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一瞬、レカンの動きが止まる。
すかさずゾルタンが次の斬撃を放つ。
だがその攻撃はまばゆい光を放って中空ではじかれた。
障壁が復活したのだ。
「〈風よ〉! 〈風よ〉! 〈風よ〉!」
〈突風〉を放ちつつ後ろに跳びすさる。入り口前の回廊を右に曲がった。
今度もゾルタンは追ってこない。
レカンは右端まで移動し、さらに壁に沿って移動した。
「〈回復〉! 〈回復〉!」
まずは自分に回復をかけ、大魔石二個から魔力を吸った。そして体力回復薬を飲み、手元に残った〈ウォルカンの盾〉の残骸を〈収納〉にしまった。
呼吸を整えつつ、ここまでの戦いを振り返る。
いくつかわからないことがあった。
まず、ゾルタンの魔法剣を〈インテュアドロの首飾り〉の障壁が防いだ。これがわからない。
〈彗星斬り〉を持っていた魔獣と戦ったとき、確かに〈彗星斬り〉は〈インテュアドロの首飾り〉の障壁をすり抜けた。それはまちがいない。だが、先ほどゾルタンの魔法剣はすり抜けなかった。
〈インテュアドロの首飾り〉は、外側から来る魔法ははじくが、内側からレカンが撃つ魔法攻撃ははじかない。だから、首飾りを装着したレカンが〈彗星斬り〉を振っても障壁は邪魔をしない。これはわかる。
だが、なぜゾルタンの魔法剣は防げたのか。
考えられることは、あの魔獣が特別なスキルを持っていたか、あるいは〈彗星斬り〉とゾルタンの魔法剣には何か質的なちがいがあるということだ。
おそらく後者だろうと思うが、今すぐには検証する方法も時間もない。とにかく首飾りの障壁は、ゾルタンの魔法剣を防ぐことができる。
次に、〈彗星斬り〉とゾルタンの魔法剣は、お互いを防いだ。魔法剣同士を打ち合わせると、お互いに相手を止めることができるのだ。
不思議な手応えだった。ふつうの剣同士を打ち合わせた感触とはまるでちがう。硬い物に剣を打ち当てたような感触ではなく、例えていえば手のひらで包み込まれたような手応えだった。
ゾルタンの一撃は、おそろしいほど重く威力がある。だが、剣を打ち合わせたとき、威力は完全に拮抗していた。魔法剣同士を打ち合わせたときには物理的な威力とは別の力が働くのだろう。
それと、ゾルタンは魔法剣で〈炎槍〉をはじき飛ばしていた。あんなことができるのだ。たぶん、〈彗星斬り〉でも同じことができるのだろう。あとで試してみなくてはならない。
次に、〈影刃〉だ。あれはもとの世界のスキルであり、魔法などではなかった。ところが、先ほどゾルタンが放ってきた攻撃は、疑いもなく魔法攻撃だった。〈魔力感知〉でもそれは確認できたし、何より魔法攻撃でなければ首飾りの障壁で防げるわけがない。
どうももとの世界とこの世界では、少しばかり魔法やスキルについてのあり方がちがうようだ。そしてこの世界では、もとの世界でスキルだったものが魔法に置き換えられてしまうことがあるのだ。
そういえば、もとの世界では魔法使いにはなれなかったレカンが、こちらの世界では魔法使いになれた。しかもレカンは精密な魔力制御のできる魔法使いらしい。それはどうも、〈魔力感知〉や〈立体知覚〉に習熟していたからのようだ。
それから、〈食え〉という呪文で発動するあのスキルだ。魔法障壁を消滅させていた。ゾルタンは必ず〈影刃〉で攻撃した直後にあのスキルを使っていた。たぶん、障壁が発動していないときには、障壁を食うことができないのだ。〈影刃〉に反応して障壁が青白い燐光を放ったとき、はじめて食うことができるのだ。
あのスキルは、二度目の攻防のときには失敗していた。一度目と何がちがったのか。レカンは右目を閉じて、その場面を思い出した。
あのときレカンは後ろに大きく跳躍していた。ゾルタンもそれに合わせて跳躍した。跳躍しながら呪文を発した。
(そうか!)
発動しなかったのではない。スキルは発動したのだ。そして障壁は食われた。ただし直前に〈影刃〉が当たって燐光を発した部分だけが食われた。けれどお互いに高速で動いていたから、魔法剣は障壁が消滅した部分に命中しなかった。だから障壁にはじかれたのだ。
そのあとゾルタンがやたらたくさんの〈影刃〉を放ってからあのスキルを使ったときには、ごっそりと障壁が食い破られた。そういうことだったのだ。魔法攻撃を受けて障壁が発現し青白い燐光を放つとき、その発現した部分だけをあのスキルは食うことができるのだ。
それからもう一つ。
ゾルタンの魔法剣は、〈彗星斬り〉と打ち合わせたときも、首飾りの障壁に打ち当てられたときも、激しい光は上げたが、硬い物同士を打ち合わせたような音や手応えはなかった。だが、〈ウォルカンの盾〉で防いだときは、金属と金属がぶつかり合う音がしたし、そういう手応えがあった。
あれは明らかに〈彗星斬り〉とはちがう。なにしろ〈彗星斬り〉は〈ウォルカンの盾〉をすり抜けてしまったのだから。
いや、あれは〈彗星斬り〉の魔法刃部分だったからかもしれない。
そういえば、ゾルタンの魔法剣は、魔法をそそいでも長さは変わらなかった。もとの剣身の周りに魔法刃が生成されただけだ。つまり盾などの硬い物ならあの魔法剣を防ぐことができる。もっとも、よほどの防御力があるものでなくては、簡単に断ち斬られてしまうだろう。
(待てよ)
(ということはあの魔法剣の魔法刃は)
(維持するのにほとんど魔力がいらないということか)
(ということはやつは長期戦を戦える)
(こちらはそうはいかんがな)
レカンは右目をみひらいた。
考察の時間は終わりだ。
レカンは〈ザナの守護石〉を取り出し、魔力をそそいで守護石を魔力で満たし、ポケットにしまった。
そして大魔石を取り出して魔力を吸った。守護石にそそいだ魔力はさほどの量ではなかったが、こうして休憩しているあいだにも、〈彗星斬り〉は多量の魔力を食う。魔石はまだまだあるが、こんなに多量の魔力を使い続けることはレカンの経験になく、このままの状態をそう長くは続けていられない。
そして何より、これほどに高まった闘志を持続できる時間は、あとわずかだ。
(次だ)
(この次で必ず決める!)
貴王熊の外套を脱いで〈収納〉にしまう。
防御力は大幅に下がるが、より素早く精密な動作をするためには外套を脱いだほうがいい。
大青ポーションを取り出して口に含む。
〈収納〉から盾を取り出す。もとの世界で得た盾だ。〈ウォルカンの盾〉には及ばないが、きわめてすぐれた防御力を持つ盾である。
盾を左手に持つと、レカンはゾルタンのいる場所に向かって歩き始めた。




