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翌日、つまり四の月の三十一日からは慎重な戦い方をするようになった。
部屋に入るなり対物理障壁を張り、その状態で〈炎槍〉を連発して、充分弱らせてから〈彗星斬り〉でとどめを刺すのだ。魔法攻撃の効きにくい相手の場合、相手に攻撃させて疲れさせてから聖硬銀の剣を使い、アリオスと二人で一気に倒す。この日は第百三十一階層を踏破した。
当然、戦闘時間は一気に長くなり、魔石の消耗も増えた。攻略速度は格段に落ちた。一日一階層を攻略するのがやっとだ。
それでも何とか一日一階層踏破を維持し、三十四日には第百三十四階層を踏破した。
ここまでで出た恩寵剣は、すべてアリオスのものとした。〈即死剣〉〈雷鳴斬り〉〈魔空斬り〉である。
アリオスが特に喜んだのは第百三十四階層で出た〈魔空斬り〉だ。魔法剣である。アリオスの魔力でも魔法刃を発現させることができた。魔力負担は大きくなく、非常に高性能だ。実家にある魔法剣よりはるかに優れているという。
そのあと二日休養を取り、三十九日には第百三十七階層を踏破した。三本の恩寵剣のうち、〈鋼斬り〉の上位版と〈泥奇斬り〉をレカンがもらった。〈破邪剣〉はアリオスのものとなった。
一日休んで、五の月の一日から三日にかけて第百三十八階層、第百三十九階層、第百四十階層を踏破したが、敵はいよいよ手ごわくなってきた。
ここで三日間休養を取り、第百四十一階層からは戦術を変えた。とどめを刺すときに〈不死王の指輪〉を使うようにしたのだ。これにより、一日に一部屋しか進めなくなった。ということは、一つの階層を踏破するのに最短で五日かかるということである。
確実に〈不死王の指輪〉が使えるように、少しずつ探索開始時間を遅らせたので、五日目に〈守護者〉の部屋に入ったのは午後遅くになってからだった。
その第百四十一階層の〈守護者〉の部屋で、レカンとアリオスは驚くべき敵と出会った。なんとその魔獣は短距離転移を使ったのである。
最初は驚愕した。だがすぐに仕組みがわかった。
剣を空振りしたときだけ魔獣は転移をする。転移先は、剣を振った方向である。空振りせず何かに斬りつけたり、何かをはじいたりしたときは転移は失敗する。振る剣の軌道が乱れたときも転移は失敗する。転移の距離は剣を振る速さで決まる。最大の転移距離は五歩ほどだ。途中に障害物があるときは転移できない。
そうとわかってみれば対処するのはむずかしくなく、意外に早くこの敵は倒せた。
宝箱から出たのは〈転移剣〉という名の剣だった。
翌日一日休養を取り、十三日にはまた朝早くから迷宮に挑んだ。
この、五日かけて階層を踏破し、一日休養日を取って、次の日は朝早くから迷宮に入るというやり方で、六の月の一日には第百四十六階層まで進んだ。ここまでに出た恩寵品のうち、〈魔空斬り〉の上位版と、〈猿鬼斬り〉と、〈狼鬼斬り〉、それに〈転移剣〉はレカンのものとし、ほかはアリオスに譲った。
敵はますます強くなってきた。〈インテュアドロの首飾り〉による対魔法障壁と、〈障壁〉の魔法による対物理障壁と、〈不死王の指輪〉に頼った力技で攻略しているのだが、すでに敵の強さはこちらをはるかに上回っている。正面から戦えば瞬殺されるだろう。
こういう戦い方は、レカンも好きではない。いつもなら、少し浅い階層で力をつけてから下に下りるだろう。
だが今は面白い戦いをするために迷宮を探索しているのではない。
とにかくレカンとしては、早く最下層に達してこの迷宮の探索を終えたかった。
義務感に突き動かされているかのように、レカンは迷宮に挑み続けた。
少しずつ精神によどみがたまり、思考力が低下しているのは気づいていた。
それでもレカンは下に進んだ。
アリオスも、そんなレカンをとめようとはしなかった。
一度など、〈不死王の指輪〉を使うのが早すぎて、まだ相手に攻撃力がある状態で〈無敵〉の恩寵が切れた。たちまち危機に陥ったが、アリオスの助けで事なきを得た。こんな階層でもアリオスの剣は的確に敵を斬り裂いた。
ほとんどの場合、アリオスは傍観者であったが、やはりいざというときは頼りになった。もしもアリオスがいなかったら、レカンは迷宮の踏破を諦めていただろう。
それにしても、この迷宮はいったい何階層あるのか。
その答えは誰も知らない。
シーラに聞きに帰れば教えてもらえるかもしれないが、ヴォーカまで往復する時間があれば、最下層に着けるような気もした。
大きな疲労感に包まれながら、体を引きずるようにして探索は続いた。
六の月の七日には、第百四十七階層を突破した。
レカンは自分に二日間の休養を許した。
とにかく第百五十階層までは進んでみようと、レカンは心に決めていた。




