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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第43話 多穴迷宮
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 レカンは精力的にニチア草を採取した。そして時々ゴンクール邸にノーマを訪ねつつ、その処理を済ませ、二の月の二十四日にラカシュに帰着した。

 ラカシュ迷宮の休眠期間は十日だった。レカンが去ったあと、エダとユリウスは二人で迷宮に挑戦し、レカンが帰ってきたときには三十四階層まで進んでいた。

 二十五日には三人で主に挑んだ。ただしレカンは後方で支援した。エダとユリウスの動きは見事で連携は鮮やかだった。危なげのない戦いで迷宮の主を倒し、再び迷宮を眠らせたのだった。

 三人はロトル迷宮に向かった。

 ロトル迷宮は王都とパルシモの中間あたりにあり、八十階層の深さを誇る中規模迷宮だ。出現する魔獣は一定階層ごとに種族が異なる。構造としてはゴルブル迷宮と同じだ。群れを作る魔獣はほとんどおらず、一体一体が強力だ。

 一対三の戦いだ。充分に時間をかけて連携を練ってきているし、ユリウスには悪いくせがついていないので、形が整うのははやかった。アリオスほど臨機応変にはいかないし、いざというときの決定力にかけるが、年齢を考えれば、その戦闘力は驚異的といってよい。そして戦えば戦うほど強さを身につけている。

 エダの成長ぶりは目をみはるようだった。豊富な魔力量を生かして、次々と〈イェルビッツの弓〉から発する五本の魔力の矢は、強大な敵も撃破した。

 レカンはこの迷宮で〈猿鬼斬り〉〈狼鬼斬り〉〈魔空斬り〉など、ツボルトで手に入れた恩寵剣を次々に試してみた。特定の魔獣の種類に対応した恩寵剣は、その相手に対しては驚くべき攻撃力を示した。そのうえ、相手の回避を阻害し、こちらの命中率が上がるような効果がついている。

 また、〈魔空斬り〉は、相手の硬さを無視して体の一部を削り取るという性能を持っており、防御の高い敵に特に有効だ。一度に深い傷はつけにくいなど独特のくせがあるが、使いこなせば有用な剣だ。

 こうした恩寵剣を階層ごとにユリウスに与えれば、ユリウスは驚異的な攻撃力を発揮するだろう。だがレカンはそれをしなかった。恩寵剣に頼った戦い方を覚えてしまうと、ユリウスの成長にゆがみが出るかもしれない。そこを心配したのである。

 ところが五十階層台に入ると、ユリウスが急に苦戦し始めた。五十階層台の敵は樹怪族である。さすがに樹木相手では戦いにくいようだ。この階層の敵は、〈炎槍〉か〈枯死剣〉か〈樹怪斬り〉を使えば簡単に倒せるのだが、レカンはこの三つの攻撃方法を封印した。

「ユリウス! 後ろ」

 エダが警告を発して魔弓から矢を放つ。小腕樹(バルバルアン)の胴体に攻撃をしかけていたユリウスは、後ろの地面から根が攻撃してきたのに気づいたものの、うまく切り払えず巻き付かれてしまう。

 すかさずエダが〈イェルビッツの弓〉を胴体に連射すると、魔獣は死んで根の攻撃も止まった。

 鋭い根の先が鎧の隙間から突き刺さっている。ユリウスが〈コルシャコの指輪〉を装備していなければ毒に冒されていたところだ。

「ユリウス。ちょっとこっちにこい」

「はい」

「お前、魔獣の攻撃の気配を感じ取ろうとしてるだろう」

「はい」

「それにさっきも、根が攻撃してくる角度をみさだめようとしただろう」

「はい」

「何度もいうようだが、魔獣は人間とはちがう。人間はひじの曲がる角度でしか剣をふるえないが、根の攻撃にはそういうものはないんだ。ああいうものは、目でみてかわすものだ。お前の父親は背中にも目があるかのような戦い方ができるが、あれはすぐにまねできるものじゃない。今は目を鍛えるんだ」

「はい」

「そういうやり方を続けているうちに、その魔獣の攻撃パターンもみえてくる。とにかく対人戦とはちがう。分析しながら戦ってたら、死ぬぞ」

「はい」

 しょんぼりしている。だが、しかたがない。

 その後何戦かやらせてみたが、ユリウスはまごまごしている。

 業を煮やしたレカンは、ユリウスに〈樹怪斬り〉を与えた。

 持たせてみると、ユリウスの動きが格段によくなった。ふれれば斬れる剣があると、これほど戦い方が安定するとは、やらせてみたレカンにも驚きだった。

 そうしているうちにユリウスは、小腕樹との戦い方をすっかり飲み込んだ。その時点で〈樹怪斬り〉を取り上げ、もとの〈疾風剣〉を持たせてみたが、むしろ〈樹怪斬り〉を使っていたときよりうまく戦っていた。

(なるほどなあ)

(壁を越えさせるために恩寵剣を使わせるという選択肢はあるんだな)

 六十階層台の魔獣は狼鬼族だったので、パルシモの練習になると思い、じっくり戦わせた。それにしても、この程度の階層なら、レカン一人でもさっさと進めそうだ。つまりそれだけレカンの戦闘力が上がっているのである。

 毎日のように〈闇鬼の呪符〉も〈不死王の指輪〉も使っている。せっかくの強大な恩寵品も、そのくせをきちんと飲み込んでおかなくては威力を発揮できない。そしてまた、この二つの恩寵品を使って強い敵を殲滅するのは、実に爽快だ。

 ある日、奇妙なことが起きた。〈闇鬼の呪符〉を発動させた状態で〈不死王の指輪〉を発動させてみたところ、両方の効果が消えてしまったのだ。翌日も試した。翌々日は順番を変えて試してみた。やはり二つ目の恩寵を発動した時点で両方の恩寵が消える。この二つは同時に発動させてはいけないようだ。

(これは〈闇鬼の呪符〉と〈不死王の指輪〉だけに起こることなんだろうか)

(それとも〈始原の恩寵品〉全部に起こることなんだろうか)

(ヴォーカに帰ったらシーラに聞いてみないといかんな)

(とにかく〈始原の恩寵品〉といえども突然効果を失うこともある、と思っておかないといかん)


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― 新着の感想 ―
[一言] つまりは始原の恩寵品を2つ持った人物でなければ、レカンには一対一では到底抗しようもないということになる。そしてレカンの地力は今尚育ち研がれている。うーんシンプルに脅威
[良い点] 師匠レカンの成長の記録 人に物を教えることは自分も学ぶ事になるとはよく言いますけど、レカンがユリウスの成長を見て気付きを得るのは見ていて嬉しくなりますね
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