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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第40話 白雪花の姫
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 ジンガーは、レカンから突然質問があると呼びかけられたことにとまどいながらも、はい、と返事をした。

「ノーマがゴンクール家の後継者になったいきさつは聞いた。それによって、父親の遺稿を本の原稿に書き直すという、ノーマにとって非常に重要な仕事を行ううえで都合のいい環境を手に入れたということもわかった」

「はい」

「だがお前はどう思う? ここは本当にノーマにとっていい場所なのか? そして当主後継者になるについてノーマがやったことを、お前はどう評価する?」

 ジンガーは驚いた。レカンという人物がノーマのことを信頼し、また大事にも思っていることは知っていた。強い心の持ち主であり、人を思いやることのできる人物だとも知っていた。

 だが正直、あまり物事を深く考える人間ではないと思っていた。感情や感性で行動してみて出会ったものを受け止めて生きている種類の人間だと思っていた。その行動力に感嘆していた。エダを救いにゴンクール家に突入したとき、このまねはできないと思ったものだった。

 そしてまた、今までノーマとレカンの会話を聞いたかぎりでは、レカンはノーマに言われたことはほぼ疑わずに受け入れてきたように思われた。それが、今ノーマ自身が自分の選択と行動について説明をしたその内容について、ジンガーに意見を言えというのだ。二つの質問事項は簡潔であり、急所を突いている。

 ともあれ質問に答えなくてはならない。

「そうですな。ゴンクール家に入ることにもよい点があります。また、施療所にとどまったとしても、そこに利点もあったでしょうな。そしてもちろん、施療所にとどまった場合、ノーマ様のお仕事の妨げになる要素も少なくありませんでした。ここに来たことによる問題点もあるでしょう」

「ゴンクール家の後継者になったために予想される問題を言え」

「それはやはり、ゴンクール家に予想外の事態が生じたとき、無関係ではいられないことです。否応なく巻き込まれてしまうでしょう」

「ああ。それはそうだろうな」

「しかしいずれにしてもノーマ様ご自身が納得して選ばれた道です。どちらの道を選ばれても長所も短所もあります。そこをどう通っていくかが大事なのではないですかな。そしてノーマ様には状況を受け止めて正しい通り方をみいだす力が備わっておいでです。ですから、選択肢が増えるということはよいことであったと思います。それから、当主後継者になられた際のありようですが」

「ああ」

「暗殺未遂というような非常事態のためとはいえ、いささかノーマ様は能力をおみせになりすぎたように思います」

「ほう」

「やり方が鮮やかすぎました。そしてノーマ様が神殿と領主様に顔が利くところをみせつけてしまいました。今はごく一部の注目を集めているだけですが、噂が広がるのは止められないかと」

「なるほど。フィンディン」

「はい」

「お前、ノーマがこの家の後継者に収まったことを、どう思ってる?」

 フィンディンはぎょっとした。そしてそれを不覚にも少しばかり表情に出してしまった。

 フィンディンは二の月四日に執事補佐に就くよう言い渡されてからの五か月間で、すっかりノーマに心服していた。ノーマを補佐し、ノーマが存分に活躍できるよう取りはからうことが、自分の役目だと考えるようになっていた。

 プラドはノーマに、何もしなくてよいと言ったが、何かをしてはいけないとは言わなかった。つまりノーマが自発的にゴンクール家のために何かをすることは、少しも差し支えないのだ。

 そしてこの二百日あまりで、ノーマのおよその考え方というか気質はつかんだつもりだ。ノーマの思考は深すぎて、とてもフィンディンには捉えきれないが、人となりはそれなりに理解できるものだ。

 ノーマの周辺についても、およそのことはわかってきた。そんななかで、一番の懸念がレカンだった。

(ノーマ様はとんでもない悪党にだまされているのではないか)

 なにしろ冒険者レカンといえば、いきなりゴンクール邸に押し入って、当主後継者だったゼプスを斬殺した犯人だ。あの夜の衝撃は忘れられない。

 聞けばレカンは、ゴルブル迷宮を二度、ニーナエ迷宮を一度踏破した凄腕冒険者だ。そういう人間には、どこかたががはずれたようなところがあり、倫理観が欠如している場合もあると聞いている。

 昔から、気立てもよく頭もよい女性が、つまらない悪党に引っかかってしまうというのはよくある話だ。ノーマにかぎってそれはないとも思うが、やはりそうなのかもしれないとも思っていた。

 だが今目の前にいるレカンからは暴虐の臭いはしない。やたら力を振り回す人間にはみえない。そして、ゴンクール家の人間であるフィンディンに、ノーマがこの家の後継者に収まったことをどう思うか、と聞いてきた。

 これはとんでもない質問である。もしもこの質問に対して、ノーマを褒めたたえて追従するような答えを返したら、その瞬間、フィンディンはその程度の人間だと判定されてしまうだろう。それどころか、ゴンクール家はノーマにふさわしい場所ではない、とレカンにみかぎられてしまうかもしれない。そしておそらく、レカンにみかぎられるということは、ノーマにもみかぎられるということだ。

(そんなことになってはならない)

(ここはこのかたに納得していただけるだけの答えを返す必要がある)

 フィンディンは、ごくりと唾を飲み込んでから、口を開いた。

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