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エダからはゴンクール邸に泊まるようにいわれたが、レカンは家に帰った。
ゴンクール邸は、レカンにとってはあまり居心地がよくない。
それにたった二晩のことなのだから、わざわざ宿を変えようとも思わない。
家に帰るとアリオスがいた。
そしてアリオスそっくりの少年がいた。
「レカン殿。これはユリウスといいます。私の息子です」
「息子がいたのか。というか、結婚してたのか」
「ええ。いたんです。それでですね。私の父は、あまり体の強いほうではなかったんですが、ひどく体調が悪くなったようなので、私は里に帰らないといけません」
「そうなのか」
「ええ。今後は里からほとんど出られなくなると思います。そこでお願いがあります」
「うん?」
「このユリウスをお手元に置いて、鍛えてやってもらえないでしょうか」
「ああ、かまわんぞ」
「ありがとうございます。ユリウス。ごあいさつしなさい」
「ユリウスです。よろしくおねがいします」
動作も声も、妙にかわいい。
「ああ。よろしく。お前、いくつだ?」
「十三歳です」
「ふうん」
長命種の寿命がどれくらいなのか、聞いたこともあったような気がするが、思い出せない。かりに二倍だとして、十三歳ということは、普通の人間でいえば六歳だということだ。だが六歳にはみえない。十三歳といわれて、まあそうかなと思う程度には育っている。
その夜は、三人でお別れ会をした。家でではなく、店に行った。チェイニーに連れられて何度か足を運んだ店である。自分で料金を払うのははじめてだったような気がする。
エダも呼び出そうかとも思ったが、それではジェリコが寂しがるかと思ってやめた。ゴンクール邸に足を運ぶのが億劫だという気持ちもあった。
この夜、アリオスはよく飲んだ。
レカンもたらふく食べ、たらふく飲んだ。
「明日この町を出るというが、その前にエダにはあいさつして行け」
「はい。そうします。シーラさんにもごあいさつしたいんですが、どこにいるんです?」
「知らんな。シーラはどこかに消えた。どうしてオレがシーラの居場所を知っていると思うんだ」
「何となくです」
「知っていたとしても、オレの口から言うわけにはいかん。知りたければ自分で探せ」
「じゃあ、今度会ったとき、私が感謝していたとお伝えください」
「ああ。ところでアリオス。オレは明後日この町を出て、しばらく帰らん。ユリウスはどうする? 連れていこうか?」
「うーん。レカン殿は王都には行かないんですよね?」
「オレは王都には行かん」
「では連れていってください」
「わかった」
三人は、家に帰って寝た。
翌朝アリオスは最後の朝食を作った。
食事が終わり、片付けをすると、荷物を調えてレカンに深々と頭を下げた。
「レカン殿。今日までありがとうございました」
「ちょっと待て、アリオス」
「え?」
「最後にどこかの迷宮に一緒に行かないか」
「やめておきます。危険な予感がしますので。では、またいつか」
「ああ。またいつか会おう」
「父上。お元気で」
「君もね」
こうしてアリオスは家を出た。エダにあいさつして、そのまま町を離れるのだ。
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レカンは、日中を買い物をして過ごし、ユリウスと夕食を取ったあと、シーラを訪ねた。
「今度は何の用ができたんだい」
「ペンタロス・フォートスとかいう貴族の代理人と決闘することになった」
「いつものことながら唐突だね。事情を説明してごらんな」
ひとしきりレカンの説明を聞いたあと、シーラは少し考え込んだ。
「事情はわかったよ。それで? 何か相談があって来たんだろう?」
「一対一でオレに勝てるようなやつがいるかということと、この決闘で何に気をつければいいかということだ」
「ふうん。お茶を淹れてやるから待ってな」
「ああ」
茶の香りを楽しんだあと、シーラがぽつりと言った。
「今のあんたに一対一で勝てるようなやつというと、この大陸全体でも、そうは思いつかないねえ」
「いるのか」
「人間ではいない。けどそれはあたしの知ってるかぎりのことにすぎないからねえ。あんた自身、いわば変則的な存在さね。ほかにもあんたのような変則的なやつが、どこかに隠されてないともかぎらない」
「なるほど」
「けどまあ、侯爵家から決闘の代理人に指名されるような家臣や身内となると、まあ、あんたにかなうやつはいないだろうね」
「そうか」
「ただし、装備については、かなりのものを持っていると考えたほうがいい」
「ふむ」
「早い話が、その〈不死王の指輪〉さね。そいつに匹敵するような恩寵品を持った相手と戦えば、運が悪けりゃ死ぬこともあるだろうね」
「こんな恩寵品がほかにもあるのか」
「あるといえばあるね。そういう特殊な恩寵品は、個人対個人の戦いではおそろしい威力を発揮するからねえ」
「個人戦だけじゃないだろう」
「いいや、個人戦だけさ。千人の騎士相手に〈不死王の指輪〉を使ってみても、すぐに効果が切れて袋だたきにされちまう。その手の恩寵品はとても強力だけど、戦争じゃ、あまり役に立たない」
「そういえばそうだな。ところであんたは、この指輪の効果を知ってるんだな」
「知ってるよ」
「ふうん」
「まあ、気をつけるこった。その指輪に匹敵するような恩寵品なら、一対一の決闘では決定的な場面を作れる。相手が何を持ってるかによっては、あんたといえども苦戦する。早めにけりをつけるこったね」
「わかった。ありがとう。あ、それから、アリオスがあんたに礼を言っていた」
「へえ?」
「おやじさんの具合が悪くなったんで、里に戻るそうだ。代わりに息子のユリウスというのを置いていった。鍛えてほしいそうだ。十三歳だと言ってたな」
「へえ。そうかい」
レカンが去ったあと、シーラは自分のために二杯目の茶を淹れた。
「ふふ。まさかノーマがねえ。そうきたか。まあ、それはそれで悪くない。こっちの戦いも目が離せないね。幸運を祈るよ。みんなそれぞれ頑張ってるねえ。あたしも頑張らなくっちゃ。待ってておくれ、ジェリコ」
シーラはひときわ大きな星に茶のカップを捧げた。
「第41話 ヘレスとノーマ」完/次回「第42話 求婚決闘」※次回は4月2日です。




