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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第40話 白雪花の姫
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「王都だと!」

「ほう。君でもそんなに驚くことがあるんだね」

「オレは王都には行かん」

「今、よし、わかった、任せておけと言ってくれたじゃないか」

「う」

「これは王都に行かなければできない決闘なんだ」

「わけを話せ」

「うん。そうさせてもらう。少し長い話になる。ジンガー、お茶のお代わりを頼む」

「はい」

 ジンガーはドアを開けて廊下に待機していた侍女に湯を命じた。

 湯が来るまで、ジンガーにはすることがない。そのまま壁際に立って控えている。

 今、部屋にいるのは五人と一頭だ。レカンとノーマとエダはソファーに座っている。ジェリコは小さな木の椅子に座っている。そしてジンガーは入り口近くの壁際に、フィンディンはノーマの斜め後ろに立っている。

 先ほどからフィンディンの立ち位置をみて、レカンは意外な思いがしていた。

(そこはジンガーの定位置だと思っていたがな)

(このフィンディンとかいう男)

(ずいぶんノーマに信頼されているようだ)

「まず私がゴンクール家の後継者になったいきさつを説明しよう」

 ゴンクール家の後継者になったと聞いてレカンは驚いたが、顔には出さなかった。

 ノーマの語りは、本当に長かった。だがこの怜悧な女性が今ここで話すからには、レカンとして知っておく必要がある事柄なのだ。そう思ってレカンは静かに話に耳を傾けた。

 ノーマの父の本を刊行するという話の細かいことはよくわからなかったが、とにかく一の月二十一日に王都の筆写師ラクルスが到着したということと、アーマミール神官の手配りが驚くべき手際のよさだったことはわかった。

(あのじいさんは物事を取りまとめるのが得意そうだったからな)

(オレが戦闘の達人であるように)

(あのじいさんは組織運営や事業企画の達人なんだろう)

 そして、ラクルスという筆写師は、本作りの達人らしい。

 とにかく結論として、ノーマは非常に忙しくなった。その忙しさは決してノーマにとって不都合なものではない。それどころか、その事業は、ノーマにとってほかの何にもまして大事なことなのだ。

 次に、ヴォーカの町の貴族や薬師や薬屋がノーマをわずらわせていたこともわかった。そして患者たちでさえ、今のノーマにとっては重荷なのだということもわかった。

 そうしたときに、ゴンクール家から後継者になってほしいと頼まれた。

 当主プラド・ゴンクールは、ノーマの事情を理解しており、出した条件はノーマに非常に都合がよいものだ。

 まず、ゴンクール屋敷で生活すること。屋敷のなかでは何をしてもよい。父サースフリーの遺稿を編集するという事業に専念してよい。そのために必要なものは何でも使ってよく、必要なものがあれば購入するし、金や人手が必要なら準備する。

 プラドが生きているあいだも死んでからも、何もしなくてよい。つまりゴンクール家の後継者にはなってもらうが、ゴンクール家の運営のためには何一つしなくてよい。プラドが生きているうちはプラドが、プラドの死後はカンネルが実務一切を取り仕切る。カンネルの死後はフィンディンが取り仕切る。

 できればノーマには結婚はしてもらいたいとプラドが言ったという。それは婚姻によってゴンクール家当主の夫となり、うまい汁を吸おうとする者たちを寄せつけないためである。したがって、夫となる人物は、自分がゴンクール家の富や権力から切り離された存在であることを了解してくれるような人物でなくてはならない。

(それはノーマにとっても大事なことだな)

(わずらわしさから離れて執筆に集中したいのに)

(夫がややこしいことに足を突っ込んだら)

(ノーマまで巻き込まれてしまう)

 プラドの申し出を了承したノーマだったが、親族会議という試練を乗り越えなければならなかった。プラドが考えている対処にノーマは問題を感じたようだ。

「おじいさまの用意したプランはね。おじいさまという当主が揺るぎない存在として存在し続けることを前提にした面がある。それでは今はしのげても、将来は問題が起きかねないと私は思った」

(おじいさま、か)

(いつのまにかノーマはプラドに肉親の情を感じるようになっていたんだな)

 親族会議はノーマが立てた作戦で乗り切ることができた。他の町の有力貴族家がゴンクール家を傘下に置こうとした野望も打ち砕くことができた。

 ところがその有力貴族家が放った暗殺者にプラドが襲われた。ノーマはプラドの手当を行い、暗殺者を特定して神殿に送り、〈真実の鐘〉という魔道具で動かぬ証拠をつかむと、それを利用して暗殺者を放った家を、逆にゴンクール家の影響下に置くことに成功する。

(ふうん?)

(その戦術をノーマが立てたのか)

(驚いたな)

(だが考えたらノーマは大貴族の血を引いているし)

(頭脳はきわめて明晰だ)

(そういう陰謀とか策略とかいう分野に)

(生まれつき才能を持っていたのかもしれんな)

「以上が、私がゴンクール家の後継者に収まるまでの経緯だ」

「そうか。わかった。ジンガー」

「はい」

「聞きたいことがある」

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