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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第42話 求婚決闘
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 十八日にワズロフ家の使いが来て、レカンとエダとユリウスは領主の館に移った。

「やあ、ノーマ。決闘は二十日になったらしいな」

「あ、知っていたんだね。明日、イェテリア・ワーズボーン殿が到着なさる」

「誰だ、それは」

「宰相府内務書記次官殿だよ。薬聖様がヴォーカに来訪されたとき、それに先だっておいでになったかただ。私はお会いしていないけれど、君はお会いしたはずだ」

「ああ。思い出した。どうしてそんなやつが来るんだ?」

「宰相殿が派遣された。決闘の立ち会いのためだ」

「なに? あいつが勝負の判定をするのか?」

「そうじゃない。決闘の見届け人はツボルト侯爵様ご自身であり、決闘の判定役は領主補佐のハイデント・ノーツ様がなさる。ワーズボーン卿は決闘の結果を宰相殿に報告するだけだ。まさかツボルト侯爵の差配に口出しはできないよ」

 すでにラインザッツ家も、インドール家も、フォートス家も到着しているとのことだが、事前に面会することは控えるということで、わずらわされることはなかった。

 ノーツ家の人々もやって来なかった。イェテリアもやって来なかった。

 密偵とおぼしき者たちが何人もうろついていたが、手出しはしてこなかった。

 そしてついに決闘の日が来た。


 大きな練武場であり、観客席も広いが、今みまもる人々の数は多くない。

 ギド侯爵家とスマーク侯爵家が合わせて二十人ほどと、ラインザッツ家とワズロフ家が十人少々、宰相府から派遣された役人が三人とその護衛騎士二人、そしてノーツ家からは見届け人である領主と判定役である領主補佐のほかには三人だけだ。

 今はヘレスも観客席にいる。彼女の決闘は、レカンの決闘のあとだ。

「ただ今より、スマーク侯爵家継嗣ペンタロス・フォートス卿の代理人たる騎士ヴィスカー・コーエン卿と、ゴンクール家後継者ノーマ・ゴンクール姫の婚約者にして代理人たる冒険者レカンとの決闘を行う。コーエン卿が勝利したときは冒険者レカンは婚約者の地位を失い、ペンタロス・フォートス卿とノーマ姫の婚約が成立する。冒険者レカンが勝利したときはペンタロス・フォートス卿との婚約は成立せず、かつ二度と求婚は行われない」

 ペンタロスとノーマが神殿長の前で誓いを立てた。

「勝敗は、両者いずれかが死ぬか戦闘不能になったとき、あるいは明らかに勝負がついたと私が判定したとき決まる。わが判定は公正なり」

 ヴィスカー・コーエンが手を上げた。

「コーエン卿。何か異存がおありか」

「いいや。あんたの判定には従うさ。そうじゃなくて、おい、レカン」

「何だ」

「せっかく命を賭けて戦うんだ。報酬がいるだろう」

「今回はノーマの頼みで戦う。報酬めあてではない」

「そう言うなよ。俺も若大将のためには命もいらないけどよ。やっぱりよう、こういう勝負ってやつはさあ、何かいるだろ? 勝てばそれが手に入るってお宝がさ。それでこそ掛け値なしに、あとに引けない戦いになるってもんだ」

「言いたいことがあるなら、はっきり言え」

「勝ったほうが負けたほうがそのとき身に着けてるものから、何でも一つだけ奪えるってのはどうだい」

「ほう。面白いな」

「へっへっへっ。やっぱりな。あんた、俺と同じ種類の人間だ。海のなかで獲物を探す人食い牙魚だ。ハイデントさんよ。そいつを条件に加えてくれ」

「レカン殿も異存ないか」

「ない」

「では、この勝負の勝者は、敗者が身に着けたもののなかから一つだけ品の譲渡を受ける。その品は勝者が指名して、敗者は拒否することを許されない。誓え」

「へへ。イェール」

「イェール」

「魔法結界に魔石を投じよ!」

 練武場の四隅にある柱に魔石が投げ込まれ、練武場は魔法攻撃を通さない障壁に包まれた。

「始め!」

 レカンは〈ラスクの剣〉を振り上げて突進した。

 〈ザナの守護石〉には魔力を満たしてある。最大火力の物理攻撃で、一気に勝負を決めるつもりだった。対魔法障壁を生成する魔道具や恩寵品はいろいろあるが、対物理障壁を張れる魔道具や恩寵品はあまりみたことがない。魔法でなら対物理障壁が張れるが、それにはある程度時間がいる。だからこの攻撃なら確実に勝てるはずだ。

 万一初撃を防がれても二撃目、三撃目を放てばよく、それでもだめなら〈不死王の指輪〉を発動させ、〈彗星斬り〉を使う。この手順なら必ず勝てるはずだ。

 決闘相手であるヴィスカー・コーエンは、しなやかな体躯を持つ油断のならない気配の男だ。おそろしく強いことは間違いないが、迷宮深層の冒険者と一対一で戦えるほどではない。注意すべきは装備だ。

 レカンが一歩目を刻んだ瞬間、ヴィスカーは呪文を唱え始め、五歩目を刻むと同時に唱え終えた。

「〈ガスパーリオ・ラーフ〉」

 レカンは剣を振り上げたままの姿勢で硬直した。転倒はせずにすんだが、体はぴくりとも動かせない。

(なにっ)

(ばかな)

 銀の指輪も〈ハルトの短剣〉も装備している。毒や呪いにかかるわけがない。〈インテュアドロの首飾り〉を装備しているのだから、魔法攻撃も通らないはずだ。

 ひげ面ににやにやした笑いを浮かべながらヴィスカーが近寄り、右手に持った長大な曲刀で〈ラスクの剣〉をたたき落とした。

 そして曲刀を一閃させ、鋭い剣筋でレカンの首を薙いだ。

 レカンの肉体の防御力は常人には想像もできないほど高い。ヴィスカーの斬撃は、首を斬り落とすには至らなかった。とはいえかろうじて生きているというだけのことであって、喉首は大きく斬り裂かれ、血が噴き出している。このままでは死ぬ。喉を切られているので呪文が唱えられない。

 ヴィスカーは後ろに跳び下がると腰に差したナイフを左手でつかみ取り、投擲した。

 そのナイフはレカンの胸の中央に刺さった。

 爆発が起こり、レカンは吹き飛ばされた。

「レカァァーーーン」

 背中から地に落ち、意識が途絶える寸前、誰かの張り裂けるような悲鳴が聞こえた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 最初のセリフはレカンだと思うのですが「やあ」というのがなんだからしくないなと思ってしまいました。
[一言] 卑怯とは言うまいね、というヤツですね。
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