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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第42話 求婚決闘
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 三日でツボルトに着いた。

 エダはもともと走ることが得意であり、好きだ。自身に〈浄化〉をかければ疲労も取れる。レカンにまったく遅れず走り抜いた。

 ユリウスは、体力こそ劣るものの、とても素直だった。くたくたになって倒れそうになっても、〈回復〉をかけて走れと命じたら、素直に走った。

 もちろん、〈加速〉の魔法を使った。

「いらっしゃい。悪いけど昼ご飯はもうちょっと……え? レカン? レカンじゃないか! あんた、あんた! 大変だよ。レカンが来てくれたんだよ」

「なんだって? おお! レカン。レカンじゃないか」

「やあ、ナーク。ネルー。部屋は空いているか?」

「いつものように二つ空いてるよ」

「そうか。長期滞在する。こちらのエダに一部屋。オレとユリウスに一部屋だ」

「エダです」

「ユリウスと申します」

「まあまあ、二人ともかわいいねえ。こんにちは。よろしくねえ。まさかレカンの子たちかい?」

「ちがう。ああ、ユリウスはアリオスの息子だ」

「ええっ」

「うそ、だろう? というか、あいつ結婚してたのか」

「予備のベッドはあるか」

「ああ、ある」

「料金はどうなる」

「長期滞在の場合、宿泊料は同じだ」

「そうか。ああ、明日の朝飯はいるが、そのあとしばらく帰って来ないと思う」

「よっしゃ。まかせとけ」

 その夜は〈ろくでなし(グリンダム)〉の三人や常連客たちと祝杯を挙げた。

 ツボルト迷宮の休眠は、二十日間だったという。

 ツボルト侯爵は、祝賀のため無料の食事や酒を広くふるまったり、剣の値段を下げて販売したり、あるいは無料の鑑定を行ったりした。そのため、冒険者たちは休眠期間を大いに楽しんだという。

 そしてツボルト迷宮が攻略されたという噂を聞いて、今冒険者たちが集まりつつあるのだという。

 その夜レカンは早めに寝た。

 寝ながら考えた。

 〈神薬〉を飲むべきか、どうか。

 欠損した手や足さえもとに戻るという奇跡のポーションだ。これを飲めばレカンのつぶれた左目ももとに戻る可能性が高い。シーラとノーマもそう言っていた。

 だがエダは、レカンの左目を治そうと〈浄化〉に磨きをかけている。

 どうしたらいいのか。

 いつだったか薬聖がレカンに〈浄化〉をかけようとしたとき、レカンはそれを断った。あのときは何と言ったのだったか。

 そうだ。エダの〈浄化〉が上達するか、それとも自力で〈神薬〉を手に入れるのを待つとレカンは言った。

 この〈神薬〉は自力で得たものかといえば、ちがう。人からもらったものだ。ここでこの〈神薬〉を飲むぐらいなら、あのとき薬聖の〈浄化〉を受けてもよかったのだ。

(よし)

(今はこの〈神薬〉は飲まない)

(飲むとすれば、オレが〈神薬〉を使わねばならない状態に追い込まれたときだ)

 少なくともこの決闘で、そんな状況に陥ることはないだろうから、当分この〈神薬〉の扱いについて悩む必要はない。

 その夜レカンはぐっすり眠った。

 翌朝、エダとユリウスをツボルト迷宮の受付所に行かせて鑑札を買わせ、レカンは売店で大量の食料を買い込んだ。

 支払いを済ませたとき、居合わせた冒険者の一人が、あれは〈蝙蝠魔人のレカン〉じゃないかと言い出したので、素早くその場を離れた。

 そのあとユリウスの胸当てとヘルムを買って、迷宮の入り口に向かった。

 三人で入り口の列に並んでいると、見張りの兵士がやってきて、先に通してくれた。〈ウィラード〉は優先的にしかも無審査で迷宮に入れるという申し合わせは、まだ有効だったようだ。

「ここの迷宮の魔獣は通路には出ない。部屋のなかにいる。魔獣の種類は一種類。妖魔系の魔獣で幽鬼族の白幽鬼だ。この階層では一つの部屋に一体しか出ない。エダ」

「うん」

「白幽鬼には〈浄化〉が効く、と聞いている」

「うん」

「最初の部屋ではお前が戦ってみろ」

「わかった」

 三人は手近な部屋に入った。そこには一体の白幽鬼がいた。エダは細杖をかざして呪文を唱えた。

「〈浄化〉!」

 ぽわり、と杖の先に青色の光球が生じた。

「あれ? あ、そうか」

 エダは杖を振って光球を消し、杖を左手に持ち替えて、右手の人差し指で魔獣を指さした。

「〈浄化〉!」

 青色の光球が生じ、素晴らしい速度で魔獣に向かっていき、魔獣にぶつかって体に吸い込まれた。

 姿がぼやけたかと思うと次の瞬間には魔獣が消え失せた。

「やった!」

「うん。見事だ」

 次に大型個体の部屋に進んだ。

「ユリウス。今度はお前が戦え」

「はい、師匠」

「ユリウス君、かわいい」

「剣で戦うなら、首を斬り落とすのが一番いい」

「はい、わかりました」

 ユリウスは美しいわざで一刀のもとに魔獣をほふった。

 そのあとユリウスに魔石の取り方を教えた。

 さて、階段である。

「よし。走るぞ」

「えっ? うん」

「わかりました、師匠」

 三人は走った。ほかの冒険者が何人かいたが、頭の上を飛び越すことはせず、少し速度をゆるめてやり過ごした。

 二階層でも、通路を走るようなことはしなかった。べつに急ぐことはない。いずれにせよ、そう深い階層までは行かない。

 二階層ではいきなり大型個体の部屋に入り、エダに戦わせた。

 階段はやや早足で歩いた。何人もの冒険者を追い越した。

 三階層でもすぐに大型個体の部屋、つまり階段部屋に入り、ユリウスに戦わせた。

(ふむ)

(ここらの階層のとろくさい白幽鬼ではユリウスの相手にはならんな)

「ふむ。次の階層からしばらくはエダが魔獣を倒せ」

「わかった」

 この日は九階層まで進んだ。やはり移動時間がかかる。階段部屋の順番待ちも二度あった。そして空き部屋で野営した。薪は昨日のうちに山ほど買い込んである。

 たき火であぶって食えば、保存用の乾燥肉もうまかった。スープは体を温めてくれた。


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