。使いこなせば強力な武器だ」


14


 二日目、〈クワントロ〉と〈ウィラード〉は、売店で弁当を買ってから迷宮に入った。

 十三階層の入り口に転移したとき、レカンは魔力回復薬を五個取り出した。

「これをあんたたちに一個ずつ渡しておく」

「これは、まさか魔力回復薬か」

「ああ」

「驚いたなあ」

「知っているんだな」

「そりゃ、パルシモの町には薬聖の直弟子がいて、その店には魔力回復薬が置いてあるからな。私も買って使ったことがある」

「ほう」

「こんな高価なものをもらうわけにはいかん」

「これはオレが作ったものだ」

「なんだって」

「オレにとって、今日と明日五個の魔力回復薬をあんたたちに提供することは、たいした負担じゃない。その一方で、今日と明日探索がはかどれば、オレにとって大きな利益だ。だからこれを受け取ってくれ」

 結局五人は魔力回復薬を受け取った。そしてトルーダだけが薬を飲んだ。

 十三階層の出口に全員が集まったとき、トルーダは興奮気味に報告した。

「これはすごい魔力回復薬だ。即効性と回復量では、パンタの薬の上をいくな」

 パンタというのはパルシモで店を開いている薬師で、薬聖の直弟子と名乗っている人物だ。

「あとからあとから魔力があふれてくるような感じだ。いや、これはすごい。皆も昼食のあとぐらいに飲んでみるといい」

 十八階層まで進んでから、その出口で昼食を取ることになった。

 やはりレカンはたき火をし、肉を焼き、エダはスープを作った。

「レカン。オレたちは弁当を買ってきたから、肉は焼かなくてよかったのに。それにしてもいい匂いだな。何の肉だ?」

「まあ、食ってみろ」

 肉を食べた〈クワントロ〉のメンバーは、その味の素晴らしいことに驚嘆した。

「レカン。まさかと思うが、この肉は」

「小火竜の肉だ」

「小火竜だと! 迷宮ものか?」

「ああ。ロトル迷宮だ」

「ロトル迷宮の小火竜? 主じゃないか!」

「そうだな」

「それと、昨日から気になっていたんだが、あんたとユリウスのその鎧は、もしかして」

「小火竜素材であつらえた」

「やっぱりか! いやあ、驚いた。迷宮八十階層の火竜の肉が食えるとは。これだけでも今回の報酬に充分だ」

「これで元気になってもらえれば、オレとしてもうれしい」

「いやあ、この依頼を受けて大正解だったな」

 昼食のあと、トルーダ以外の四人も魔力回復薬を飲んだ。

 そのあとの探索はきわめて順調に進み、二日目のうちに二十八階層まで進んだ。

 その日の夜は、トルーダが食事をおごると言い出して、町に出た。

 いろいろな話が聞け、興味深かった。

 トルーダは〈魔矢筒〉の店を営んでいるが、その店には物理弓も置いてあり、トルーダ自身は、物理弓も使うらしい。

 〈クワントロ〉のメンバーは、それぞれ町のなかに店を持つ店主や職人で、普段は仕事の素材を採取しに迷宮に行くのだという。

 この夜の会話で、レカンの疑問が一つ解けた。〈クワントロ〉の編成でよく新たな階層が踏破できるものだと思っていたが、踏破はしないのだ。踏破するときには、補助メンバーを入れる。

 トルーダは六十一階層まで行くことができる。ということは、そこまでのどの階層でも行けるわけである。普段は踏破を目的としていないから、五つの洞窟すべてに入る必要はない。五人のメンバーで、一つか二つの洞窟に入って出口までゆき、いったん地上階層に戻って、また同じ階層の洞窟に入る。これを繰り返して素材を採取するのだ。

 そういえば、迷宮の地上階層でみかけるほかのパーティーも、五、六人であることが普通だし、魔法使いばかりのことが多い。かと思えば、時々二十人以上のパーティーをみかける。あれはそういうわけだったのだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] <水刃><鋼弾>と同様に物質を飛ばす<氷弾>が話題に上がらないあたりそっちの習得は主流じゃなかったみたいですが やっぱり難易度の問題ですかね、<水刃>も<鋼弾>も既にある物質を飛ばすのが基本…
[良い点] https://ncode.syosetu.com/n3930eh/512/ ・筒の種類によって使える矢も決まっているし、 ・魔石の大きさや魔力も調整しておかなくては危険だ。 ・だから店で…
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