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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第43話 多穴迷宮
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「ふんっ」

 エダが〈イェルビッツの弓〉から放った五本の魔法矢が、疾走する三匹の牙兎の進路に着弾し、牙兎たちはエダの狙い通り右に曲がってユリウスに向かう。

 ユリウスは左下から右上に斬り上げるような剣筋でまん中の敵の喉の下を斬り裂いた。

 左側の敵が右前足をたたき付けてくる。

 ユリウスはこれを見事にかわす。

 右側の敵と接触してしまうが、あわてることなく体勢を立て直す。

 そしてまん中の敵にとどめとなる斬撃を浴びせる。

 右側の敵がたたき付けてきた前脚をさらりとかわし、その付け根を剣でなでる。

 するりと回り込んで左側の敵の首を薙ぎ払う。

 返す刀で右側の敵の首を深々と切り裂く。

 こうしてユリウスは自分より大きな牙兎三体を、危なげなく倒したのだった。

「よし。見事だ」

「ありがとうございます。エダ姉さんもありがとうございました」

「えへへ」

 複雑なことができないときは、その複雑なことを分解して単純なことに落とし込んでやればいい。単純なことを繰り返して処理するなかで、それをつなぎ合わせて複雑なことを処理できるようになる。

 幸いユリウスはごく素直な性格をしていたので、レカンの指示に完全に従った。それがよい結果につながっている。

「よし。次から少しずつ敵を増やす。だがやることは同じだ」

「はいっ、師匠!」

 牙兎の呪いはユリウスには通じない。毒や状態異常はエダが癒す。癒すまでは毒や状態異常に冒された状態で戦うことになるが、それもまた修業だ。

 二日目は二十階層まで進んだ。

 三日目に二十一階層に入ったとき、非常に大きな群れが近くにいた。

(〈闇鬼の呪符〉を試してみるか)

「エダ。ユリウス。そこから動くな」

「はいっ」

「うん」

 レカンは魔獣の群れに接近して呪文を唱えた。

「〈ガスパーリオ・ラーフ〉」

 十一匹の牙兎が硬直した。

 エダも硬直した。

 ユリウスも硬直した。

「なに?」

 レカンは、エダとユリウスが硬直しないよう、二十歩は離れてから呪符を発動させた。ところがエダもユリウスも硬直してしまった。

(この呪符の基準でいう一歩は今の一歩より大きいのか)

「硬直させてすまん。すぐに解けるから安心しろ。ユリウス。お前の硬直が解けると同時に魔獣たちの硬直も解けるはずだ。戦え。エダは左翼の敵を三、四匹倒して、あとはユリウスを援護しろ。オレは右翼の敵を三、四匹倒す」

 硬直から解けたエダは〈イェルビッツの弓〉の一射目で二匹の牙兎を倒し、二射目で一匹の牙兎を倒した。レカンは〈火矢〉を三本まとめて放ち一匹を殺し、次に三本、その次に三本と、三本ずつ固め打ちをして四匹の牙兎を倒した。

 残り四匹はユリウスに任せた。ユリウスはレカンに言われた通り、一匹に攻撃を集中し、そのほかの二匹の動きに注意を払った。

 狙った一匹が飛びかかってきたとき、うまくかわして一撃を入れた。そのほかの二匹の攻撃も身をひねってかわした。

 すると四匹目が回り込んで飛びかかってきた。ユリウスは敵の前足の付け根を斬って動きを止め、その横にいた一匹の首を斬り落とした。

(よし)

(うまく対象を入れ替えたな)

 そこまでくればあとは楽勝だった。ユリウスは残る三匹の首を順番に斬り落としたのである。

「師匠! できました」

「うん。よくやった。どうだ。手近な三匹を相手にするというのは、やってみるとむずかしくないだろう」

「はいっ。すごく動きやすいです!」

「お前ぐらいの速度があれば、次々と対象を入れ替えて戦えるはずだ。ただしたくさんの敵と戦うときには、どうしても多少のダメージは受けてしまうが、それを恐れるな」

「はいっ」

「レカン。さっきあたいたちが動けなくなったのは、いったい何?」

「ああ。すまなかった。周りの者の動きを止める恩寵品なんだ」

「へえ。そんなのがあるんだ」

「この前のツボルトでの決闘で相手がくれた恩寵品だ」

「そうなんだ」

「魔獣の動きも止められることがわかった。味方も止めたのは計算外だったが、考えてみたら呪符には敵も味方も区別はつかんな」

 と口にしながら、何か心にひっかかるものがあった。

 だがいったい何が心にひっかかったのか、よくわからなかった。

 三日目は二十六階層まで進んだ。

 四日目は三十一階層まで進んだ。

 五日目は三十五階層まで進んだ。

 ここらあたりになると、牙兎は必ず十匹以上で群れを作っており、その体高はレカンに匹敵するほどだ。

「〈ガスパーリオ・ラーフ〉」

 端にいた一匹に〈停滞〉の効果が及んでいない。

(あそこが境界線か)

 そもそもこの世界の〈一歩〉は、普通の人間の一歩よりかなり大きい。この呪符の基準となっている一歩は、さらに四割ほど長いようだ。発動呪文は古代語のようだが、古代人の体は今の人間よりだいぶ大きかったのだろうか。

 レカンとエダとユリウスは、硬直した十一匹と硬直しなかった一匹を、硬直が解ける前に殲滅した。

「よし。明日から三日間休みだ」

「やったっ。おいしいもの食べに行こうね」

「エダ」

「うん? 何?」

「お前、少し言葉遣いが変わったか?」

「え? な、何のことかな」

 以前なら〈おいしー〉と発音していたはずだ。それが、きちんと〈おいしい〉と発音している。発音のしかたがどことなく上品というか、柔らかい。

「ふうん。まあ、いいが」


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[気になる点] インテュアドロの首飾りは敵味方判別できるんですかね
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