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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第38話 ベンチャラー家の凋落
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 太陽は中天にあった。

(なんてことだ)

(もう昼じゃないか)

(オレはいったいどれだけ寝てたんだ?)

 ゾルタンとの決闘は、密度の高いものではあったが、時間はそうかかっていないはずだ。

 昨日は昼食のあと、すぐに〈ラフィンの岩棚亭〉に帰った。そしてそこからまっすぐに迷宮に向かった。日が落ちきる前に決闘は終わり、レカンは眠りについたはずだ。それなのに今はもう昼間なのだ。いくらなんでも眠りすぎである。

(さて)

(行くか)

 レカンは迷宮統括所に向かった。

 迷宮統括所の正面玄関は、迷宮とは反対側を向いている。レカンはぐるりと建物を回って正面玄関の前に立った。建物の横にも入り口があるが、目指す部屋までは、正面玄関からのほうが早い。

 〈立体知覚〉で建物の三階を探った。

 ぽっちゃりは、統括官執務室の横の会議室に二人はいると答えた。

 イライザと話をした場所が、たぶん統括官執務室だ。レカンはそう見当をつけて、統括官執務室の両側の部屋を探った。

(いた)

(これだな)

 執務室の右側の部屋に床に転がされている人間が二人いる。この距離からではあまり細かいことはわからないが、縛られているようだ。

(まさか昨日連れ去ってから)

(ずっとこの状態なのか?)

 統括官執務室の奥にある机の奥には誰かが座っている。たぶんこれがトログだ。

 周囲を探ってみたが、格別に戦力を集中しているという気配はない。まさかここが襲われるとは思ってもいないのだろう。

 さらにレカンは、今いる場所から三階の統括官執務室まで、どこをどう通ればいいかを〈立体知覚〉で探った。

(さて)

(行くか)

 三段の階段を上って、レカンは建物のなかに入ろうとした。

「迷宮統括所に何の用か」

 入り口に立っていた兵士の一人が誰何した。

「三階に知り合いがいるので迎えにきた。通るぞ」

「待て」

「〈雷撃〉」

 レカンの肩をつかもうとした兵士が〈雷撃〉を浴びてその場に崩れる。足止め程度のごく弱い〈雷撃〉のはずが、うっかり魔力を込めすぎたようで、かなり強い威力で発動した。だが死にはしないだろう。

 かつかつと進むレカン。

 襲撃だ、と騒ぐ兵士たち。

 広い一階ロビーをレカンは悠々と進む。

 三階への近道である右奥の細い階段に差しかかろうとしたとき、一人の騎士が後ろから斬りつけてきた。

「〈雷撃〉」

 騎士が倒れたが、レカンは振り向きもしない。

 二階を上がりきったところで、騎士一人と兵士五人が待ち構えていた。

「〈雷撃〉」

 うまく六人を一度に昏倒させることができた。

 かつかつと歩いて奥まった階段に進む。

 階段を上りきると、三階だ。

 階段を上りきったところで進路は仕切り壁に覆われていた。先ほどまではなかった壁である。魔力を使ったのが感じられたが、この巨大な仕切り壁は、仕掛けの魔道具によってせり出してくるようになっているようだ。

 レカンは右手を上げて、手のひらを仕切り壁に向けた。

「〈炎槍〉」

 軽く〈炎槍〉を撃った。

 軽く撃ったつもりだったが、予想外に大きく強い〈炎槍〉が飛び出し、仕切り壁に大穴が開いた。

「ふむ。〈炎槍〉〈炎槍〉〈炎槍〉〈炎槍〉」

 計五発の〈炎槍〉で、仕切り壁は崩れ去った。

 今日は魔法の調子がよい。異常なほどだ。百発でも〈炎槍〉を撃てそうな気がする。

 無人の廊下をレカンは進む。

 先ほどまで廊下には人がいたのだが、今は部屋に閉じこもり、息をひそめてようすをうかがっている。

 妙に静かな廊下にレカンの足音が響く。

 廊下の向こうで、騎士二人と兵士十人が部屋から出て廊下をふさいだ。その奥に、トログ・ベンチャラーが出てきた。

 ナークとネルーが捕らえられている部屋は、トログの後方にある。

 かつかつと靴音をさせてレカンが前に進む。

 騎士二人と兵士十人が抜剣する。騎士二人は左手に盾を持っている。

 その十歩手前でレカンは立ち止まった。

「ナークとネルーを迎えにきた。そこをどけ」

 騎士も兵士もレカンをにらみつけたまま、口も開かず、動こうともしない。

 レカンが前に進もうとしかけたとき、兵士たちをかきわけて騎士トログが前に出てきた。剣は抜いていない。左手には小さな盾を持っている。

 以前と装備がちがう。重装備だ。それでいて動きはやわらかいのだから、トログはかなり力量のある騎士だ。

(ずいぶんいい装備だな)

(恩寵品でかためたようだ)

(そのほかに魔道具も所持してるな)

(右腰の短剣に何か危険な匂いがする)

「君は迷宮に行ったと聞いていたんだがな。途中で帰ってきたのか?」

 落ち着き払った声だ。

 よほど自分の安全に自信があるのだろう。

「ナークとネルーを迎えにきた」

「その前に一つ確認させてもらいたい。君は本当にパルシモの魔法騎士ではないんだね?」

「くどい。オレは冒険者だ」

「ならば遠慮する必要もないな。もう一つ教えてもらいたい。〈自在箱〉はどこで手に入れた?」

 一瞬何のことかわからなかったが、すぐに思い出した。

 レカンの〈収納〉を、イライザはパルシモで開発された〈自在箱〉というものだと思い込んでいたのだ。

「あんたの言う〈自在箱〉がパルシモで開発された新しい〈箱〉のことなら、オレはそんなものを持っていない」

「ほう? どこか別のところで開発されたものなのか。ふむ。いずれにしても、手に入れてから調べればいい。君にはここで死んでもらおう」

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