表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狼は眠らない  作者: 支援BIS
第41話 ヘレスとノーマ
468/702

16_17

16


 エダからはゴンクール邸に泊まるようにいわれたが、レカンは家に帰った。

 ゴンクール邸は、レカンにとってはあまり居心地がよくない。

 それにたった二晩のことなのだから、わざわざ宿を変えようとも思わない。

 家に帰るとアリオスがいた。

 そしてアリオスそっくりの少年がいた。

「レカン殿。これはユリウスといいます。私の息子です」

「息子がいたのか。というか、結婚してたのか」

「ええ。いたんです。それでですね。私の父は、あまり体の強いほうではなかったんですが、ひどく体調が悪くなったようなので、私は里に帰らないといけません」

「そうなのか」

「ええ。今後は里からほとんど出られなくなると思います。そこでお願いがあります」

「うん?」

「このユリウスをお手元に置いて、鍛えてやってもらえないでしょうか」

「ああ、かまわんぞ」

「ありがとうございます。ユリウス。ごあいさつしなさい」

「ユリウスです。よろしくおねがいします」

 動作も声も、妙にかわいい。

「ああ。よろしく。お前、いくつだ?」

「十三歳です」

「ふうん」

 長命種の寿命がどれくらいなのか、聞いたこともあったような気がするが、思い出せない。かりに二倍だとして、十三歳ということは、普通の人間でいえば六歳だということだ。だが六歳にはみえない。十三歳といわれて、まあそうかなと思う程度には育っている。

 その夜は、三人でお別れ会をした。家でではなく、店に行った。チェイニーに連れられて何度か足を運んだ店である。自分で料金を払うのははじめてだったような気がする。

 エダも呼び出そうかとも思ったが、それではジェリコが寂しがるかと思ってやめた。ゴンクール邸に足を運ぶのが億劫だという気持ちもあった。

 この夜、アリオスはよく飲んだ。

 レカンもたらふく食べ、たらふく飲んだ。

「明日この町を出るというが、その前にエダにはあいさつして行け」

「はい。そうします。シーラさんにもごあいさつしたいんですが、どこにいるんです?」

「知らんな。シーラはどこかに消えた。どうしてオレがシーラの居場所を知っていると思うんだ」

「何となくです」

「知っていたとしても、オレの口から言うわけにはいかん。知りたければ自分で探せ」

「じゃあ、今度会ったとき、私が感謝していたとお伝えください」

「ああ。ところでアリオス。オレは明後日この町を出て、しばらく帰らん。ユリウスはどうする? 連れていこうか?」

「うーん。レカン殿は王都には行かないんですよね?」

「オレは王都には行かん」

「では連れていってください」

「わかった」

 三人は、家に帰って寝た。

 翌朝アリオスは最後の朝食を作った。

 食事が終わり、片付けをすると、荷物を調えてレカンに深々と頭を下げた。

「レカン殿。今日までありがとうございました」

「ちょっと待て、アリオス」

「え?」

「最後にどこかの迷宮に一緒に行かないか」

「やめておきます。危険な予感がしますので。では、またいつか」

「ああ。またいつか会おう」

「父上。お元気で」

「君もね」

 こうしてアリオスは家を出た。エダにあいさつして、そのまま町を離れるのだ。


17


 レカンは、日中を買い物をして過ごし、ユリウスと夕食を取ったあと、シーラを訪ねた。

「今度は何の用ができたんだい」

「ペンタロス・フォートスとかいう貴族の代理人と決闘することになった」

「いつものことながら唐突だね。事情を説明してごらんな」

 ひとしきりレカンの説明を聞いたあと、シーラは少し考え込んだ。

「事情はわかったよ。それで? 何か相談があって来たんだろう?」

「一対一でオレに勝てるようなやつがいるかということと、この決闘で何に気をつければいいかということだ」

「ふうん。お茶を淹れてやるから待ってな」

「ああ」

 茶の香りを楽しんだあと、シーラがぽつりと言った。

「今のあんたに一対一で勝てるようなやつというと、この大陸全体でも、そうは思いつかないねえ」

「いるのか」

「人間ではいない。けどそれはあたしの知ってるかぎりのことにすぎないからねえ。あんた自身、いわば変則的な存在さね。ほかにもあんたのような変則的なやつが、どこかに隠されてないともかぎらない」

「なるほど」

「けどまあ、侯爵家から決闘の代理人に指名されるような家臣や身内となると、まあ、あんたにかなうやつはいないだろうね」

「そうか」

「ただし、装備については、かなりのものを持っていると考えたほうがいい」

「ふむ」

「早い話が、その〈不死王の指輪〉さね。そいつに匹敵するような恩寵品を持った相手と戦えば、運が悪けりゃ死ぬこともあるだろうね」

「こんな恩寵品がほかにもあるのか」

「あるといえばあるね。そういう特殊な恩寵品は、個人対個人の戦いではおそろしい威力を発揮するからねえ」

「個人戦だけじゃないだろう」

「いいや、個人戦だけさ。千人の騎士相手に〈不死王の指輪〉を使ってみても、すぐに効果が切れて袋だたきにされちまう。その手の恩寵品はとても強力だけど、戦争じゃ、あまり役に立たない」

「そういえばそうだな。ところであんたは、この指輪の効果を知ってるんだな」

「知ってるよ」

「ふうん」

「まあ、気をつけるこった。その指輪に匹敵するような恩寵品なら、一対一の決闘では決定的な場面を作れる。相手が何を持ってるかによっては、あんたといえども苦戦する。早めにけりをつけるこったね」

「わかった。ありがとう。あ、それから、アリオスがあんたに礼を言っていた」

「へえ?」

「おやじさんの具合が悪くなったんで、里に戻るそうだ。代わりに息子のユリウスというのを置いていった。鍛えてほしいそうだ。十三歳だと言ってたな」

「へえ。そうかい」

 レカンが去ったあと、シーラは自分のために二杯目の茶を淹れた。

「ふふ。まさかノーマがねえ。そうきたか。まあ、それはそれで悪くない。こっちの戦いも目が離せないね。幸運を祈るよ。みんなそれぞれ頑張ってるねえ。あたしも頑張らなくっちゃ。待ってておくれ、ジェリコ」

 シーラはひときわ大きな星に茶のカップを捧げた。


「第41話 ヘレスとノーマ」完/次回「第42話 求婚決闘」※次回は4月2日です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
「最後にどこかの迷宮に一緒に行かないか(その剣を寄越せ)」 レカンは欲求に正直ですね。 アリオスは流石の危機察知能力でした。
あ、アリオスの危険な予感ってそゆことかww
<迷宮から出たとき所持する物の所有権は所持者もしくは所持者たちにある>レカンは合法的(棒読み)に剣を手に入れようとしたのですね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ