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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第44話 伴侶
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 考えてみれば、この前ユリウスとエダと一緒に戦ったのは三月のことであり、それからしばらく時が過ぎている。

 そしてユリウスもエダも成長期のただなかにある。

 装備も変わった。

(一度連携を確かめておく必要があるな)

 そう考えたとき、ロトルの町が目前だった。

 ロトルの町に入ったレカンは、ロトル迷宮が復活しているのを知った。この迷宮の休眠期間は四十日もあったということだ。商人も職人も役人も、この迷宮が踏破されるという事態は予測しておらず、その備えもなかった。そこで一時期はひどい混乱が起きた。今はようやく落ち着いてきたところだ。今後また踏破者が現れないとも限らないということで、そのときに備えた準備も始まりかけているということだった。

 何食わぬ顔をして迷宮に入ったレカンは、いきなり八十階層に飛んだ。

(パルシモ迷宮で集団戦があるのは八十階層からだという)

(ならばここの八十階層は肩慣らしにちょうどいいはずだ)

 レカンのこの考えは、少しおかしい。そもそも異なる迷宮で、階層が同じだからといって手強さが同じだということにはならない。そしてそもそも迷宮の主というのは、格別に強い魔獣である。

 だが逆にいえば、この三人でロトル迷宮最下層の敵を倒せるなら、パルシモ迷宮八十階層の敵とは充分に戦えるはずだ。

「ところで、ユリウス」

「はい、師匠」

「お前、里に帰っているあいだに、新しいわざは教えてもらったのか」

「実は、最初はそのはずだったんです」

「ほう」

「でも、ぼくの剣をみた父上が、今は新しいわざを覚えないほうがいいようだ、と」

「ふん? それはなぜだ」

「理由をお聞きしようとおもったんですが、父上は用事ができたとかで里を離れてしまって」

「なに? アリオスは今、里長のような立場にあって、里を出られないんじゃなかったか?」

「すいません。里の決まりについては話せないんです」

「そうか。まあいい。さて、エダ、ユリウス」

「うん」

「はい」

「これから迷宮の主と戦う。もう前にみたからわかっている通り、小火竜だ。オレは前衛に立って盾で魔獣の攻撃をいなし、剣で魔獣の動作を邪魔する。しかし魔獣を倒すのはオレじゃない。お前たちだ」

「うん」

「は、はいっ」

「敵の攻撃は、かみつき、前脚の爪、尻尾によるなぎ払い、そして火弾だ。火弾をはくときには、動きを止めて喉をふくらませる。そのとき喉を攻撃すれば火弾をはくのを防ぐことができるはずだ。あ、それと吠え声には相手を硬直させ、おびえさせる効果があるらしい」

 エダとユリウスがうなずいている。もちろんこの情報は前回の攻略時につかんでいるから、二人とも知っている。それでも念のため確認するのが常道なのだ。

 レカンとユリウスは小火竜の鎧を、エダは女王蜘蛛の鎧を身に着けた。

 レカンは剣を抜いた。今日は〈ラスクの剣〉で戦う。

「〈展開〉」

 〈ウォルカンの盾〉が左手に現れる。もはやすっかりなじみとなった心強い感触だ。

 レカンは部屋に突入した。ユリウスとエダがあとに続く。

 八十階層は、ほとんど起伏のない岩場だ。目の前に小火竜がいる。

 ただしそれは錯覚であり、実際には五十歩以上距離がある。小火竜の体が巨大であるため、近くにいるように感じてしまうのだ。

 疾走するレカンの頭の上を、魔法の矢が通り過ぎる。エダが〈イェルビッツの弓〉から放った矢だ。

 五本の光の矢が小火竜の顔に着弾して爆発した。悲鳴があがる。腹の据わっていない冒険者なら腰を抜かしてしまうようなすさまじい声だ。

 たちまちレカンは小火竜の足元にたどりつき、盾で竜の右足をはじく。突進力を生かした盾攻撃に、竜がわずかに体勢を崩す。

 レカンは続いて、剣で竜の右足を薙ぐ。

 小火竜が右前脚を振りおろしてくるが、レカンは落ち着き払って盾でその攻撃をそらし、左外側に移動する。

 ユリウスが竜の左前脚に両手で持った〈疾風剣〉で斬り付ける。剣は硬い竜の鱗を削って脚に傷をつける。だが浅い。

 竜が左前脚でユリウスを攻撃しようとする動作をみせたので、レカンは竜の右脚に剣をたたきつけた。

 エダが放つ魔法矢が立て続けに三度竜の顔を襲う。たぶん竜は視覚を失った。

 三人の連携はうまくいっている。誰かが攻撃して敵の注意を引きつけたら、仲間が攻撃して敵の注意を引きつけるのが、パーティー戦の基本だ。相手が混乱し、狙いがしぼれないようにし、有効な攻撃をさせないようにするのだ。

 しばらく戦うと、竜の両足も顔も胸も傷だらけになった。流している血も少なくない。だが竜の生命力は膨大だ。どれほども弱っているとはいえない。

 業を煮やした竜が、委細構わず体をぐうんと振った。尾によるなぎ払いだ。

 レカンは軽く後ろに跳んで、攻撃範囲からのがれた。ユリウスも跳び下がって尾をかわしたが、余裕のある回避とはいえない。

 今やユリウスの筋力は、最初に会ったころのアリオスに匹敵するか、ひょっとしたらそれ以上になっているだろう。だが、強さからいえば、あのころのアリオスのほうが数段上だ。

 こうして成長したユリウスをみると、いろいろな能力や技術の一つ一つがアリオスに劣っているのに気づいてしまう。若いのだから当然なのだが、その一方で、ユリウスは、何かやってくれそうな気もする。だから歯がゆく感じるのである。

(このままではらちが明かんな)

「魔獣から距離を取れ! 火弾攻撃をさせて魔力を消耗させる!」

 指示しつつ、レカンは魔獣の左側に距離を取る。

 ユリウスは右側に距離を取った。


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