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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第43話 多穴迷宮
492/702

9

 レカンが〈不死王の指輪〉を鑑定したとき、細杖を構え、準備詠唱を唱えた描写を追加しました。

9


「すいません。俺たちも大きいのを探してたんです。ここで待たせてもらっていいですか」

「ああ、かまわん」

「ありがとうございます。俺たちの近くに出たら、俺たちが倒しますね」

「好きにしたらいい」

 大型個体を二度続けて倒すと下の階層に下りるための〈印〉ができる。倒したとき近くにいた者にも〈印〉ができる。大型個体の数は限られているのだから、他のパーティーが倒すとき便乗するのは責められない。ツボルト迷宮は部屋型だったから、前のパーティーが大型個体を倒すのを部屋の外で待たなくてはならなかった。ここは広域型なのだから、そんなことはしなくていい。

「この迷宮じゃあ、大型個体の出現する場所は決まってないんですね」

「ああ。そのようだな」

「ずいぶん探すのに手間取ってしまいました」

「そうか」

 若者たちのパーティーは、二人が剣士、一人が槍使い、あとの二人は魔法使いだ。魔法使いのうち一人が、どうも〈回復〉持ちであるような気がする。どうしてそう思ったのかは自分でも説明できない。

「君、何歳?」

 五人のなかで比較的年が上にみえる槍使いがユリウスに聞いた。

「十四歳です」

「あ、チリスと一緒か」

 〈回復〉持ちではないかとレカンが思っている少女が驚いたように振り向いた。この少女がチリスなのだろう。

「あたしと同じ? あたし、チリス」

「ぼくはユリウスです」

 これがきっかけで、若者たち五人とエダとユリウスはしばらく会話をかわした。

 剣士は十六歳と十七歳。槍使いは十九歳。魔法使いは二十一歳と十四歳だという。

 五人は指導者に引率されて王都の近くの迷宮で二十階層まで潜ったという。そこで稼いだ金で抵抗装備を調え、この迷宮に挑戦しに来たのだ。

 朝早くから潜っているのになかなか大型個体に行き当たらなかったという。君たちは運がいいね、と言っていた。

「ユリウス」

 黙って立っていたレカンが小さな、しかしはっきりした声でユリウスの名を呼んだ。

 槍使いと話をしていたユリウスは突然振り向いて剣を抜き、レカンの横を走り過ぎ、木の後ろに出現した魔獣の首を斬り飛ばした。

 和やかに対話していた少年たちは、しんと静まりかえった。

「ど、どうしてわかったんだ?」

「うん? 何がだ」

「あんたはこっちを向いていた。その後ろに魔獣が現れた。しかも大木の陰になる位置にだ。それなのにあんたは気がついた。魔獣が完全に出現する前に。どうしてわかったんだ?」

「出現する前にわかったわけじゃない。出現しかけた気配を感じただけだ」

「気配?」

「それがわからないようなら迷宮で長生きはできん。ユリウス、エダ、行くぞ」

「はいっ。師匠」

「うん」

 三人は大木の近くに寄り、〈階層〉〈転移〉の呪文を唱えて二階層に移動した。この迷宮には階段というものがなく、大木の近くなら階層の転移ができるのだ。

 二階層でも大型個体だけを探して倒した。

 三階層では感知できた大型個体が戦闘中だったが、近くで観戦させてもらった。レカンたちのほかにも観戦していたパーティーがいた。戦いが終わると戦っていたパーティーにあいさつをして二戦目も観戦させてもらった。

 この日はのんびりと十四階層まで進んだ。

 コズイン迷宮は各層とも非常に広く、非常にたくさんの冒険者が探索している。探索のしかたはこなれていて、大型個体の戦闘が行われていると、適当な距離を置いて観戦し〈印〉をつけてもらい、そうでない戦闘ならすぐに遠ざかる。そういうやり方がすっかり定着しているのだ。

 殺伐として油断のならない迷宮探索に慣れているレカンからすると、戦っている最中に背後でみまもる冒険者など追い払ってしまいたいのだが、そうもいかない。

 やはり毎日迷宮を出るような戦い方をする冒険者が多いようで、レカンたちが野営の支度をするころには、十四階層は閑散としていた。

 三人寄り添うようにたき火を囲み、食事をして寝た。もちろん四隅には魔獣除けのポプリを置いてある。

 十五階層となると、牙兎はエダより大きい。しかも四匹、五匹と群れている。

 実のところ〈イェルビッツの弓〉を使うエダには、五匹の牙兎ぐらいなど敵ではない。だが今はエダには追い子をさせている。牙兎を追い立ててユリウスに戦わせるのだ。

 そのユリウスは、一対多の戦いにうまく対応できていない。もともとそういう修業はしていなかったようだ。

 ただ、パルシモでみせたぶざまな戦い方から比べれば、人間型ではない魔獣との戦いにだいぶなじんできたようだ。一対一ならそうとう手ごわい魔獣とも戦えそうに思える。

 思い出してみるとアリオスは乱戦にも強かった。視野が非常に広かったし、複数の相手がどう動くかを予測する能力も高かった。だがあれは、長い修業のすえにつかみ取った力なのだ。今のユリウスにそれを求めてはいけない。

「ユリウス」

「はいっ」

「たくさん敵がいても、身の回りにいて攻撃が届く範囲の敵は多くない」

「はい」

「これと決めた一匹の敵と戦うようにしろ」

「え? でも、相手は入れ替わり立ち替わり襲ってきます」

「それでもだ。いいか。五匹の敵がお前に襲いかかる。お前の力を十とする。五匹それぞれに同じ力を向ければ、それぞれの敵に二の力しかそそげない。しかも五匹の敵は後ろにいる五匹と入れ替わりながら襲ってくる。そうなるとお前は、一匹の敵に一の力しかそそげない。そういう戦い方ではだめなんだ」

「はい」

「たとえ十匹の敵と戦っていても、攻撃の瞬間には十の力を一匹の敵にそそがなくてはだめだ。そうすれば一匹ずつ倒すことができる」

「そう、ですね」

「これと決めた一匹の敵に注意をそそげ。ただしそのほかの二匹の敵の動きを視野に入れるんだ。そうだな。十の力のうち八を一匹の敵にそそぎ、そのわきにいる二匹に一ずつの力をそそぐんだ。そして状況の推移によって、八の力をそそぐ敵も、一の力をそそぐ敵も、どんどん切り替えていくんだ」

「はい。やってみます」


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