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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第44話 伴侶
510/702

12

 今回、パルシモへの道中では、ほとんど野営だった。

 〈始原の恩寵品〉についての実験をするためだ。万が一にもこの恩寵品を使っているところを人にみられるわけにはいかない。だから人のいない森のなかや、見晴らしのいい場所で実験した。

 エダに〈闇鬼の呪符〉を持たせ、レカンが離れてからエダに呪符を発動させると、ユリウスが硬直する。そこでレカンが近づく。呪符の恩寵は発動の瞬間に二十歩以内にいた者を動けなくするものだから、レカンの動作は阻害されない。そこで、〈不死王の指輪〉を発動させる。すると、呪符の恩寵も指輪の恩寵も消えてしまう。

 呪符の効果範囲に最初からいると、呪符の恩寵により呪文が唱えられなくなり、指輪を発動できない。

 エダに呪符を発動させ、効果時間が半分過ぎたところでレカンが指輪を発動させる、というような実験もした。その場合、呪符の効果時間が終わっても指輪の効果が復活することはなかった。

 エダに指輪を発動させ、指輪を抜き取る実験もした。指輪は抜けなかった。〈始原の恩寵品〉を発動させると、効果時間が終わるまで、装着者を変えることはできないようだ。

 おもしろいことに、エダが指輪を発動させても、レカンにはエダの体が白くくすんでみえない。つまり体の色が変わってみえるのは、自分で装着して発動したときだけなのだ。

 また、呪符を発動したとき、恩寵の効果が及んでいる相手の体は、少し青っぽくみえるが、自分が発動しているのでないときは、そうはならない。

 つまり〈始原の恩寵品〉の装着者は、恩寵が発動しているかどうかを知り、恩寵の及んでいる対象を判別することができるのだ。

 指輪を先に発動させて呪符を発動させた場合も、やはり両方の恩寵が消えた。

 〈始原の恩寵品〉の効果が打ち消し合うことを知って、最初は失望に近い気持ちを持ったが、よく考えてみると、これは非常に有利な状況であることに気づいた。

 ほかの〈始原の恩寵品〉を所持している敵と戦うようなことがあった場合、その効果を打ち消す奥の手を持っているのと同じなのだ。〈始原の恩寵品〉はたぶん、一対一かそれに近い近接戦では、絶対的優位に近いものを使用者に与えてくれる。これほど優れた恩寵品を持っている相手は、どんな敵にもいざとなれば負けることはないと思って当然だ。

 だが、それは間違いなのだ。その優位をひっくり返す手段をレカンは持っている。

 そうしてみると、指輪と呪符の価値が下がるどころか、レカンが最強への道を歩むについて必要不可欠な品といってよい。

 疑問なのは、三つ以上の恩寵品が一度に発動した場合どうなるのかわからないということだ。一つめを発動して二つ目を発動すれば、一つ目と二つ目の恩寵は無効化される。その状態で三つ目を発動した場合、どうなるのだろう。

 それは実験してみればわかることであり、実験しなければわからないことだ。そのうちにレカンは〈神腐樹の冠〉を手に入れる。そうすれば実験ができる。

 恩寵の相殺という現象は、もしかしたら指輪と呪符のあいだだけで起こる現象かもしれないから、その意味でも三つ目の品が手に入る意味は大きい。

 シーラの言い方からすると、〈始原の恩寵品〉を複数所持している者は、まずいない。だから、恩寵の相殺について知っている者はたぶん存在せず、まして実験できる者はいるわけがない。

(これが二つも手に入ったということは本当に幸運だったんだな)

 レカンは心のなかでゾルタンに感謝した。


12


「こ、これは!」

 パルシモ迷宮に到着したレカンたちは宿に一泊して、翌朝迷宮の受付に来た。

 レカンとユリウスは小火竜の鎧を、エダは女王蜘蛛の鎧を着けている。

 ジザがしたためた推薦状を係員にみせたところ、ひどく驚かれた。

「お、驚きました。あなたがレカン殿ですか?」

「ああ」

「そしてこちらがユリウス殿ですか?」

「ああ、そうだ」

「ジザ大老からの推薦状によれば、レカン殿は物理魔法両方の戦闘力において、百階層以上の力があるとのことです。こんな推薦状はみたことがありません」

「そうか?」

「この迷宮で八十階層以上に進めるのは、長年ここで戦ってきた人たちだけですから、推薦状など必要ありません。だから、こんな推薦状はあり得ないんです」

「なるほど」

「そしてユリウス殿についても、物理戦闘力において五十階層以上の力があるとのことです」

「そうか」

「それだけではありません。なんと、レカン殿とユリウス殿の人物保証までなさっています。道義に反するようなふるまいをする人物ではないことを保証し、何か問題が起きればジザ・モルフェスが責任を取るとまで書いてあります。こんなものははじめてみました」

 どうもジザはレカンたちをかなり高く買ってくれていたようだ。

「ところでオレとユリウスは前回三十階層まで進んだが、こちらのエダは今回が初挑戦だ。そこで、まず二、三日のうちに三十階層まで進みたい。パーティーを斡旋してもらえるだろうか」

「え? いや、二、三日で一階層から三十階層を探索するようなパーティーはありません」

「これは依頼だ。一階層の踏破につき、相手パーティー全体に対して金貨二枚を支払う。そして探索の途中で出たものは、そのパーティーのものにしていい。ただし素材剥ぎはなしだ。時間がもったいない」

「その条件だと、三十階層まで案内した場合、大金貨六枚の報酬を支払うことになりますよ」

「ああ」

「それなら依頼を受けるパーティーがみつかるでしょう。レカン殿は魔法と物理、ユリウス殿は物理専門なのですね?」

「そうだ。そしてエダは魔法矢で戦う。エダは〈回復〉も使える」

「ほう! まだ時間が早いですから、うまくすれば今日のうちにもパーティーが斡旋できるかもしれません。休憩所のほうでしばらく待っていてくれませんか」

「わかった」


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