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「登場人物」に系図を加えました。
1
「いつになったら決闘の話になるんだ」
「すまないね、レカン。なかなか話が終わらなくて。しかし君も戦いの前には充分に相手のことを調べるだろう。今回のことがどういう経緯で起きてきたことかを知ってもらうのは、戦いの準備として必要だし有用だと私は思う。もう少しがまんして聞いてもらえないか」
「ああ」
レカンは、敵地に飛び込む依頼などの場合は、相手の戦力や逃走経路を頭にたたき込んでいく。だから説明を受けることが無駄だと思ったわけではない。
それにノーマの声は心地よい。半年間も迷宮で命を削るような日々を送ってきたあとなのだから、こんな心地よい声を聞きながら、半日だらだら過ごすのも悪くない。そしてまた、状況に平然と対応していくノーマの物語は、面白くもあった。
「しかしおなかがすいたね。ちょうど昼食ができたようだ。話をしながらつまめるものを準備させた。ちょっと行儀が悪いけれど、話しながら食べさせてもらうよ。レカンも、みんなも、食べながら聞いてほしい」
メイドが盆に載ったパンの挟みものを応接用のテーブルの上に、手際よく置いていった。それぞれ一人用に盛り分けてある。
レカンのものは、ほかの人の倍以上の量があるうえ、別に小振りに切り分けた肉をたっぷり焼いた皿を添えてある。
「さあ。いただこうじゃないか」
「食わせてもらう」
「いっただっきまーす」
「ジンガーも、フィンディンも、ほら座って、座って」
「はい」
「それでは、失礼して」
(ノーマはオレのことをよくわかっている)
(食堂に移動してあらたまった食事など出されたら)
(オレはいらいらしただろう)
無造作にフォークで肉を刺すと、口に運んでむしゃむしゃ咀嚼した。
(うまい)
(塩と香辛料を振っただけの肉だが)
(実にうまい)
そのままぱくぱくと肉を口に運び、時々は左手に持ったパンをかじった。といっても、大きなパンもレカンにかかれば、ほんの二口で消えてしまうのだが。
フィンディンが少し驚いたような表情で、レカンの食事ぶりをみている。そうでなくても大柄で精悍なレカンの容貌は、人に威圧感を与える。野獣のように大きな口を開いて、ばくばくと大量の肉とパンをかじるその姿は迫力満点だったのだ。
ジェリコには大型の盆に盛り上げたイェルコンテとサリゴナとマルフスが与えられた。魔獣が応接室で当たり前に食事している姿は異様なのだが、誰も驚いていない。つまり慣れているのだ。
レカンが少し落ち着いたのをみはからって、ノーマが話を再開した。
「では話を続けさせてもらう。宰相閣下とお会いしたところからだ」
2
オルバヌス・ラインザッツ
その名はノーマのような田舎の施療師でさえ知っている。
ザカ王国の政治一切を取り仕切る人物であり、ヴォーカのごとき地方都市は、この人物ににらまれでもしたら、ひとたまりもない。
その人柄や能力について、ノーマは何の知識も持たないが、オルバヌスは十五年にわたってこの地位を保ち続けているのだから、無能な人物では絶対にない。
「この国の二大貴族と、二大港湾都市の貴族のお見合いにつき、事前にお話しすることが間に合い、まことにけっこうなことです。さ、まずはお茶をどうぞ」
「お招きにあずかり、恐縮です。ノーマ・ワズロフ・ゴンクールと申します」
あいさつを返しながら、ノーマは違和感を覚えていた。
丁寧すぎる。
オルバヌスが持つ権力者としての地位や身分からして、あまりにノーマに対する態度が丁寧すぎる。
それがノーマの不審を呼んだ。
ゆっくりと茶を味わい、カップを皿に戻してから、穏やかな声で宰相に話しかけた。
「まことにご丁寧にお迎えくださり、恐縮いたしております。わたくしをワズロフ家の者として正式にお認めくださったと受け止めてよろしいのですね?」
宰相は柔らかな微笑を崩さなかった。だが、ほんの一瞬だけ、その目が鋭い光を発したのをノーマはみのがさなかった。
「ノーマ姫は、ワズロフ家の先々代侯爵の六男であるサースフリー殿のご息女なのですからな。もちろん、宰相府ではそのことを把握しておりますとも」
「私がローレシア姫の孫であることをお認めくださったのですね?」
宰相は、少し困った顔をした。
「ノーマ姫。系統譜を書き換えるというのは、容易なことではないのです」
ノーマはわずかに首をめぐらせて、家宰に声をかけた。
「フジスル殿」
「は、ノーマ様。私は昨日、宰相府に出向き、サースフリー様の母上がローレシア姫であると届け出、諸家系統譜の修正を求めました。担当の事務官は、私が持参した系図の内容を確認したうえで、修正を了解いたしました。その書き付けもございます。まちがいなく、届け出は受理されております。宰相閣下にお伺いいたします。昨日受理された諸家系統譜の修正が、今日になっても行われていないというようなことはあり得ず、また修正自体は行われていなくても、受理された以上、サースフリー様がローレシア姫の子息であると当家では認識していることを、宰相閣下もご存じのはずです。いかがでしょうか」




