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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第42話 求婚決闘
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 翌日、ゆっくり起きたレカンは、遅めの朝食をとっているとき、それに気づいた。

 早々に食事を終え、その場所に向かった。迷宮広場のなかに、その人物はぽつんと立っていた。

 シーラである。

「驚いたな。こんなところで何をしている」

「できたよ。ほら」

 シーラはどこからともなく〈ウォルカンの盾〉を取り出した。

「おおっ。直ったのか。さすがだ」

「魔石を寄越しな」

 レカンは〈収納〉から、もとの世界の竜の魔石を出した。

「何て名前の竜だったかね」

「ヴルスと呼ばれていた」

「ヴルスね。わかった。じゃあ、決闘がんばんな」

「ああ」

 シーラはとことこと歩いてどこかに消えた。たぶんこの町のどこかに拠点を持っていて、そこに〈交換〉で転移してきたのだ。まったく恐るべき魔法使いである。


 八の月の十一日である。

 三人は九十階層の普通個体の部屋に入った。

 戦闘開始直後に五体の〈赤肌〉をエダが始末し、レカンが〈火矢〉で三体の〈黒肌〉の注意を引きつけた。

 レカンは三体の〈黒肌〉と戦いながら、ユリウスの動きを観察する余裕があった。

 やはり速度がちがううえに、出鼻を押さえて戦いを有利に運んでいる。

 そのあと二度、九十階層の普通個体を倒して階段部屋に進み、そのあとは各階層の階段部屋だけで戦った。さすがにここらの階層では階段部屋の順番待ちはなく、この日のうちに九十九階層まで進んだ。

 この日はエダにピジョーの魔力回復薬を使わせてみた。エダによれば、レカンの薬に比べれば回復は遅いし、効果時間も短いが、あるとないとでは段違いだという。

 さて、翌日となった。

 いよいよ百階層に挑戦である。

 薄青く光を発する壁や床や天井をみて、エダもユリウスも驚きの声を上げた。

「これが、百階層」

「明るくてとても奇麗ですね。ちがう迷宮に来たかのようです」

「二人ともよく聞け。この階層からは、今までとはいろいろちがう。まず、部屋に入ったらすべての魔獣を倒すまで出られない。ここまでとちがい、出てくる魔獣は〈鉄甲白幽鬼〉だけだ。武器による攻撃と魔法の攻撃と両方を放ってくるが、大抵の場合はどちらか片方が得意だ」

「九十九階層の敵より大きいの?」

「いや。この階層からは、いったん大きさが小さくなる。そうだな、たしかオレより頭一つ以上小さかったんじゃないかな」

「何体出るの?」

「侵入した人間の数と同じだ。つまり三体だな。ただし最大数は五なので、十人で入っても五体しか出ない。ああ、それから、部屋の大きさはぐんと大きくなる。そうだな、差し渡し百歩ほどもあるだろう」

「うわあ、広いね」

「その中央あたりに三体とも出現するはずだ。しかもこの階層から敵はかなり素早い。入り口あたりで〈浄化〉を撃ってもかわされてしまう」

「うん」

「まずオレが突っ込む。ユリウスはオレのあとに部屋に入ってオレの二歩ほど左側を走れ」

「はい。師匠」

「そのあとにエダだ」

「うん。わかった」

「エダはオレとユリウスの後ろから来い。オレとユリウスのあいだから敵を狙うんだ。三体のうちで一番後ろにいるやつを狙え」

「わかった」

 レカンは自分の首にかかった〈インテュアドロの首飾り〉をエダの首にかけた。

「え? レカン。これは」

「これを身に着けていれば魔法攻撃ははじく」

「でも、レカンが」

「オレにはこれがある」

 レカンは左手に装着した〈ウォルカンの盾〉を掲げてみせた。

 そして侵入通路に入った。敵が三体出現した。右側がロングソード、左側がハルバード、中央は棍棒を持っている。

「〈展開〉。いくぞ」

「はい」

「うん」

 レカンは部屋に突入した。盾を体の前に構えて突進する。

 ユリウスがあとに続く。そして左に並ぶ。

 三体の魔獣はこちらをみつめたまま動かない。

「〈火矢〉!」

 五本の〈火矢〉が右側の敵を襲う。相手はそれをかわそうとしたがかわしきれず、二本が体に当たる。

 その敵はレカンに向かって駆け出してきた。

 同時に左側のハルバードの敵がユリウスに向かって走り始める。

 中央の敵は動かない。持っているのは、どうも棍棒ではなく杖のようだ。

「〈浄化〉!」

 レカンが右側の相手と接敵する直前、杖を持ち上げた中央の敵に青白い光の玉が命中した。

 レカンは盾で敵の攻撃を受け止め、〈ラスクの剣〉で敵の首を斬り落とした。

 中央の敵は消滅している。

 ユリウスは横ざまにふるわれたハルバードをかわし、敵の右腕を斬り落とし、剣を返して敵の首をすらりと薙いだ。

 そして敵の首がぐらりと揺れて落ちた。

 恩寵品は出なかった。どうも中央の敵が持っていたのがそうだったようだ。

「エダ。ずいぶん遠くから〈浄化〉を撃ったな」

「相手がもっさり杖を構えてたから、当たると思ったんだ。それに、当たらなければ、二発でも三発でも撃てばいいだけだし」

「なるほど。ユリウス。今の敵はどうだった?」

「はい。確かにこれまでの敵とは速さがちがいます。でも里で剣を教えてくれた師父たちにくらべれば遅いです」

「そうか」

 エダもユリウスもまったく危なげがない。レカン自身も成長している。前回この階層以降では、〈オドの剣〉か〈威力剣〉でなければ戦えなかったのだ。

「さて、次の部屋に行こうか」

「うん」

「わかりましたっ」

 結局十七日までに、三人は百二十階層まで進んだ。ユリウスが斬られて傷を負うこともあったが、エダの手当ですぐに回復した。何度かユリウスは危機に陥った。そのときにはレカンが助勢した。一戦一戦が終わるたびに、レカンはユリウスに戦い方についての助言を与えた。

 百二十一階層には進まなかった。今のユリウスでは百二十階層の守護者とは戦えないとレカンはみたのだ。無理をすることはない。ここまで来れたのができすぎなのだ。そしてレカン自身も〈ラスクの剣〉でここまで戦えたことで、自分の戦闘力の上昇を実感できた。

 そのほかに気づいたことがある。

 レカンの〈炎槍〉はかわすこともある魔獣が、エダの〈浄化〉はかわせないのだ。

 どうもこの迷宮の魔獣たちには、〈浄化〉を攻撃としてきちんと認識できていないように思える。

 相手がたまたま高速で移動した場合には当たらないこともあるが、落ち着いて狙えば、まず、はずさない。遠距離でも動きのない敵なら当たる。そして〈浄化〉がかすっただけで相手は死ぬ。

 〈インテュアドロの首飾り〉を着けたエダは、この迷宮ではまさに無敵なのだ。

(いつかエダと二人で潜るのもいいな)

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― 新着の感想 ―
>>「はい。確かにこれまでの敵とは速さがちがいます。でも里で剣を教えてくれた師父たちにくらべれば遅いです」 このユリウスの発言でイリーズの里にはツボルト迷宮百階層の魔獣より強い者達が複数いるのが確定し…
[良い点] エダならもしかするとこの迷宮なら150階も簡単に踏破できちゃうかもしれませんね…… 遠くまで早く飛ばせる即死魔法は反則過ぎます……
[一言] 楽しく読ませて頂いてます。 個人的に、ご都合主義とか安易なチーレム展開が好きではないので硬派な作風とサクサク進むところが好きです。 やっとここまで読みました。 楽しく読ませて貰ってるんです…
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