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翌朝出発するとき、トールから推薦状を渡された。パルシモ魔法研究所の導師ジザ・モルフェス大老自筆の推薦書で、この次パルシモ迷宮を探索するとき受付に提示すれば、仲間をみつけやすくなるという。
レカンは推薦状を受け取り、礼を述べて、ユリウスを連れてパルシモを出た。
マシャジャインに帰着したのは九の月の十四日である。
エダは王都にいる。ノーマとジンガーはヴォーカに帰っている。
その日はマンフリーが多忙だったため、レカンは一日待った。
十五日の晩餐を一緒にとり、パルシモでのことを報告した。
「あんたの手配のおかげで、有意義な小手調べができた。礼を言う」
「そう言ってもらえると私もうれしい。パルシモにはまた行くのだろうな」
「ああ。ただし、しばらくは薬草を採取しながらユリウスに動物型の魔獣との戦い方を教える。こことパルシモのあいだには面白そうな迷宮がいくつかあるから、のぞいてみるかもしれん」
「よければ紹介状を書こう。便宜をはかってくれるはずだ」
「いや。それはいい」
「そうか」
「エダに連絡はつくか」
「もちろんだ」
「なら、オレとユリウスはヴォーカに帰ったと伝えてくれ。あちらでの用事が終わったら、またマシャジャインに戻ってくる」
「わかった。伝えよう。それは年内のことになるかね?」
「たぶん、そうなる」
「師匠」
「うん? どうした」
「来年の春ごろ、一度家に帰りたいのです」
「ほう。いつでも帰っていいが、また来るのか?」
「はい。必ず帰ってきます。でもそのあとのことは父上に聞かないとわかりません」
十六日にマシャジャインを出たレカンとユリウスは二十五日にヴォーカに着いた。
ノーマに報告をすませて家に帰った。ノーマからはゴンクール邸に住むよう勧められたが、レカンには少し気詰まりだったので、自宅に帰った。チェイニー商店のほうで気を利かせてくれたようで、掃除がしてあった。
翌日は一日ゆっくりして、その翌日は買い物をした。
そして九の月の二十八日、レカンはユリウスを連れて薬草採取に出た。
山ほどターゴ草を採取した。
その合間に、猿型魔獣や狼型魔獣などを探してはユリウスと戦わせた。
ユリウスは、戦いの技術も発想も対人戦に特化された教えを受けており、最初のうちはごく弱い魔獣との戦いでもとまどいがみえた。
レカンは戦い方の見本をみせ、そして魔獣の群れを引っ張ってきてはユリウスと戦わせた。
ユリウスはレカンの指導に耐えた。基礎体力が上がっていることも大きかっただろう。もちろんレカンの〈回復〉がなければ、こんな無茶な訓練はできなかった。
あるとき、三十匹近い蜘蛛猿と一人で戦わせた。
ユリウスはぼろぼろになりながらも、その戦いで何かをつかんだ。
そこからは目をみはるような上達ぶりをみせた。
ヴォーカに帰ったときには十の月の十日になっていた。
「ユリウス」
「はい」
「オレはこれから薬草の処理がある。お前、一足先にマシャジャインに行け」
「はい、師匠」
「マンフリーに手紙を書く。ワズロフ家の騎士に鍛えてもらえ」
「は、はいっ」
「オレは薬草の処理を終えたらマシャジャインに行く。今月のうちには着くはずだ」
「わかりました」
「エダもワズロフ家に帰ってくるだろう。三人そろったらコズイン迷宮に挑戦する」
「はい、師匠」
ユリウスを送り出したレカンは、ターゴ草の処理にかかった。
シーラの家の地下室はまったく荒れていなかった。レカンが久々に地下室に行くと、そこにはジェリコがいて、掃除をしていた。
「お前、どうやってここに下りた」
「うほほ」
ジェリコは地上に続く穴の壁面を指さした。そこには小さな石の出っ張りがあるが、とても足場にはなりそうにない。ところがジェリコはその小さな出っ張りを器用につかんでするすると上ってみせたのである。
レカンは数日間シーラの家にこもってターゴ草の処理をした。ジェリコもずっといた。たぶんエダがこの町を離れてからはゴンクール邸を出て、ここで暮らしているのだろう。自由な猿である。しかもレカンのために酒を買ってきてくれた。気配りのできる猿である。
下処理が済んだら吊り下げて乾燥させなくてはならない。シーラの家いっぱいに吊ってもまだ場所が足りなかったので、レカンの自宅も薬草だらけになった。
それからは煮詰め、魔法純水と混ぜたあと乾燥させて固形の塊を作ってゆく。
採取した量が非常に多かったので、処理にも時間がかかった。だがこれで、数年間はもつだけの魔力回復薬が作れるはずだ。
ノーマから、たまには顔をみせにきてほしいと連絡があったので、何度かはゴンクール邸に足を運んで晩餐をともにした。ノーマは父親の遺作の編纂に忙殺されているようだ。フィンディンがなかなか役に立っているという。
池のほとりの工事はすでに始まっていた。間取りについて意見を求められたので、別邸から少し離れた場所に、薬草を干せる小屋を作ってくれるよう頼んだ。
「雨風がしのげればいいんだ」
「かまどや調薬棚はいらないのかい?」
かまどや調薬棚も作ってもらうことにした。レカンが調薬に使う鍋の大きさを知って、ノーマは目を丸くして驚いていた。将来的にはノーマもそこで薬を作ることになる。施療所の薬草や薬木は当面そのままにしておくが、調薬機材はゴンクール邸に移すようだ。
「ああ、それからレカン。〈ガスパーリオ・ラーフ〉という言葉だけれどね」
「お、何かわかったか」
「ワズロフ家には古代語に関する資料があってね。調べさせてもらった。はっきりとはわからないが、〈ガスパーリオ・ラーフ〉というのは、〈うつろいゆくものよ。そのうつろいのことわりからしばしはずれよ〉というような意味ではないかと思う」
「その説明の言葉の意味がわからん」
「うーん。簡単にいうと、こんな感じかな。〈生きたる者の時よ止まれ〉」
「ああ、なるほどな」
「どこでこの言葉をみたのか、あるいは聞いたのか、教えてもらえるかな」
隠すことでもないので、レカンは〈闇鬼の呪符〉のことをノーマに教えた。
「そうか。つまりあの決闘であなたにも得るものがあったのだね」
「おおいにあった。あんな決闘ならまたやってもいい」
ノーマは複雑な表情をした。
シーラに聞きたいことがあったので何度かシーラの隠れ家に足を運んだが、いつも留守だった。
作業を終えたレカンは〈加速〉を駆使してマシャジャインに向かったが、到着したのはその年の最後の日となった。




