2
2
今度は右奥の部屋に入った。だが、障壁は張らず、無造作に魔獣に近づき、〈彗星斬り〉を抜いて、一気に敵の首を飛ばした。もちろん敵も攻撃してきたが、難なくかわすことができた。
魔力や体力だけではなく、今やレカンの反応速度も攻撃速度も筋力も相手の動きをみきわめる力も、以前より一段階上のものになっているのだ。そのため、あれほど脅威に感じた第百二十一階層の魔獣が、今は少しも恐ろしく感じないのだ。
「今度も宝箱が出ませんね」
「出んな」
次に左奥の部屋の魔獣を倒すと、中央奧の部屋に魔獣が湧いた。その魔獣を倒すと、階段が現れた。
「結局この階層では、〈彗星斬り〉が出たほかは、魔石だけでしたね」
「そうだな」
この日は、第百二十二階層も踏破した。いずれも障壁は使わず、〈彗星斬り〉の一撃で倒した。魔法を撃ってきた魔獣もいたが、かわすことができた。
「この階層でも五つの部屋のうち恩寵品が出たのは一か所だけで、あとは魔石でしたね」
「そうだな」
この階層で出た恩寵剣は〈鋼斬り〉といい、金属を斬るとき切れ味に大きな付加がつく剣だった。これはアリオスに譲った。こういう恩寵剣が存在することは知らなかったそうで、アリオスはひどく喜んだ。
「これを頂けただけでも、ここに来たかいがありました。でも私、何もしてませんけど」
「何かあったら助けてくれ。それに、ここまで来たんだ。最下層をみてみたいと思わんか」
「みてみたいですね。では、よろしく」
「ああ」
翌日、つまり四の月の二十九日には、午前中に第百二十六階層まで進み、昼食を挟んで午後には第百三十階層まで踏破した。
一つの階層には一つだけ恩寵品が出現し、あとは魔石しか得られないことがはっきりした。ただしその一つだけ得られる恩寵品の性能は、百階層までとは隔絶しており、百二十階層までと比べても格段にまさっている。そして五体の魔獣を倒して一つの恩寵品が得られるというのは、普通の迷宮で恩寵品が落ちる確率よりもはるかによい。ここはまさに宝庫である。
レカンは、得られた八つの恩寵品のうち、〈妖魔斬り〉と〈虫禍斬り〉を自分のものとした。
「お前も好きな剣を選べ。選ばなかったやつは売る」
「うーん。売るんですか」
「なんだ。売るのはいやか?」
「お金には困ってませんからね。どの剣もお金では買えない素晴らしい剣です」
「じゃあ、全部お前にやる」
「いいんですか」
「オレは〈彗星斬り〉をもらったからな」
そんな相談があって、〈岩石斬り〉〈谺斬り〉〈加速剣〉〈氷結剣〉〈爆炎剣〉〈残像剣〉がアリオスのものとなった。
三十日も迷宮に出かけた。
「おお! 蝙蝠魔人」
「がんばれよ!」
「今、何階層を探索してるんだっ?」
「もう第百二十二階層には進めたのか?」
「冒険者レカン、通れ」
この日の探索は第百三十一階層からである。
地上階層から〈転移〉して第百三十一階層に続く階段に飛んだ。
階層に足を踏み入れ、右手前の部屋に入った。そこでレカンは思わぬ不覚をとる。
そもそも前日は八つもの階層を一日で踏破したが、下層に行くにつれて敵が手ごわくなり、余裕は失われていた。それでも、対物理障壁も張らず、〈彗星斬り〉の一撃で、どうにか敵を倒し続けることができた。
この日第百三十一階層でもレカンは同じことをしようとした。それがまちがいだった。
駆け寄って相手をたたき斬ろうとしたレカンの〈彗星斬り〉は、空中で障壁に受け止められた。そして相手が突き込んできた短槍が、レカンの左胸を直撃した。
「〈炎槍〉」
レカンは体勢を大きく崩しながらも魔法攻撃を行った。だがそれは相手の張った障壁に阻まれた。
魔獣はレカンの喉元めがけて短槍を突き込んできた。
そのときアリオスが剣で魔獣の短槍をはね飛ばした。
短槍の槍先はレカンの顔のそばを通り過ぎた。
「〈ティーリ・ワルダ・ロア〉」
レカンは〈不死王の指輪〉の恩寵を発動させた。
アリオスが魔獣の首に斬りつけようとする。
魔獣は短槍でアリオスの剣をはじき、槍を返してレカンの顔に短槍を突き込んだ。
レカンは顔に小さな衝撃を受けたが、動じることなく聖硬銀の剣を取りだした。
そして魔獣の頭を断ち割った。
「〈回復〉」
もう少し短槍が深く入れば心臓に達するところだった。
宝箱が出た。
入っていたのは〈障壁槍〉という恩寵品だ。使用者に魔法攻撃が加えられたとき、自動的に障壁が発動する恩寵がついている。
「レカン殿。今日は帰りましょう」
「そうだな。そうしよう。お前、この槍いるか?」
「もらっていいんですか」
「ああ」
「すいませんね。私ばかり」
「オレは自分が欲しい物があれば先に取っている。遠慮はいらん。それに魔石は全部オレがもらっているしな」




