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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第38話 ベンチャラー家の凋落
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 ギルエントとハイデントが何の話をしているのか、詳しいことはもちろんレカンにはわからない。だがわずかな話の断片に、レカンとしてはうなずけるものがあった。

(冒険者はな)

(貴族に頼ったりすがったりはしないものなんだ)

(こいつらにはわからんだろうなあ)

 ギルエントはみずからレカンのカップに酒をそそいだ。

「レカン。わしは十三歳のときから十八歳のときまで、アリオス殿の叔父であるマクシル殿から剣を教わった。のちにわしの息子のパディエントもマクシル殿から剣を教わった。合わせて十一年のあいだ、マクシル殿はわが家に滞在されたのだ。といっても、ずっとおられたわけではなく、あちこちに出かけながらのことじゃったがのう。わしの父もマクシル殿の叔父にあたる人から剣の教えを受けたのだ」

 ギルエントほどの大貴族が殿などという敬称をつけて呼ぶのだから、アリオスの叔父という人物は特別な身分か立場を持っているのだろう。

「ハイデントは、十二歳のとき、つまり三十七年前から二十四歳のときまでゾルタンに剣を教わった」

「おもに剣以外のことを教えたと聞いたがな」

「はっはっはっ。そうとも。やつはとんでもない師匠だった」

「そこが気に入ったんだろう、あんたは」

「これは愉快。そんなことをゾルタンが話したのか?」

「ああ」

「お前にはよほど心を許したのだな。あ、そういえばアリオス殿」

「はい」

「ゾルタンは貴殿をみてマクシル殿とよく似ていることに気づいたと思うが」

「いえ。私は留守にしていて、ゾルタン殿とはお会いしていないのです」

「そうなのか。それは残念じゃな」

 外で騒ぎが起きている。〈グリンダム〉の三人が帰ってきたのだ。

「すまんが、外に立っている四人はあんたの部下だろう。今この宿に何年も泊まり続けている冒険者三人が帰ってきた。通してやってもらえないか」

「いいとも。バイアド」

「は」

 バイアドは外で待機している四人の騎士に領主の命を伝え、〈グリンダム〉の三人はなかに入ってくることができたのだが、領主が訪問中であると知って彼らはあわてた。

「レカン。ぼくたちは外で晩飯を食ってくるから」

「遠慮するな」

「遠慮するよ。侯爵様の前で食事なんか食ってもうまく……えへんっ。恐縮して食事なんか喉を通らない。じゃあ、あとで寝に帰ってくるから!」

 ブルスカはそう言い残してツインガーとヨアナを連れてどこかに行った。

 そうこうしているあいだに最初の料理が出た。

「これはうまい。野菜の味がよいな」

「ほんとですね、おじさま」

「ここの宿で作った野菜のはずです、兄上。そうだな、レカン」

「ああ」

「この前来たときにも食べればよかった。あ、それはそうと、レカン殿。ひどいではないか。パルシモ魔法騎士団の騎士ではないなら、ひと言そう言ってくれればよかったのに」

「オレはパルシモとは何の関係もないと言い続けたはずだがな」

「そうだったか? ところでワインはないかな」

「ナーク! ワインだ!」

「あいよー」

「ああ、主人。あとで手がすいたら、わしらにゾルタンの話を聞かせてもらいたいのだがな」

「は、は、は、ははーっ」

「ところでレカン」

「ああ」

「ゾルタンとの戦いがどのようだったか、聞かせてもらえんか」

「ああ」

 レカンはゾルタンとの戦いを、つぶさに語った。この世界で知られていない能力や、この世界でも希少なアイテムについては詳しいことは言わなかったが、隠れた場所にいる相手も正確に感知できる能力を持っていることや、魔法防御の障壁を自動的に張ってくれる装備があることなどは隠さなかった。また、ゾルタンの使った〈影刃〉や魔法障壁を消滅させる能力については事実そのままを語った。

 ギルエントたち四人は、驚愕を顔に浮かべながら話を聞いた。

「お前が並外れた強さを持つ剣士であることは、わしにもわかる。そのうえ、〈回復〉に〈火矢〉に〈炎槍〉に〈雷撃〉か。そして突風を起こす魔法に、離れた敵を岩の壁を隔てて察知する能力。迷宮深層の冒険者は常識でははかれぬ者たちだが、お前はまた別格だな」

「兄上、ゾルタン殿の能力もおそるべきものです。高速戦闘のさなかに呪文一つで魔法障壁を食い破るなど、パルシモの魔法騎士でもできないことでしょう」

「〈ウォルカンの盾〉を真っ二つにしたなどと、信じられません。いったいゾルじいの魔法剣というのは、どれほどの威力だったのか」

 立ったまま会話を聞いているバイアドが、自分の左手をみた。

 そこには〈ウォルカンの盾〉が装着してある。

「レカン。お前はゾルタンの魔法剣の破片は持ち帰らなかったのだな」

「ああ」

「そうか」

「折れた魔剣を持って帰ってもしかたがないだろう。あんた、あれを使いたかったのか?」

「いや、そういうわけではない。どのみち、わしには魔法剣は使えぬ。息子にも孫娘にもな」

「ほう」

 そういえば、この三人からはほとんど魔力を感じない。

「それがベンチャラー家の者が増長した一因なのだ、レカン殿。オルグ殿もトログも、かなり上級の魔法剣が使えたからなあ」

「ふうん」

「それにしても、本当に貴殿はパルシモの魔法騎士ではないのか」

「くどいぞ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] ベンチャラーは魔力だけはあったんですね グィスランを抱えてたなら犯罪を隠すのも上手かったんだろうなあ そりゃなかなか家を潰す機会がないわけだ
[一言] 何気ない会話の中にベンチャラー家増長の一因を話してあそこまで無道なのを表向き放置せざるを得なかった理由を明示するのがうまいですね さりげなく言うから言い訳がましくなくレカンに対して弁明を立て…
[良い点] 作品そのものが良い。 [気になる点] ゾルタンとアリオスが邂逅していたなら、 物語の行く道が変わっていたのかな? [一言] 物語の奥行きが果てしなくて、 すごくさみしいです。
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